46.よそ見厳禁
楽器の群れを殲滅したアグスの背後に、忍び寄る影。
フルートを咥えた、炎頭の異形。それがアグスを標的に、今、その音色を響かせようと指を動かす。
「はあ~い、強面さん?」
異形はゆらりと振り向いた。そこに立っているのは、マーキュリー。
彼女は髪をくるりと弄った後、片手に持っていた石ころを異形に見えるように前に出す。
何の変哲もない、ただの石ころ。色はおそらく黒に近い灰色だろうか。こんな夜更けでも、パレードの明かりで何とか認識できる程度の色だ。
大きさは……大体握りこぶしの半分くらいと言った所だろうか。
「あら~? そんなに――」
マーキュリーは口を開く。その一言一言に意識が向かう。
「――この小石が気になるの?」
そう言った瞬間、マーキュリーの手の中にあった石ころは宙高くへと舞い上がる。
「――!」
それを即座に見上げ、落ちるまでを見届ける異形。
「残念、それはただの石ころよ」
マーキュリーは、蝋燭に息を吹きかける時のように言葉を吐いた。
カッ――
石が地面を跳ねたと同時。後ろから闘牛にでも突かれたかのような、鈍い衝撃が異形を襲う。
異形の視線はゆっくりと、自身の腹の方へと向かう。
地面から伸びる渦巻状の槍。そこから漂う魔女の気配。
魔道具だ。
それも設置型の、敵を欺くためにだけに作られた、狩人による狩人のための武器。
異形はゆっくりと、ゆっくりとマーキュリーの方を見遣る。
――右手の人差し指で、口角を上げた姿。口元。にんまりとした笑み。顔は分からない。ハッキリとしない。
そんな惨状の中でも、異形はフルートへと指をかけようとする。
「じゃあね……儚い儚い蝋燭さん?」
しかし、その指がフルートにかかることはなかった。無情にも走る衝撃。吹き飛ぶ手首。
異形の目に最後に映ったのは、自身の腹から抜き取られた、複数の槍を回収する彼女の姿だけ。
鈍い衝撃。地面と激突した炎は、ふわっと消えた。
◇
「ちょっとアグス、あんたかっこよく決めるのは構わないけど、狙われてたわよ? もっと気を付けなさいよね」
「お前がサポートしてくれるんだ。あれくらい、気を付けるべきことには含まれないさ」
振りかざした剣を鞘へと納めゆくアグスは、振り向くことなく、マーキュリーの呼びかけに答える。
「ちょっと~? 私があんたをサポートするのは、手が空いてる時だけなんだけど?」
「なら、問題ないな」
アグスは振り返る。
「マーキュリー。お前は器用だからな」
マーキュリーはため息を付いた。
「何が大丈夫なんだか……まあ、いいわ。私は行くから……アグス、死ぬんじゃないわよ?」
「ああ、お前こそな」
「はあ……まったく……」
アグスは次に来る楽器たちを目掛けて駆けていく。
その様子を見送るマーキュリー。
「さて、あっちはどうなってるのやら」
そんな彼女は、魔女アレノスがいるであろう場所を静かに見つめ、その場を後にした。
その一連の光景は、まるで猫を思わせるかのようだった。
◇
「あんたたち!!」
狩人たちが密集する中、一際存在感を放つ存在がいた。
魔女アレノスに近い位置。この悪夢のようなパレードの中心。そこで腕を組む一人の上級狩人がいた。
クンツァイトだ。
「あったまってるかい!!?」
「イエエエエス!! グランドマザー!!」
「よっしゃいくよお!!」
厳つい野郎どもを引き連れて、彼女は腕を組み、威勢を上げる。
その場にいる皆が、悍ましい笑顔を見せる。
牙を剥き、瞳孔をぐるりと白目に変えて、口を大きく開いて叫ぶ。
「宴と行こうじゃないか! あんたたち!!!」
そうクンツァイトが叫びをあげると同時、周囲一帯を氷が走る。
魔女が進行してきている、大通りに面した建物の壁。一階から三階まで、地面から街灯まで、パレードを繰り広げる楽器たちを含めて。その全てに氷が伝う。
「うおおおおおおおおお!!! 行くぞてめえら! グランドマザーにつぅづけぇええええ!!」
野郎どもは飛び跳ねながら、その氷を追いかけ走り出す。
走り、飛び、ぶっ叩く。その様子に楽器たちも怖気づき、一歩後ろへと後退する。
そこを彼らは逃がさない。
「ヒャッハー! 愛しているぜ! この世界!」
「料理だ、料理! 楽器を料理してやろう」
「フォッフォッフォ! 全部ぶっ叩いていいんじゃろ? 最高よのう!!」
「てめえら! グランドマザーをがっかりさせんじゃねえぞ!?」
やかましい。熱意が凄い。それでいて、辺りは冷たく寒すぎる。
氷が支配した戦場で、楽器が凍った傍から、男どもがそれぞれの武器でそれらを叩き壊してく。
キラキラと氷の破片が砕けて、舞って、肺を凍らせるような寒さを生んだ。
「いいね、あんたら……あたしも燃えてきたよ!!」
クンツァイトはガンギマッタような顔をで、駆けていく。ぷるりと脂肪を震わせながら、魔女を目指して駆けていく。
おはようございます。
まだまだ場面整理が苦手なので、できるだけ早くに場面整理が上手くなるよう頑張りますね。
話は変わりますが、私はマーキュリーが好きです。全キャラ欠点があるので、皆好きではあるのですが特に彼女はお気に入りです。「まあ、頑張って」そんな気持ちにさせてくれます。
……この話には特に深い意味はありません。ただの雑談。そんな所です。
もし良ければ、皆様の好きなキャラクターも教えていただけると嬉しいです。




