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33.攻防

 月曜日と火曜日の分のストックが出来ましたので、本日は二話分の投稿とさせていただきます。


 診療所の周りで、ホームバイツとフォドゥーカを見守る三人の狩人。

 位置はだいぶ離れている。それでも、ある一人の魔術を通じて、この三人は離れた場所で、意思疎通を図っていた。


 今話しているのは、バックアップの到着が遅れていることについて。


「ヒプレレア、コンスタンス……プランを切り替える手はず通りに行くぞ」


 思考の共有を扱う、アビマードが戦闘状況を俯瞰的に判断し、アタッカーとサポーター、そしてバックアップに指揮を取りながら不測の事態に対処する。これがプランAだ。

 しかし、状況は一変した。バックアップが到着しない。避難誘導が主な仕事の彼らが遅れる原因として、考えられる理由。


 妨害を受けた。もしくは殺された。このどちらかだろう。


 となれば、潜伏することに長けた、バックアップを狩れる存在が居る。

 状況からしておそらく、赤ずきん。


 ならば、彼らが取れる行動は、ホームバイツとフォドゥーカ、そのどちらとも相性のいいサポーター、ヒプレレアを戦闘に参加させる。

 アビマードは引き続き指揮に務め、余ったコンスタンスは戦闘が激化するまで身を潜め、頃合いを見て離脱。そのまま本部への情報共有。


 できる事は当然減る。しかし、手札が削れた今。ことを急げば全てを失う。

 それならば、やれることをやれるだけやり、じっと身を潜めて好機を狙う。これが最善だろう。


 アビマードは離れた位置にいるホームバイツに、状況を伝える。


「バイツ、バックアップが到着しない。プランをBに切り替える」

「……わかった、そっちも気い付けな」


 ホームバイツは何も口にしないまま、そう念じ、フォドゥーカの方を軽く二回叩いた。

 それは事前の合図。


「誰か! 誰かいないのか!? 友人が! 友人を助けてくれ!!」


 それを理解しつつ、フォドゥーカは演技を崩すことなく戸を叩き続ける。



 ◇



 鳴り響くノック音に、アベリアックは内心恐怖していた。

 先ほどまで話していた過去のトラウマと、ヒュースから聞いた狩人の動向がおかしい。その話が脳裏を過るのだ。

 人というのは、どうも直近の出来事と今の事象を照らし合わせたくなるらしい。


 それでも、彼にも医者としての矜持がある。


 困っている人が、助かるかもしれない命があるのなら、その手を差し伸べる。

 今まで、自分がしてきたことへの償いとして、これだけは守り抜きたい。そう彼は思う。


 そして、ドアノブに手をかけ、戸を開こうとした時だった――


「――アベリアック、避けたまえ」


 ヘケロン・オディクスはそう言い残し、影から延びた無数の腕に捕まれながら、その場から姿を消した。


「――ッ!」


 その様子に焦りを覚え、アベリアックは急いで戸の後ろへと姿を隠そうとした刹那。

 頬をかすめた巨大な石の槍が奥の壁にぶつかり、粉々に砕けた。その様子に、彼は表情を歪ませる。


 死への恐怖。罪への贖い。それらは往々にして彼の元へとやって来た。


「あれま、外してもうたみたいやね」


 軽やかに明るく、冷たく鋭い声に、アベリアックは身を震わせた。

 彼らは助けを求めていた一般人じゃない。彼らは、狩人だ――。



 ◇



 アベリアックは扉の陰から胸ポケットに隠し持っていた、護身用の魔道具を取り出す。

 魔術の流れを乱すための、スタンロット。これを、入って来た狩人に確実に当てる。


 しかし、アベリアックの予想とは裏腹に、狩人の一行に室内へと入ってこようとはしなかった。


「ヒプレレア!」

「はいよ」


 外から聞こえる野太いフォドゥーカの咆哮。

 その咆哮を聞きつけ、ヒプレレアは全速力で、ホームバイツたちから少し離れた場所に置かれてある、フォドゥーカの武器と盾を魔術で吹き飛ばす。


 風の放射。それも、物を吹き飛ばすことに長けた形に組み替えた術式。


 巨大な盾と、片手用のハンマーを見事フォドゥーカはキャッチし、その勢いのまま、盾でアベリアックの潜む扉を叩きつける。

 重い一撃と刹那に走った雷鳴。その勢いに圧された扉はバラバラに吹き飛び、破片が飛散していく。しかし、その先にアベリアックはいなかった。


 間一髪、違和感を感じて扉の裏から避難したアベリアックの脚に、飛散した木片が突き刺さる。


「んぐッ……!」

「バイツ、頼んだぞ」

「まかしとき」


 あぶり出されたアベリアックを標的に、ホームバイツは槍を形成していく。

 そして発射しようとした時だった。槍は、鞭のようにしなった幹に粉砕されたのだ。


「そのくらいにしていただきましょうか……ホームバイツ様……」


 それは、赤い花を頭に大きく咲かせた執事服の男。

 そしてその男、シュバリエはただ悲し気に、目の前の男たちと相対するのだった。

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