41.分岐点
「私は……お姉ちゃんの救出に向かいたいです」
フランクウッドは息を呑んだ。おそらくヘケロンがシェリーに何かを教えたのだろう。
いつかはこうなると思っていたが、いくら何でも早すぎる。
フランクウッドとしては、できる事ならシェリーの安全も確保したい。
彼女が幸せに暮らせるようにするのも、フランクウッドの目標の一つなのだから。
「それは、どういった意味かな?」
「言葉通りの意味です。お姉ちゃんが、いつ殺されてしまうかも分からないんです。例え、皆さんが手伝ってくれないのだとしても、私は向かいます」
フランクウッドは辺りを見回す。アンリーたちも、頭を抱えている様子だ。
こうなることは仕方がない。彼女の目的は義姉の救出。それに、救出に役立つ情報をこちらはまだ提示していない。
「シュバリエ」
そう言うと、シュバリエはシェリーの近くへと歩み寄る。
「お嬢様の姉君の居場所について、心当たりがございます……」
「……それは…………」
「協会の地下でしょう……そこから彼女の気配を強く感じるのです」
シュバリエが自身と向き合おうとしてから、イフェイオンの気配をより濃く感じられるようになっていた。
シュバリエとシェリーは、それをたどると言うのだ。
しかし、それは……――
「――今よりも、死が隣り合わせになる。それを私は容認できない。私としても、君の義姉を助けてはあげたいが、こちらにも目標がある」
フランクウッドは説得を試みる。
「はい、理解しています」
シェリーは真っ直ぐ彼を見つめる。
「君に何ができるって言うんだい?」
それに対し、フランクウッドは悲しそうに笑う。
「分かりません」
シェリーは真剣な瞳で彼の目を見る。
「きっと死んでしまう――」
「――私は! お姉ちゃんに救われました。それは 人 としてです……もう、何もかもがどうでもよくなっていた私に、生きる希望をくれた。だから、お姉ちゃんを見捨てたくないんです」
今にも泣きだしそうな彼女から、フランクウッドは目を逸らす。
その言葉に、フランクウッドは過去の自分を重ねてしまった。
自身は、救えなかったのだ。きっと彼女も上手くいかないだろう。そう、考えてしまう。
これは、大人のエゴなのかもしれない。彼女も自身と同じ道を歩んでほしいという、そんな妬みなのかもしれない。
「……分かった」
少しだ。フランクウッドは少しだけ、彼女に託したくなった。
自分は妻を救えなかった。あの苦しみと悔しさを知っているというのに、彼女にも同じ思いをさせるのは酷と言うものだ。
それならば、彼女には彼女の、大切な人を救ってほしいのだ。だから、自分が出来なかったことを彼女に託したい。
「えっ、ちょっぉっと! 先生! 何言ってんの!?」
間髪入れずに、アンリーはフランクウッドを問いただす。
彼女は彼女で、シェリーのことが心配なのだ。それにマーキュリーのこともある。
こんな状況で、シェリーにイフェイオンの救出に向かわせるのは、普通に考えればありえないのだ。
「アンリー。ずっと彼女を縛ることはできないよ」
「そうだけどさ~……いやぁ、でも……ありえないでしょ……」
「それに、ここで止めたとしても君たちは行ってしまうんだろう?」
フランクウッドはシェリーとシュバリエの方を見遣る。
それに対して、シェリーは少し考えてから答えた。
「……はい」
「私は、お嬢様をお守りするだけです」
「だそうだ……アンリー、ここは諦めよう」
フランクウッドは穏やかに笑う。
「でも……」
「ただ、こちらも君たちをただ見送ることはできない。私の知っていることを話そう……」
「……お願いします。フランクウッドさん……」
◇
「そうだね……これは、あくまでも可能性の話だ」
シェリー、シュバリエ、フランクウッドの三人だけで、フランクウッドの仕事場で、彼は前置きを入れる。
「まずは、この舞台の黒幕について話そう。おそらく、狩人協会のまとめ役であるディガードだ」
「……」
シュバリエは少し考えている様子だった。
「おそらくだが、彼の目的は全ての人間を魔女に変えることだ」
「え……? な、なんでそんなことを……」
シェリーは狼狽え、シュバリエはハッとしたようにフランクウッドを見る。
「そして、その計画の鍵になるのが……イフェイオンとロベリア……またを【創造の魔女】と【破滅の魔女】だ」
「え?」
シェリーは動揺から、体中から血の気が引いていく。
「お嬢様」
「シェリー君。これは、あくまでも可能性の話だ……」
「…………はい」
フランクウッドはシェリーが落ち着いたのを確認してから、説明を続ける。
「君のお姉さんについて、色々調べたんだ。今からそれらについて話そうか――」




