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神の遣い  作者: Moa
12/27

12話


ーーいと/柳ーー


 近江の海へ至る山を越え、道の広くなる(ところ)にて列が止まる。先頭を覗き見れば、武士の衆が待ち構えていた。前の護衛が武士の(かしら)と話している。

「賊でありましょうか?」

「されば、(すで)に襲われておろう」

数人の武士が此方(こなた)に迫り来たる。その後ろには輿(こし)を担いだ四人の男。目の前の爺が騒ぎ()だし、後の護衛が制した。

「無礼者!放さんか。儂はまだ帰らんぞ」

前の護衛が後の護衛に何かを言うと、二人で爺を抱えて輿に押し込む。草履を(むし)り取り(すだれ)を下ろすが、降りんとすれど頭ばかりはみ出した。

「恐れながら、止め(たま)えませ」

簾を抑えつつ護衛の二人は目を合わせて頷くと、輿を担いだ男どもが動き出す。後の護衛が草履を手に輿に付き添い、武士らも後を追う。

「おのれ裏切ったな!覚えておれ」

騒がしき輿を見届けし前の護衛は、高らかに笑う姫様を睨み付け、列の先頭に戻った。

「何事でありましょう?」

「義満じゃ」

(いずれ)の方に?」

「足利じゃ」

「く、公方(くぼう)様が此の列に?」

阿保(あほう)め。あの爺が()るのじゃろう」

斯様(かよう)御仁(ごじん)に?」

(にぶ)いのぅ、護衛を見てみぃ。伊助など刀を何本()びたとて(かな)わぬわ」

「こ、これは姫様が持てと命じたのではありませぬか」

若く華奢(きゃしゃ)なる身に二本の刀を帯びた伊助が頬を紅に染める。

「座の護衛とばかり。されど、なにゆえ一人残れるや?」

「そなたは良き屋敷、(ぜい)なる膳に疑いを抱かぬものか?まるで将軍家を迎えるかの如き待遇じゃろう?あの者は(わらわ)らが為、残ったのじゃ」

「やんごとなき御方とは知らず、、、伊助は知りておりしや?」

「二刀流と心得違いされ、勝負を挑まれたり」

袖をまくれば、腕に幾つか治りかけの(あざ)があった。

「己が身くらいは守れるようになれよ」

(若き者を護衛に雇いたるを(いぶか)りしが、左様のことか)

「夜の相手しか務まらぬのですね」

「かく言うてやるな、なかなかの物ぞ。いとも(こころ)みてみるがよい」

「なんと、はしたなきことを!」

笑う姫様の隣で伊助が頬を紅に染めた。

地下家(じげけ)なれども公家の娘というのに、いざという時は姫様が刀を握る気か)



ーー弥太郎ーー


 日が暮れて後、右平次が帰ってくる。先に夕餉を済まし、横になり背を向けた。幾日(いくにち)か前、右平次が母を泣かせた後、母は思い悩まぬようになった。二人はあまり語らない。夕餉を終えると空模様のこと、足らぬものはなきか、明日の漬物は何が良きかなどばかり話す。腹が満ちたりて眠くなる。

(米があるならば人の身も()からず)


 夜半(よわ)、厠から戻ると右平次が起きた。二人で囲炉裏の火を眺む。

「坊さんが何か知りぬるや?」

「薬をくれたが(かた)きことを言う分からぬ者じゃ」

「死して生まれ変わる事を’りんね’と申す。まさにそなたの事なり」

「皆そうじゃろ?」

「誰も獣の頃を覚えておらぬ。先の生が人なりとても、ことごとく忘れたり。あるいは’りんね’など、せぬやも知れぬ」

「どうせ忘るるものなら、いずれでもよい」

「坊さん()わく、大昔に一人のみ’りんね’を知れる者がおった。’ぶっだ’、’しゃか’、そして’ほとけ’と呼ばれたり」

「りんねしとるじゃろ」

「いずれの町や村にも大きな寺ありて、坊さんの頭にするは’ほとけ’になりたきゆえなり。その者らよりそなたが’ほとけ’に近いと思わぬか?」

「獣にそんな事は分からん」

「いづれにせよ、あの頭の者らに’りんね’を知られてはならぬ」

「知られればいかになる?」

「寺より()でざることとなる。死ぬるまであの者らに囲まれるであろう」

「米は食えるのか?」

「ま、まぁ、米は食えるが、、、肉は食えぬぞ。して、、、女子もおらぬ」

(今も肉は滅多に食えぬし、まだまぐあう気もおきん。山に入れぬのは嫌じゃが)

「童でいよう」

右平次が深き息を吐く。

「さらにひとつありけれど」

「右平次はよく喋る。おっかぁともっと話せ」

「そ、そなたの父の話になるであろう?また泣かれてはかなわぬ」

「うーん」

「神様の事はあまり話すべからず。そなたが会う坊さんは雨が降る事を教え給うが、神様に会っておらぬ」

「どうせ近くにおるじゃろ」

「まだ知らせてはならぬ」

「もういい。童のごとくじゃろ?」

話が続かぬよう、背を向けて横になる。

(獣の頃の事を父や母、村の皆に話しても笑われたが、右平次はやたらと聞く。坊さんも同じか)

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