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没落令嬢の異国結婚録  作者: 江本マシメサ
◇番外編◇

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番外編 リー・リンのザン家観察日記

〇月×日


 奥様と旦那様が結婚されて早くも半年。ザン家は大きく変わったように思える。

 まず、家の雰囲気が明るくなった。

 今までどんよりと暗く、大奥様と旦那様が喧嘩した日には、息苦しいほどピリピリしていたのに、この変わりよう。

 今は親子喧嘩をすることはあるものの、奥様が緩衝材となる。

 奥様が喧嘩しないでと訴えたら、大奥様と旦那様のピリピリとした空気が和らぐのだ。

 本当に、奥様の存在には、皆助けられている。


〇月△日


 旦那様はとにかく食が細い。特に、具合が悪い日は、何も口にしないことがほとんどだった。

 しかし、結婚してからというもの、旦那様の具合が悪くなるたびに、奥様が病人食と呼ばれる胃に優しい料理を作るのだ。

 奥様手ずからの料理だからか、はたまた食べやすいものだからか、旦那様は具合が悪くても料理を食べるようになった。

 旦那様は、奥様から与えられたものは無駄にすることない。

 奥様からの愛も、きちんと受け取っているように見えた。

 愛の力なのか、旦那様は以前よりも健康になったような気がする。

 いいこと尽くめだった。


 □月▽日


 変化があったのは旦那様だけではなく、大奥様もだ。

 最初は奥様のことを認めていなかったけれど、だんだん情にほだされていっている。

 大奥様本人は認めていないようだけれど。

 奥様は、大奥様のことを慕っているのだ。

 キツイ言葉をぶつけられてもさほど気にせず、遠慮なく甘え、頼っている。

 本当の母親のように思っているのかもしれない。

 そんなことが繰り返されるうちに、大奥様は奥様のことが可愛くて可愛くて仕方がないように思えてきたのだろう。

 今は、何かと奥様が何をしているとか、どんな様子だとか、聞きたがる。

 自分から話しかけたらいいのにと思うが、素直になれないお年頃なのかもしれない。


 □月〇日


 奥様が料理人達に何かを教えていた。

 なんでも、『保存食』と呼ばれる異国の文化を教授しているらしい。

 奥様は、『コンフィ』と呼ばれる、肉の油漬けを作っていた。

 作り方は難しくないようだ。

 まず、肉に塩と香辛料を揉み込み、一晩放置。

翌日、油をひたひたに入れた鍋に肉を入れ、低温でじっくり加熱する。

その後、油と肉を冷やし、瓶に詰める。これで完成だ。

冷暗所ならば、一ヵ月はもつらしい。

燻製以外に肉の保存方法を知らなかったので、驚きだった。

今度、家で試してみたい。

そう言うと、奥様は嬉しそうに微笑んでいた。


△月〇日


 フゥァン・シィァン様がいらっしゃる。目的はもちろん、奥様だ。

 旦那様のいない時間にやって来るので、奥様は困っているようだった。

 フゥァン・シィァン様にとっても、奥様は癒しの存在のようで、お茶を一杯だけ飲んで帰って行かれる。

 話す内容は、庭に花が咲いたとか、市場で大安売りをしていたとか、ささやかなものだ。

 フゥァン・シィァンは孫と遊ぶ爺のように、表情をほころばせている。

 しかし──それが、ついに旦那様にバレてしまった。

 当然ながら、フゥァン・シィァン様は吹雪の中に晒されたかのような旦那様の視線を浴びている。

 間に挟まれた奥様は、居心地悪そうにしていた。

 フゥァン・シィァン様は逃走を図ろうとしたが、すぐに捕まってしまった。

 旦那様は大変嫉妬深い。

 相手がフゥァン・シィァン様でも、容赦しないのだ。

 触らぬ神に祟りなしというが、触らぬ旦那様にも祟りなし、なのだ。


△月×日


 大奥様が、お出かけの土産として、饅頭を奥様に買ってきていた。

 自分で渡しに行きたいけれど、素直にはなれず、饅頭を持ったままソワソワしている。

 このままではいけないと思い、奥様を大奥様のもとへと呼んだ。

 やって来た奥様は、大奥様の帰りを喜んだあと、目ざとく饅頭の存在に気づく。

 大奥様は、押し売りにあって仕方なく買ったと言い、奥様に饅頭を押し付ける。

 理由はどうであれ、奥様は饅頭を喜んだ。お茶を淹れてくると言い、部屋を飛び出す。

 大奥様は「饅頭なんかであんなに喜ぶなんて、まだまだ子どもね」と冷ややかに言っていたが、表情は嬉しそうだった。

 やはり、まだまだ素直にはなれないらしい。


△月▽日


 旦那様は疲れた顔で帰宅する。心配した奥様が、「ぎゅっとしたら元気になるよ」と言った。ちょっとした冗談のつもりだったのだろう。

 しかし、旦那様は本気に受け取って、奥様を抱きしめた。

 茹でたタコのように真っ赤になった奥様を、旦那様はじっと愛でているように思えた。

 奥様の言う通り、旦那様は元気になったような気がする。

 不思議なものだ。


◇月◇日


 奥様は旦那様と交換日記をしたいと言い出した。旦那様はすぐさま応じる。

 疲れて帰った夜、食堂の卓の上に奥様が書いた交換日記が置いてある。

 それを見た旦那様は、肩を揺らして笑っていた。

 いったい、何が書かれてあるのか。

 それは、旦那様のみが知ることである。それを見た使用人も、つられて笑顔になる。

 夫婦の日記帳を通じたやりとりを、微笑ましく思っているのだ。

 奥様はすごい。旦那様と大奥様だけでなく、ザン家全体を明るくしてくれるのだ。

 いつまでも、仲良く暮らしてほしい。

 心から、そう思った。

挿絵(By みてみん)

ビーズログ文庫様より、5月15日に『没落令嬢の異国結婚録2』が発売することになりました。

こちらは、webにはないオリジナルストーリーで、春の新茶まつりと宮廷茶会に招待されるお話となります。

シン・ユーとおかーさんの嫁愛が深まる一冊となっておりますので、お手に取っていただけたら嬉しいです。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

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