どろ
「さ、ここが我が家だよ」
私はこの5年随分頑張って生きてきたと思う。
まず、第一に死にたくない、第二に食べられたくない、第三に奴隷も嫌だ、とブレずに思い続けてきたから今もこうして人並みの生活が成り立っている。
それと、使い魔の草くんがいることが大きい。
草くんとの出会いはこの世界に来たばかりの草原で、あれから5年……いろいろ、本当にいろいろあったなぁ。
「あ、あんた……すげぇな」
「お兄ちゃん」
「兄ちゃん」
「うーん。まず、お兄さんはギルドで戦闘奴隷に変更して魔物狩りしてお金稼いでもらって。君らは家事してね。部屋は三人一部屋で、庭と私の部屋には近づかないこと。それ以外はその都度聞いて」
この世界で庭付き一戸建て手に入れるの大変なんだからね。まぁ、小さいけど。
「それじゃあ、三人とも後で夕食ついでに買い物にいくからそれまでは自由行動で」
三人は戸惑って目がきょろきょろ踊っているけど、私は気にせず自分の部屋に入り鍵を閉めた。
◆◆◆◆◆
「草くんただいまぁ。報告がありまーす」
我が家で一番広い部屋の、一番陽当たりの良い巨大な出窓。もう出窓じゃなくで普通に庭へ繋がるガラスドアと呼んでも過言ではない、草くんのためにリホームした特別製。その広い出窓にドンと置かれた植木鉢の中に、草くんは眠っている。栄養満点の土や肥料、水、そして光合成を得て、彼は……特に大きくならなかった。
「よく眠れた?」
毎年、一年に一度だけ花を咲かすぐらいで他になにか成長かしたわけでもない。ただ、言い暮らしをしているだけ。まぁ、そうそう大きくなられたんじゃエプロンのポッケにも収まらなくなるしね。
「んー、あっ!またエンゼルちゃんと喧嘩したでしょ!?窓が果物の汁だらけじゃない…」
それと、仲間が増えた。
名前はエンゼルちゃん。真っ白な天使の羽のような花びらを沢山重ねた大輪の花を咲かせる……なんだろ。うーん、木?とにかく細い小さな木で、花が散ると沢山の果物を実につける。食べるとほっぺが落ちそうなほど美味しいけど、見た目はトゲトゲで皮が凄く固いし、怒ると幹をしならせ実を飛ばしてくるから超怖い。我が家へ侵入しようとした犯罪者もエンゼルちゃんに退治される運命にある。
「あとでちゃーんと、掃除……しなくていいよヨ」
私が叱っている間中、蔓をうねらせ怯えていた草くんは、ピタリと動きを止めこっちをじっと……見てるのかな?目も口もないし、そんな気がするだけだけど、一応言い訳っぽく目をそらし話すことにした。
「あー、のね?今日はエルフを買ってくる予定だったじゃない?でもね、あー、人間買っちゃった!……さんにん」
あ、蔓が波打ち始めた。う、うねうねが、うねうねが激しくなってきたぞ!
「いや、その、ほら、使えなきゃまた売ればいいし!ね!?今は家事とかしてくれる人も必要じゃない!」
「うー……ごめん」
「ね、許して?」
モノ言わない植物相手に、こうやってるのを誰に見られたら……こわっ!まぁ兎に角、あの同郷さんたちともうまぁく付き合っていかなきゃ行かないしなぁ。
「ま、とりあえず一緒に窓掃除するから!」
ってことでかるーく流そうとしたら、後頭部を蔓が打つ事件もあったけど、まぁそれはまた今度。