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神の遣い  作者: Moa
13/32

13話 (兼煕、義満)


ーー吉田兼煕(かねひろ)ーー


 (あなや(まさか)、御所にて義満様が上座に向かいて、頭を垂れ奉(たてまつ)られしとは)

「このたびの不調法(ぶちょうほう)、申すもおろかながら、ただただ恐懼(きょうく)の至り、、」

「、の振る舞い、まこと心得難(がた)し。余が九条なると存じての所業や?」

御隠居様、声静かに言を発し給い、詫(わ)び言を断ちおはしにけり。広き座敷に男四人、場しづまりぬ。義満様、唾を呑みにけり。

「朝廷、二つに分かたれ五十余年を経ぬ。此春(このはる)、楠木(くすのき)の千早(ちはや)城を落とし、大覚寺の勢衰えにけり。天下泰平のため、某(それがし)、いかばかりの力にても御貸し被(むぶ)らるべく、ここに願い奉る次第に候」

「誰(た)がための天下泰平ぞ?」

「、、持明院(じみょういん)が、た、」

「かっかっか」

言を淀ませ給う声を遮る高笑いに、思わず顔を上げ奉れば、賤(しず)の者と見紛うばかりの御姿にて、翁がこちらを鋭く見据えおはしにけり。慌てて顔を伏せたり。

「義満よ、そなた持明院の御諒承(りょうしょう)も得ずして、両統迭立(りょうとうてつりつ)などと考えあらせぬことなるや?」

義満様と顔を見合わせたり。

(事漏れにけりや? あるいは、ことごとく御見通しにおはしますか)

「三種の神器さえあらば、万事、相成(あいな)るべきものと存じ奉る」

義満様、面を上げ給いて申しにけり。

「おそろしきや? 源氏の、風に吹かるるが如きを」

(海に沈みし剣の祟りと申され候や)

「相い争わずして事を収むる道、御教示被(むぶ)らりた願い奉り候」

「して、その代(しろ)は?」

「父上! 相成りませぬ。この者、九条の名を騙(かた)りて、約を違(たが)えんとする所業に候ぞ。左様なる事を為さば、末代まで誹(そし)られん」

「老いたる身にて結ぶ約なれば、死なば諸共か。そなた、良基(二条)に似通いておるのぅ」

「左様なる事、露ほども思い設(もう)けおはさぬ事に候。ただ、道を御示し被(むぶ)ららんことを、願い奉るのみに候」

「道とな。そなたの往(ゆ)く偽りの道は、行き止まりじゃ」

面を伏せ給える義満様、口元に力が入りたり。座中、また静寂(しじま)に包まれにけり。

「今宵は、ここにて宿りなん。明日は吉野へ参らんとす」

「父上! 屋敷へお戻りを。吉野へなぞ、決して参らせ申さじ!」

「忠基よ、壇ノ浦の轍(てつ)、踏むべからずぞ」

静かなる一言に、九条の当主様、押し黙りおはしにけり。



ーー足利義満ーー


 「はぁーーーー」

居所(いどころ)にて臥(ふ)し転(まろ)び、天井を仰(あお)ぎぬ。

「御隠居様が御力を被らるるに候な」

傍(かたわ)らに端座す兼煕が申したり。

「希代(けだい)の者、潜みおりしよ」

「藪をつつき給いしや?」

「蛇どころにあらず。大蛇(おろち)よ」

戯言(ざれごと)を発せしところ、心いささか軽くなりぬ。

「亡き良基様を諌(いさ)め奉りし、唯一の御仁におはしますれば」

「あやつより、九条の事など聞き及びたることなし」

(良基め、恐れておったのだな。草葉の陰より、常に覗きおりしよ)

「あなや御所に乗り入れおはすとは。輿に押し込め奉るは、いささか無体におはさぬか?」

「貞行にはそう申し付けしが、、、してやられしよ」

あまりの滑稽(こっけい)に、思わず笑いこみ上げたり。

「いかなることにて候か?」

「九条の当主よ。勝手に振る舞う親に一物あらん。怒りたる振りをなしつつ、二人にて我を笑いおりし」

「御隠居様のあの窶(やつ)れし御姿も、そのためにてありしや?」

「偽りの道よ。五摂家は格別と申しておるのだ」

「信を置き奉りて、よろしゅうおはすか?」

「あやつの申す通り、他に道はなし。当主ですら約を違えんことを見抜きおりし。兼煕よ、しかと支度致せ。雪の降らぬうちに、大覚寺を京へ遷(うつ)すぞ」

「御意に候」

(天下泰平より女を追うとはな。いかにも公家らしき所業よ。いや、我が頭を下ぐる時をこそ、待ちおりけれ)

「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)、九つ目の頭出(い)でたり。九つ目の尾にありし剣、海に沈みし剣の代わりに納められたり」

「九条に掛かる秘め事が!」

「ふっ、戯言よ。左様な作り事があれば、さぞ面白かろう?」

「九条に祟られかねませぬ」

二人ながらに、しばし打ち笑いける。

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