<序幕>第一節「リザルディアと呼ばれる世界」
※序説で世界観を体感できるように執筆中です。
今、あなたが目にしているのは、中世ヨーロッパを思わせる湖畔に建つ石造りの洋城。
煙突のように突き出た屋根が3つ、高くそびえ立っている。
荘厳で神秘的な佇まいだが、正門には大きな十字架が掛けられていた。
その城内の広大な大広間。
中央には、宝石や金銀細工で豪華に装飾された巨大な楕円形の『鏡』が据えられていた。
そこに今、一人の妊婦が鏡に両手を押し当て、苦しげに唸っている。
「あぁ……カーム神さま。どうか元気な子をお与えくださいませ……どうか!」
「さあ、もう少しですよ。カーム神の御心のままに身を委ね、鏡に祈りなさい」
近くには白装束を纏った司祭のような人物が数人。
ここは、どうやら教会の礼拝堂のようだ。
妊婦は鏡を食い入るように見つめながら、念じ続けている。
「どうか。どうか。我が子に神の祝福たるスキルをお与え下さいまし!」
妊婦は鏡に両手を押し当て、懇願するように力を込め続けた……。
額にはじっとりと汗がにじみ、見るからに体力を消耗している。
周りを取り囲んでいる数名の白装束の男たちは、ただその光景をじっと見守っている。
---その数分後---
鏡全体が眩い白い光に包まれ、母体を優しく包み込んだ。
目がくらむような神々しい光は更に輝きを強める。
「オギャー……! ウンギャーア!」
元気な産声と共に、赤子はこの大地に生を受ける。
……ただし母体ではなく『鏡』から。
鏡から生まれた赤子は、すぐに周りの司祭たちに高級そうな真っ白いローブで包まれていた。
この不可思議な現象と共に、母体のお腹は正常に戻っていた。
そう。この世界では「鏡から生を受ける」のが通例となっていた。
ここは『カーム神』の加護に守られた世界『リザルディア』。
6つの国からなる大地で、各地に自然出土した『鏡』が点在するのが特徴だ。
『鏡』は気づくと “そこ ”にあり、触れた者に様々な奇跡を起こしてきた。
奇跡を目にした者たちは、ごく当たり前に『鏡』の周りに集まり、
それが街を、そして国を為し、現在の文明を形成していた。
『鏡』から生まれた子には、生まれながらに固有の“スキル”が与えられており、
生涯を掛けて、それを育てていくことを期待されている。
「この子の洗礼名は……、カロスとする」
司祭の一人が、白いローブに包まれた赤子を見つめて、そう告げた。
鏡から出生した赤子には、両親から与えられた名前の他に「洗礼名」も与えられるのだ。
「では、あなたはラクス=カロス=シューリンね」
母親は、まだ整っていない呼吸を落ち着かせながら、我が子の顔を覗き込んだ。
「司祭さま。この子のスキルが分かるのは、いつ頃でしょうか?」
「概ね三年後です。子供がスキルを発現させ始めた頃、再び教会へお連れください。
そこで鑑定を受け、認定カードを授与いたします」
「そのカードで、この子の将来が決まるのですね……」
「ええ。スキルは、この世界で生きるための大切な力です。ですが、どうかお忘れなく。
二十歳頃には、もう一度、鏡の判定を受ける機会があります」
「まあ……! その時には、もっと素晴らしいスキルを授かることも?」
「可能性はありますが……今は何とも申し上げられません。
鏡の判定は絶対ですので。必ずしも望む結果が得られるとは限りません」
「そうですか……。とにかく、大事に見守りますわ。司祭さま方、この度はありがとうございました!」
挨拶すると、母親はローブに包まれた赤子を愛おしそうに抱いて教会を後にする。
それと入れ違いに、数人の若いギルドパーティが騒々しく入室してきた。
「よぉ、司祭さま。クラスアップチャレンジ、今、行けるかい?」
「ふむ。ちょうど手が空いたところです。認定カードを見せなさい……炎術、Bランク……ですか」
「今は……な。だが、ギルドクエストで充分経験は積んできた。大丈夫だと思うぜ?」
「自信は大いに結構。全てはカーム神様の思し召しです。それでは一人ずつこちらへ」
そう言うと、先ほど赤子が誕生した同じ鏡の前に案内する。
威勢のいい赤毛の青年は、司祭に断りもなく、鏡に両手をつく。
「さぁ! カーム神様ぁ! 新たなスキルを与えてくれ! さぁ!!」
鏡はぼんやり白く光り始める。あの赤子のときと同じように。
