47.状況整理(1)
「ふん!!」
下から持ち上げるようにハルバードを振り上げるクオーツ。その攻撃で裂ける楽器。そのままの勢い。ハルバードの重さ全てを載せて、自身の後ろへと更に振り下ろす。
「どうした、どうした!? 聞いていたよりも骨がないじゃあないかぁ!!」
身体強化の魔術をフルに活用し、クオーツは豪快に暴れまわる。
「クオーツ、俺たちの目的は魔女を直接叩くことや。雑魚処理はアズレアたちの仕事や。あんま、熱入れんなよ」
それを横目に、魔術を使うことなく的確に敵を処理していくホーンロッツ。
楽器の一体が頭に手をかけるタイミング。そこで別の敵を盾にするように戦い、攻撃を避けるべきか、防ぐべきか、受け流すべきか。それらをすぐに判断し、行動に移す。
半ば同士討ちのような状態へと持っていき、隙をついて強烈な一撃で頭部の一部だけを破壊する。
そうすれば、一時的にではあるが、楽器たちを蘇らせることなく無力化できる。それを彼は戦闘の中で見つけたのだ。
「がっはっはっは! わかってる、わかぁってる。何、お前とやれるのが楽しくてついな……」
「そうか、わかってんのなら、それでええ。行くぞ」
「おうよ」
◇
リリステナの一室で、フランクウッドは情報を整理していた。
現在、彼らは避難することなく、狩人との接触をできるだけ避ける事を重要視していた。
ヒューズが周囲の状況を探り、状況に応じて楽器だけと交戦を行う。
おそらく狩人たちと接触したとしても、こちらが敵対者だということはバレないだろう。
しかし、念には念をと言うものだ。
「さて、状況を整理しよう」
フランクウッドは机の上に資料を広げ、ランタンの僅かな明かりを頼りに、思考をめぐらす。ヘケロンの助けはもう見込めない。
しかし、彼が紹介してくれた人物と、その人物が調べてくれた資料は残っている。
現状、何が起きているのか、敵は何を狙っているのか、そして……自分に何ができるのか、それらをひたすら整理する。
まずは現状についてだ。
・急に魔女が現れた。
・大規模な災害。
・十年前の大災害に匹敵、もしくはそれ以上の事態。
・音楽が鳴り続けている。
・パレードのよう。
・シュバリエのような人影。
思いつく限りの情報を書き起こし、それらを再度整理する。
「現状としては、シュバリエ君に似た存在を生み出せる魔女が急に出現したと……規模としては未知数。魔女から離れても消えないことから、過去の大災害よりも被害は出ることが予測される。こんな所か?」
フランクウッドはペンを手にしたまま、顎に手を当て考える。
「次だ。ヘケロンの言っていたこと……魔女と狩人の対立が起きた現状との関係性はあるのだろうか?」
この対立構造の渦中にいるであろう、人物のリストアップからだ。
・シェリー・フルール(ロベリア?)。
・ユニ・フローラ(イフェイオン)。
・シュバリエ。
・ディガード。
・ヘケロン・オディクス……。
ヘケロン・オディクスも何かしらを知っている様子ではあるが、彼は傍観者の立場と、気まぐれでの遊び人としての立場を行ったり来たりしている。ひとまずは、情報整理からは外してもいいだろう。
フランクウッドはヘケロンの名前に打消し線を入れる。
「ディガードに関しても、まだ断定するには早い。ひとまずは分けて考えよう」
フランクウッドは資料と古い文献、そして自身が学んだ魔術式についてのメモを取り出し綺麗に並べる。
「魔術式の独学は骨が折れたが、やはり役に立ったな……」
時間をかけて書き写してもらった、この都市を取り囲む複数の巨大な術式。
それらに、一つずつ神話時代に使われていたであろう術式を当てはめていく。
「まず鍵になるのは……」
・地下に大量の魔女の気配を感じる。
「シュバリエ君の言っていたこの言葉だろう……おそらくこれが、この術式の動力源であり、役割でもある」
フランクウッドは、複数の術式に対して色分けを行っていく。
「循環、分析、構築、分解、分析、最適化、再構築、また循環……大まかに分けると、これらが一巡するようになっている……」
そのまま、術式の一つ一つの役割を考えていく。
「一つ目は、魔女の力を留めておく……いや、根源の大河だったか? あれらから汲み上げる……後回しだな」
答えがすぐに出ないのなら、後回しだ。
「二つ目は、複雑すぎるな……だが、おそらくは……根源なる物に干渉する魔女に関わる物だろう」
顎を撫でるように考える。
「何か引っかかるな……いや、ひとまず全体を把握しよう」
自分に言い聞かせるように呟き、指でトントンと机を叩く。
「三つ目、これは簡単だ。人の体を調べ上げるための物だろう……魔女との適合性と……術式などの有無、その他……」
フランクウッドが押し黙る。
「四つ目……それらを分解して再構築することに特化している……やはり、目的はヘケロンの言っていた、人類の魔女化。でも一体何のために……?」
フランクウッドは更に考えを巡らせる――
私は時々思うのです。
真に作品に命を吹き込んでいるのは、きっと皆様、読者なのだろうと。
作品は、作者がいくら手を加えようが、大切にしようが読まれなければ死んでしまう。
私は所詮、案内人に過ぎないのでしょうね。
私の役割は皆様が、彼ら彼女らについて、この世界の在り方について、それらを理解しやすいように描くこと。
別に「この作品を読んでくれ」そう言いたいわけではありません。
ただ、貴方たちが作品を生かし続けている。それを知っていて欲しいのです。




