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神の遣い  作者: Moa
21/32

21話 (柳、永海)


ーーいと/柳ーー


 「ただ今、立ち帰りて侍(はべ)り」

「大事はなかりしか?」

御主人様の座敷にて、旅の由(よし)を申し述(の)べる。ふと隅に目をやれば、見慣れぬ焼き物が置かれていた。

「こ、これはな、市にて安く売られておりしゆえな、、、」

懐(ふところ)より割符(さいふ)を取り出す。居住まいを正して割符(さいふ)を畳の上に置き、押し出した。

「これなるは、掛け売りの代と一月の費(つい)えにて」

「常々、不便をかけるのう」

顔をほころばせ、手に取る。

「い、今少し、何とかならぬものか?」

「姫様にうかがうてみん」

「いや、桐子にはの、よしなに申せ」

「承知仕(つかまつ)りたり」

座敷を後にし、土間へと向かう。散らかった台所を伊助が整えていた。

「下女を雇うべき銭まで使い果たすとは」

「食の物も、ほとんど無うなりたり」

「はぁ、掛け売りにて飢えをしのぐなど」


 二人にて片付け終えた頃、与吉が輿を担ぐ二人の男と共に来た。手際よく輿より物を出し、台所へ運び入れる与吉らに、置く所を指し示す。男らを見送った与吉が甕(かめ)の蓋を開け、匂いを嗅いでいる。

「たまには夕餉を御馳走してくれまいか?」

「疾(と)うお行き。おかみさんに叱らるるよ」

「ではでは、また明日な」

不満げに裏口より立ち去った。

「たまには良きではありませぬか?」

「かような良き物ばかり食せば、姫様のごとくなりてしまうわ」

(根のもの、葉物、白き米に醤(ひしお)、味噌。いずれも日々食せる物にあらずというのに)

米を炊き、汁は濃い目に仕立てた。


 「お味のほど、如何(いかが)にてございましたか?」

「先(ま)ず先(ま)ずじゃな」

「別の具にいたすほうがよろしきや?」

「ふっ、猶(なお)も心にかかりておるか」

歯の隙間に爪を立て、衣にて指を拭く。

「採れたての地の物に勝(まさ)るものなどあるまい。魚を捕りてより京まで、幾日(いくひ)かかると思うておるのじゃ?」

「さらば、この献立にてよろしゅうございますな?」

「これまでの下女どもに比(ひ)すれば、よくこそ拵(こしら)えおるな。つつじ屋のたまなどは、’食らはば足るべし’と言い捨ておったわ」

「かねてより気にかかりて侍(はべ)れば、あそこの主人にお目にかかりたることなかりき」

「与吉は鶴屋に居るぞ」

「与吉? 割符(さいふ)屋にてございますか?」

「あの家の男は皆与吉よ。常々取りに行きておろう?」

「左様でありましたか。先の家にては、割符に触るることなどなかりしゆえ。さるにても、御主人様のことにてございますが、、、」

「割符を出(い)だせ」

懐より取り出し、姫様の前に置く。一枚を手に取り、座敷を出て行った。

(ただ渡すことなどあろうか)

「き、桐子、止(とど)めよ!」

何かが割れる音。何事もなかったかのごとく、姫様が戻ってきた。

「よろしきや? 安物にはあらぬとお見受けせしが」

「焼き入れが足らぬわ」

(焼き物にまで詳しきとは)

横たわろうとする姫様のため、膳を片付ける。



ーー永海ーー


 寝支度を整えし後、山海と共に掛海様の居間へ向かう。弥太郎と山へ入りて、疲れが身に堪(こた)え来る。大きなる麻袋に栗を盛りこぼし、指が赤う腫れたる。

「答え出でたりと思うておるか?」

「いよいよ険しき様にこそ見ゆる」

夕の勤行(ごんぎょう)も山海に任せ、居間へ戻りおはしたり。

「山海と永海に御座います」

「入られよ」

山海と並びて座りぬ。

「あの者は、獣にて在(あ)りし折の記憶を有(も)てりと申すそうな」

「菩薩なりしか!」

驚きぬる山海を宥(なだ)めつつ、右平次様との語らいを聞きたり。


(弥勒(みろく)菩薩までもおはしますとは)

夢幻(むげん)の如き物語にて、山海はただ黙しおりぬ。

「永海、高野山にて修行して参られよ」

「お大師様も下生(げしょう)なされしとぞ?」

「何事か起こりつつあるらむも知れず」

「時宗聖(じしゅうのひじり)のごとく、銭に目くらみて侍ればなり。かくのごとき所へ、永海を遣わし候うか?」

「そなたよりも、恙(つつが)なう仕りなむ」

「乱闘の騒ぎを起こすべき様は候はず」

山海が此方(こなた)を睨み据えたり。

「学侶(がくりょ)として十分に成し得べき様、教え来ると言えども、明日よりはいささか厳しう教え参らせん」

「年明け比(ころ)にや、なり申すべきか?」

「否(いな)、春に神様に御目文字(おんめもじ)を遂(と)げ、事の次第を問い奉りてよりのことなり。何を仰(おお)せられ候うとも、用意ばかりは仕り置かねばならぬ」

「畏(かしこ)まり申し候」

山海と共に居間を後にしたり。

「聖方(ひじりがた)が教えに背(そむ)くゆえ、かくなるのなり」

「未だ然(さ)ると決まりし次第にはあらぬなり」

「あやつらの如く、安易なる信仰に染まるるべからず」

煩(うるさ)き山海を放っておき、僧堂に入ればすぐに筵へ横たわりぬ。

「明日はまた栗を食うべきぞ」

琳海が嬉しげに、何やら呟(つぶや)きておる。

「然(さ)もありなむ」

「くふふふふ」

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