しかし、その後に変化が生じた。
鏡の光は白から「緑」に変わっていき、その光は一際大きく輝いて静まっていった。
「おいっ! ちょっと! まってくれよ!」
炎術の青年は悲痛な叫びをあげるが、鏡の光は完全に消えてしまった。
「うむ。『スキル保留』ですな。カーム神はさらなる精進を期待されておられます」
「そんなはずないだろう! 炎系スキラーの中ではギルドトップの成績なんだぞ」
「戦果だけがクラスアップの条件ではありません。また20年後に再チャレンジできますので。
精進なさい」
「ふざけんな!」
『鏡の判定』は色によって異なる。
“緑”は『保留』、つまり現状維持で次のチャンスを待つしかない。
赤毛の青年がいきり立ったそのとき。
「分をわきまえろよ、レスター!」
レスターと呼ばれた赤毛の青年の両手両足が、瞬く間に凍り付いていく。
ギルドから来たパーティの後方から、青い目の長身で長髪の青年が現れ、
そのスキルでレスターを組み伏せる。
その左手には、円陣に魔法陣が浮き出ており、凍てつく冷気が放たれていた。
「司祭様。申し訳ございません。我が愚弟をどうかお許し下さいませ」
「……大丈夫ですよ。もう少しでこちらも“手が出る”ところでしたが」
そういってほほ笑む司祭。その指先には、収束した光の刃が揺れていた。
カーム教の司祭になるには、Sランクスキラーが必須と言われている。
それは『教会内で何かあっても対処できる』ことを示していた。
「では、改めまして。他のメンバーも順番にどうぞ」
司祭が笑顔で促し、メンバーは順に両手を鏡についていくが、
一様に“緑”で発光しており『スキル保留』となった。
「最後は私だな」
さきほどレスターを組み伏せた冷気使いの青年が鏡の前に立った。
「……私は、より深くダンジョンを攻略したい。このパーティを世界に知らしめるために。
頂点に立ちたい……」
念を込めながら両手を鏡につく。すると、
≪パァァァァァァァァァァァ≫
鏡がひとしきり“青く”美しく光り輝き、男は光の中に吸い込まれていく。
「兄貴!」
姿が見えなくなり、思わず近づくレスターを仲間が制しつつ、
司祭は一歩前に進み出て、両手を大きく天へ広げる。
「ハイスキラーの誕生です!」
光はゆっくりと穏やかになり、その輝きは収まっていった。
長髪の男は、何が起こったのか把握できていない様子で、ただ呆然としていた。
「おめでとう、合格ですよ」
そう言って、司祭は手を差し伸べる。
男は状況を理解すると同時に、ハッとした表情で額を床に擦りつける。
「ありがとうございます! ありがとうございます!
司祭様。カーム神に心から感謝を申し上げます!」
「“行い”が良かったのですね。さぁ、頭を上げて。
明日もう一度来なさい。スキル判定を更新する手続きがあります」
「はい!」
パーティー一行は賑わいながら教会を後にしたが、レスターだけ恨めしそうにしていた。
……それもそのはず。
スキルはランク分けされており、今後の勉強や仕事にも大きく作用するからだ。
炎や雷、氷など、自然現象に近い発現をするスキルは「B」ランク。
戦闘に長けており、前線で戦うファイターやメイジタイプだ。
治癒や蘇生など、医療に匹敵するスキルには「A」ランク。
ヒーラーは戦闘時はもちろん、平穏時でも病気や毒を治療できるため重宝される。
そして結界術や召喚術など、特異なレアスキルは「S」ランクなど、「S~E」ランクまで等級がある。
各地にある『ダンジョン』と呼ばれる巣窟では、数多くのモンスターが確認されているため、
Bランク以上のスキラーたちには冒険者ギルドに登録してもらい、調査や討伐を行ってもらっている。
一方で、「投影」「模倣」「測量」といった“一般スキル(C級)”は、教師や技術者といった職業に就く場合が多い。
「さて今日は、ここまでですな。補佐の皆さまもお疲れ様でした」
「司祭様、奇跡の場に立ち会えて光栄です。また明日も宜しくお願い致します」
「はい。すべてはカーム神の御心のままに」
周囲の白装束の補佐官を含め全ての人払いを済ませると、司祭はゆっくりと広間の扉を閉めた。
本日も何事もなく、教会の一日は終わる。
すべてはカーム神の御心のままに……。
<序幕第一節 了>
次回、<序説>第二幕「スキルを持たぬ者たち」、執筆中です。




