32.それぞれが集う理由
「おい、バイツ。行くぞ」
「……せやな。頼むわ」
フォドゥーカに背負われながら、ホームバイツは思い出にふけるのを切り上げた。
懐かしい思い出を忘れ、ただ目の前の仕事に向き合う。
結果なんて分からない。そう自分に言い聞かせ、静かに苦痛に満ちた演技を始める。
フォドゥーカが向かう先は、あの医者が居る診療所。
駆け足で走り出すフォドゥーカはその戸を叩き、慌てた様子で叫び声をあげた。
「助けてくれ! 友人が崖から落ちた!!」
◇
エレナを連れながら、アンリーはあることに気づく。
あまりにも街の中が静かだということに。
「……なんかおかしいね」
「え? どうされたんですか?」
「エレナさん。いったん、ヒュースと合流しましょうか」
「わ、わかりました」
アンリーはちらりと屋根の上へと目を向ける。どうやら、この違和感の正体は良くないものらしい。
屋根の上を駆ける人影。それも、アベリアックの待つ診療所の方へと向かっている。
ゆっくりと、焦ることなく、自然に。それらを意識しながら、街の中を歩いて駅の方へと向かう。
その道中だった。
「あ、アンリー!」
「シェリーちゃん……何があったの?」
肩を震わせ、急いで走ってきていたことが窺える。
シェリーとシュバリエが慌てながら走って来た。そして屋根の上の怪しい人影。
もしかすると、あまり猶予がないのかもしれない。そんな不安がアンリーの脳裏に過る。
もし、あいつらの狙いがアベリアックなら、もし、彼を失うことになるのなら、今後、魔女の保護は劇的に難しくなる。
それはリリステナとして望ましくない。何より、アンリー自身、アベリアックが死ぬことを望まない。
アンリーは優しい笑顔で、シェリーとシュバリエにお願いする。
「シェリーちゃん。シュバリエ。お願い、エレナさんをヒュースに預けてきてくれる? 私は先に、こそこそ嗅ぎまわってる奴らを処理しなくちゃならないからさ?」
◇
アベリアックの診療所へと向かう狩人たちは静かに、別々の場所から身を潜ませながら移動していた。
彼らのバックアップとしての実力はせいぜい中の下だろう。これはバックアップとして欲しい最低限の実力。
もっとかみ砕いて説明するのなら、一般人は勿論のこと、同程度の実力のアタッカーに完全に気配を悟られず、少し実力差のあるアタッカーにも極力気づかれない程度を指す。
この水準に達してやっと、魔女との戦闘時に捕捉される可能性が低くなる。だからこそ、この実力が最低ラインなのだ。
だからだろう。彼らが、赤ずきんに見つかったのは。
「そんなに慌てちゃって~。どこいくつもり~?」
「――ッ!」
急に背後から聞こえた声に、狩人は反応する。
そして振り向きざまにぶすりと、狩人の心臓に巨大な針が突き刺さっていた。
「じゃあね」
「あか……ずきん…………」
白いフードにあしらわれた、赤いラインが特徴的な少女は、針から延びた糸をハサミで切断した。
と、同時。狩人の心臓は止まり、その場には動かぬ骸だけが残っていた。
「レベル低いな~……これでとりあえずは三人……後はアベリアックさんの所かな?」
赤ずきんは迷うことなく走り出し、路地の方へと飛び降り消えていった。
◇
エレナをヒュースに預けたシェリーとシュバリエは、走りながら、今回狩人が目標に据えている者に目星を立てる。
これが杞憂ならよかった。しかし、不気味なほどに静かな街並みと、あのアンリーの様子からして、何かが始まろうとしているのは確実。
じゃあ、それが起ころうとしている場所は何処だろうか。
真っ先に思いつくのはエレナだ。彼女を狙って狩人がやって来た。
いや、それは違う。エレナの居場所が割れていたのなら、列車から降りた時点、あるいは、アンリーと行動している際にでも襲撃を行っていたはずだ。
それならシェリー自身だろうか。
それも違うだろう。仮にそうなら、シェリーたちがホームバイツと接触した時点か、離れてすぐに奇襲を受けたはずだ。
あの狭い路地で襲われなかったのが、何よりの証拠だろう。
なら、目的は何だろうか。「私は先に、こそこそ嗅ぎまわってる奴らを処理しなくちゃならないからさ?」アンリーのあの言葉。
どこかに狩人が潜んでいる。もしくはどこかへ狩人が移動しているのだとしたら……。
「シュバリエ。アベリアックさんが危ないかもしれない……もし、そうなら、私は何もできないかもしれない……でも、お願い。あの人を助けてあげて」
「それがお嬢様のお望みとあれば、何なりと……」
もちろん、他の狙いがあるのかもしれない。自分たちが知らない、何か別の。それこそ、魔女が現れたとか、そういった理由かもしれない。
でも、それらの可能性を上げればきりがない。なら今ある情報で、一番損失が大きい物で判断した方が賢明だろう。
リリステナとして、これからの活動に支障をきたしかねないもの。それは、アベリアックだ。
それに何より、彼とヘケロン・オディクスには何か秘密がある。その真相を聞き出せないまま失うわけにはいかないのだ。
シェリーとシュバリエはそのまま、アベリアックの診療所へと駆けて行った。
予約投稿に切り替えたことで、Xの方でそれらの報告をすることが無くなりました。
そこで、前々から考えていました、キャラクターの小ネタなどを投稿していこうかなと思います。
あくまで、ネタバレにならない程度に、ちょっとした考察や展開予想にお役立てください。
まず最初は、とあるキャラクターたちが扱う、魔術に共通している事についてお話しようかなと考えています。
読み返していてこのキャラあのキャラに似てるなと思い、その弁明も兼ねてといったところですね。
それでは、また。




