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64.過去と重なる

約2700文字


「え……? おばあちゃん?」


 その直後、マーキュリーの体は操られるようにして、来た道を戻っていく。


「え? 何!? おばあちゃん! おばあちゃん!!」


 その叫び声が祖母に届いたのかは分からない。


 それに――あの時叫んだからこそ、祖母が死んだのかもしれない。

 そうも思えてしまうのだ。


 いうことを聞かない体は、自分が動かすよりもスムーズに家へとたどり着く。

 そして戸を開け、押し入れへとその身を隠すのだ。


 声を出そうとした。また祖母の元へと戻ろうともした。

 それでも、この声は届かない。


 気持ちとは裏腹にこの体が全てを否定する。


 それはまるで、「外へと出るな」「誰にも見つかるな」そう言っているかの様だった。


 当時はただ、祖母のことで頭がいっぱいで、まともな思考なんてできないでいたけど、今になって思う。

 あの頃はまだ、魔女についての世間の認識が曖昧だったということを。


 「魔女の子供は魔女」言われれば誰でも信じてしまいそうな噂。


 もし、祖母が魔女だと村人にバレたら。

 もし、子供たちが祖母のことを村人に話したら。

 もし、あの場所に他の大人が駆け付けていたら。


 村人たちはどう思うだろうか。

 彼女の血縁に当たるマーキュリーのことを――。


 押し入れで隠れてからいくらかの時間が経過した。

 その間に、どれくらいの怒号を耳にしただろうか。


 とにかく、押し入れの中で物事を考えるには、十分すぎる時間だったと言えるだろう。

 と言っても、それらは有意義な物ではなかったが。


 動けると分かった時、マーキュリーは急いで押し入れから抜け出し、家を出た。


「おい……なあ……心臓が、心臓があるんだが……俺たちは……何をした?」


 それはすぐだった。家を出てすぐの場所に人だかりができていた。


「思い返せば、俺たちに襲われるときも、魔法なんて使ってなかったじゃないか!?」

「んなの知るかよ!! お前だって、魔女を殺してやるんだって息巻いてただろ!?」


 飛び交う怒号。


 人ごみの僅かな隙間から、赤い水たまりが目に入る。そこにだらんと横たわるしわくちゃな腕。

 それを祖母と認識するまでには、幾分か時間がかかった。

 ただ、子供とはいえ、そう単純でもなかった。


「もう、やめましょうよ!」

「うるせえ!! こいつは魔女だ!? そうだろう」

「きゃッ!!」


 半狂乱の男が仲介に入ろうとした女性を押しのける。

 それを受け止めようと、人混みが揺れた。


「……おばあちゃん……なんで……」


 村人たちのハッと気づいたかのような視線が、とても痛くて怖くて背筋が凍りそうだった。

 でもそれ以上に、頭から血の気が引いて止まなかった。


「なんで、誰もおばあちゃんを助けてくれないの? おばあちゃんは皆のことを助けようとしてたのに……?」


 ねえ――その言葉に対する反応はそれぞれだった。


 口を抑える者。

 吐き出す者。

 武器を握る手を強める者。

 目をそらす者。

 そして、マーキュリーを殺そうとする者――


「――おいバカ!! やめろッ!!」

「離せ!! あいつは魔女なんだ!! なら、ガキも魔女に決まってる!!」

「いや……婆さんには、心臓があっただろ……? いや、あっちまったんだよ……」


 「魔女は狩人で処理をする。民間人は決して魔女と敵対しないように」それが狩人たちが言っていたことだった。

 しかし、実際問題。こんな状態になって、どれくらいの人間がその言葉に従えようか。


「おばあちゃん……!! おばあちゃん……!!」


 バラバラになった死体。それの傍で泣き崩れても、誰もマーキュリーには手を貸さなかった。

 ただ、冷ややかに……同情のような視線を向けてくるだけだった。



 ◇



 あれから少しして、狩人が到着した。

 そして狩人は言ったのだ。


「この老婆は魔女です。ですが、この子供は違うでしょう」

「でも、婆さんは魔法を使わなかったし、心臓だって――」

「――運がよかったですね。それと、心臓がないなんて誰かがついた嘘ですよ? そんなものを信じていたんですか?」

「いや、そんな……そんな言い方」


 狩人のどこか怒りを含んだ言葉。

 正直、それ以降のことは、あまり覚えていない。


 その後は、孤児院に引き取られたけど、誰も信用できないままトラウマを抱えて生きてきた。

 誰かに本音を語るのがどうしようもないくらい怖くて、いつも恐怖心を隠すように人と話す。その繰り返し。


 自分でもどうしたいのか、何がしたいのかが分からなくなって、一人が寂しくて、自分を騙したくなった。

 だから私は、祖母の死の真相を探している。


 これが本心なのかは分からない。

 今でも祖母のことを思うと、悲しい気持ちで胸が締め付けられるし、何も考えたくなくなる。

 しかし同時に、この心の虚しさを埋めてくれるような気もしていた。


 そんな、中途半端な状態だった。



 ◇



 マーキュリーがリリステナを去った後のこと。

 彼女は、先日の騒動で荒れた街の中を歩きながら空を見た。


 その瞼の盃いっぱいに溢れる涙。それが零れて頬を伝った。


「私って、最低だ……」


 私は祖母が大切だった。

 そのはずなのだ。でも、それすらも信じられない。


 この浮ついた目標が、騙し騙しに生きてきた自分が、些細なことで回りが敵に見えてしまうこの目が、それすらも曖昧にしてしまう。


「こんなのだから、何も見つけられないのよ……マーキュリー……」


 それは、一つのアンサーとも言えただろう。

 フランクウッド、彼は確かに保守的だ。しかし、それは大人としての責任故なのかもしれない。


「流石、よく見てるじゃないの……」


 脳裏に彼の言葉がよぎる。

 「一人で情報を得られていない」それはあまりにも的確な言葉だった。

 事実が過ぎて、心が痛い。


「…………」


 もう、どうしていいのか分からない。

 マーキューリーは歩みをゆっくりと止める。


「やっぱり、私には……」

「マーちゃん!!」


 気持ちが、完全に沈みそうになったその時だった。

 後ろから伝わる勢いの良い衝撃と、ふざけたように明るい活発な声。


「……アンリー」

「さ、浮かない顔してないで、一緒にどっか行こ?」


 彼女は正面へと回り込み、ただ笑う。

 私を救うために、いつもよりも落ち着いた、柔らかな笑顔を向けるのだった。

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