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神の遣い  作者: Moa
20/29

19.5話(番外編1)


ーー?/桐子ーー


 「二人とも厠へ立て」

「なにゆえ、かく急ぎしや?」

「力ずくにて囲はむ気よ」

慌てふためくたまと六助に上衣(うわぎ)を着せ、廊へ()ずべき時を見計らう。

「今じゃ。早まるでないぞ」

たまが不安げに幾度も振り返った。屋敷の遠くに男八人。

(かくのごとき美人をめとるとは、若も羨ましきことにや)

(勢いある一色家の縁談を断るなど、いかにぞ)

(世を知らぬ生娘(きむすめ)よ。弱き護衛ひとりをば連れ、旅せんとは。遅かれ早かれ、痛き目に()はんぞ)

刀二振りを腰に差し、人に見られぬよう屋敷の内を進む。


 曇り空の下、厠の陰に二人が息を潜めて待つ。

「これより更に暗くなるというのに、何処(いずこ)(のが)れむと?」

「ついて来るのじゃ。声を出すな」

刀一振りを六助に渡し、足早に敷地を出る。薄暗き道を駆け足に進み、民家のそばにて止まる。

「足音を立てるでないぞ」

深く息を吸いつつ、静かに歩く。民家より話し声がまばらに聞こえた。


 道の向こうに男八人。田のそばの民家の陰に二人を押し込む。

「いかにしてなされしや?」

たまが小声で問う。

「追手とすれ違うだけじゃ」

男どもが通り過ぐるを息を(ひそ)めて待つ。目の前にて一人が立ち止まった。

「少しばかり小水を」

近づき来たる男が真横の木に小便をかける。たまが唾を飲んだ。用を足し終え、衣を正す。しきりに匂いを嗅ぐと、周囲を見渡した。此方(こちら)を向く。音を立てずに右手を刀に添え、構えた。

「おーい、早うせい」

男が背を向け、立ち去る。

「よき匂いせん気せしなり」

「野郎の小便の匂いなど、誇ること(なか)れ」

男どもが笑いつつ去りゆく。静かに民家から離れ、駆け足で進む。

「足音を立ててもよろしきや?」

「長くはもたん」

息を切らしつつ、三人にて山へ向かった。


 (あの者どもは何処(いずこ)にぞ!)

(先ほどまでは、此方(こちら)に)

(くそっ、(のが)れられしや。急ぎて探せ。いまだ遠くまで行きたらぬはずなり)


 (見出(みいだ)せしや?)

(何処にもおらぬなり)

(かくの夜に、何処へ逃れむとするか)

(先ほど小水を致しし時、女の匂いを覚えたり)

(それを早う申さぬか!松明を(とも)せ!)

「やはり気付かれしや」

「ひめ、様、少しゆるりと」

たまが息を荒げつつ、歩き始めた。

「もはや何も見えませぬ。山越えなど狂おしきことぞ」

(わらわ)とたまは女ゆえ。そなたは斬られよう?」

六助が黙る。狭き坂道、布を掴ませ二人の前を行く。


 (この辺にもおらぬか)

(松明を皆寄越(よこ)せ)

(なっ、暗闇にての山越えなど)

(体力ある三人にて先に行く。そなたらは人を増やし、もう一度探すべく伝えし後、装備を整えて後を追い来い)

(たかが女子(おなご)一人に、)

(それすらも出来ぬのかと(そし)られよう。死なれては難儀(なんぎ)にて、山向こうへ立ち越えられては、もはや手出し叶わず)


 「いかにして、闇夜において昼のごとく歩み得るや?」

「目が良いのじゃ」

山を登り切りしところにて、休息をとった。追手が迫る。

「さぁ、後は下るばかりじゃ」

布を長く掴ませ、早足にて進む。湿りし夜風が木々の葉を揺らした。


 (はぁ、はぁ、山越えなど、しておらぬのではないか?)

()らば、よきことなり。向こうにて、すでに捕らえておろう。どこかにて我らをやり過ごせども、後の者らもおる。出口にて待ち構うのみよ)


 山を抜け、村までの一本道に至った。

「常の屋敷へ行け。風呂と衣を用意しておくのじゃぞ」

「ひ、姫様!何処へ行かれるや!」

おののく二人を顧みず、来たる道を返り行く。刀を抜き、鞘を捨てた。


 向かい来たる三人の男。刀を背に隠し近寄る。

「何者ぞ!」

真中の男が松明を掲げた。

見出(みいだ)したり!」

「よくぞここまで逃げ延びたることよ。して、他の二人は何処に?」

「、、、」

「まぁよい、向こうにて捕まっておろう」

三人が刀の届く位置まで近づくと顔を上げる。

(こっちじゃ)

三人が慌てて振り返り、何もなき後方を松明にて照らした。

「ぅぐ」

左手に見ゆる男の心の臓に刃先を入れる。(うめ)き声を聞き、真中の男が松明をこちらに向けた。男より刀を抜けば、たちまち倒れる。右手に見ゆる男が刀に手を掛けた。左より刀を振るえば、斬られし手より離れたる松明が隣の男に当たる。

「ぐぁあ」

「あっ、あちっ、あちっ」

衣に移りし火を消さんともがきのたうつ男を横目に見つつ、手を斬られて膝をつきたる男の脇へと回った。此方を向きたる男と目が合う。刀を左に振り上げ、左手にて押し込むがごとく振り下ろす。

「ゴトッ」

「ひぃっ」

辛うじて火を消し止めし男は、転がる首を見ておののく。歩み寄れば、尻を擦りつつ後退(あとずさ)った。

「い、命ばかりは、たすけ、給え、、」

「遅かれ早かれ、じゃろう?」

男が目を見開く。

「ばけもっ、、、」

落ちたる刀を拾い、山を下る五人に向かう。

「この身にて二刀流か。血にまみれそうじゃのぅ」



ーーたまーー


 風呂を沸かす火が熱い。姫様が消えた後、何も見えぬ夜道を刀にて地を叩きつつ、辛うじて屋敷にたどり着いた。折しもその時、厠に起き出でたる主人に声を掛け、快く迎え入れられた。

「たま殿、明かりを(たずさ)え、ついて参れ給え」

六助が水を()みて戻った。風呂に水を足し、松明を携えて井戸に向かう。頬に冷たき雫が当たった。


 風呂が沸く。姫様は戻らず、雨が降り始めた。

「六助、護衛ならば迎えに()かぬか」

「それがしは追手に見つかれば討たるるのですぞ」

「軟弱者め!」

松明を携え、屋敷を出た。次第に雨強まり、濡れたる衣が体を冷やす。

(あの姫様が死なるるはずなき)

早足で進みければ、目の前に誰か(あらは)る。

「ひ、ひめ、様?」

(乳房?裸?)

「風呂は沸いたか?」

「姫様!」

駆け寄れば、衣(まと)わぬ姿の姫様が体を擦っていた。

「お怪我は?顔より血が!」

「返り血じゃ」

「衣はいかがされしや?」

「捨てたわ」

歩みつつ、顔を天に向け雨を浴びる。濡れし松明の明かりが弱まりし後、あっという間に消えた。

(こんなはずでは。また何も見えぬ)

「ふっ、ついて参れ」

姫様のか細き指が手を引く。

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