第四話 AIシステム・クライン
(よし、これで遠慮なく戦えるな)
先ほどからの攻撃を見る限り、ロボットたちはレイの力で問題なく排除できそうだった。
「はっ!」
防護術式を解除し、レイはロボットたちへの距離を詰めた。所詮は直線攻撃である以上、レイの反射速度であれば容易に躱すことができた。ビームの間をくぐり抜けレイはロボット達に肉薄した。
「終わりだ!」
転移魔法で呼び出した大剣を振るい、レイは目の前の鉄塊たちを容赦無くバラバラにしていった。レイのスピードに追いつけるわけもなく、ロボットたちは為す術なくバラバラになっていった。そうして脅威は完全に排除された。
「人間でないなら遠慮なく壊せて楽だな」
普段ならば絶対に人を殺さないレイである分、命や意思を宿していないものに対しては容赦がなかった。
「さて…あそこから入れるのか?」
先ほどロボットが出てきた、ちょうどドア一枚分ほどのスペースを見た。見る限りでは、そこから内部への侵入が可能なようであった。
そこを覗き込んでみると、何やら細長い筒のような形状の狭い通路が見えた。その通路の奥には、分厚い自動式の鉄のドアがあった。
「…これは、なんだ?」
意を決して、レイは中に侵入した。すると突然、アナウンスが鳴り響いた。
『ザザッ…気圧、酸…濃度、正ジョ…減圧処……キップ…ます』
(減圧処理だと?)
そこまで来てレイは思い出した。こうした形状の部屋は、通常内と外の気圧が大きく違う場合の気圧調整に用いられる、いわゆる”減圧室”である。そして、そういった気圧差が存在するような状況といえば、限られている。
(深海潜水艦…いや、形状が違う。となれば…これは宇宙船なのか?)
遠未来的なフォルムなどから見ても、そう考えるのが正常ではあった。しかしこの異世界において宇宙開発は未だ未知の領域であることを考えると、こうした物体が遥か昔の地層から発掘されるのは奇妙な事である。
(中に侵入するしかないな)
恐らくそのドアは自動式なのであろうが、見たところ電力が通っていないようであった。先ほどのスピーカーもそうだが、経年劣化が避けられない物はかなり磨耗している様子だった。それならば、この施設の何割かに電力が供給されていないことも不思議ではなかった。
(仕方がない、力尽くだな)
扉自体は簡単な衝撃魔法で簡単に破る事ができた。重々しい轟音を立てながら、その鉄扉は後方へと吹っ飛んでいった。
そして、その扉の先は迷路のように入り組んでいた。まさしく宇宙船内といった様子の無機的な通路が何方向にも繋がっており、それがまるで侵入者を迷わせるようでもあった。
その道中には、先ほど戦ったロボットらしきものもいくつも発見された。
「…バッテリー切れで動かないようだな」
地底奥深くでバッテリーを維持するのは限界がある。先ほどレイを襲ったロボットは、辛うじてバッテリーが生きているものだったのだろう。中にはバッテリーを抜き取られたような残骸も見受けられた。恐らくは未だ無事な機体から抜き取って、最小限の個体を維持したと推測された。
やがてレイは一際大きな扉の前に立った。
「ここは…」
例によって固く閉ざされた扉を、衝撃魔法で突き破った。そうして眼前に広がる光景に、まさしく異質なものだった。
「これは…繁華街か?」
その扉は、まるで現世の繁華街に繋がっているようだった。通りには光の失せた電飾が飾られた看板があり、そこにはアルファベットや漢字といった現世の文字が並んでいた。かろうじて電気が生きている箇所でさえ、時折点滅する程度であり、通りは全体的に薄暗かった。
「なんでこんな所に、近代的な繁華街が…」
こうした建築様式や文字は、レイが現世でよく見てきたものであった。それが今目の前に、このアズリエルで現れている事に非常に違和感を感じていた。
(とにかく情報を集めないと…)
兎にも角にも、この場所に関する情報が必要であると判断したレイは、この近辺をくまなく探し回ることにした。
道中には飲食店やショッピングモール、映画館といった娯楽施設が数多く建っており、また道に飾られた大きな樹には様々な電飾が飾られていた。おそらくこの施設が正常に稼働していた頃は、綺麗にライトアップされていたのだろう。しかし今となっては、寂寞感のみを感じるだけとなっていた。
(…あれは⁉︎)
レイの視線の先には”library”と書かれた建物が見えた。図書館ならば、何かこの建物に関する情報もわかるかもしれない。
そうして開きっぱなしのドアを潜ると、近代的なデザインのフロアに出た。レイの身長ほどもある検索用マシンがいくつも立ち並び、プラスチックの棚には蔵書が数多く収められており、それが四方八方へと並べられていた。
(この検索用マシン…これで何かわかるか?)
試しにレイは、検索用マシンの画面に触れてみた。キーボードらしきものが見当たらない以上、確実にタッチパネル式の機械である。しかしやはりと言うべきか、電気が通っていないようだった。
(まぁ、そうだよな…他のヤツはどうだ?)
手掛かりが一つもない以上、手当たり次第に触れてみるしかない。そう感じたレイは、片っ端から検索用マシンのディスプレイを指でタップした。
多くのマシンは想像通りダウンしているようだったが、しかし一つだけ生きているものがあった。レイが指で触れると、突如としてマシンの画面は明るくなった。
(…⁉︎)
そうして表示された画面に、レイは驚いた。”language”と上部に表示された画面には”English”、"français"、"Español"、"中文"、”한국”といった言語選択オプションがあった。
(一応、日本語にしておくか)
もちろん、そうした翻訳機能に頼らずとも、レイは基本的に全ての言葉を魔法によって理解することができた。だがやはり生前の癖で日本語に頼ってしまった。
すると突然、機械の上部の方にホログラムの女性が表示された。
『軌道コロニー”ザイオン”第五区画図書館No.3へようこそ。私はAIシステム・クラインと申します』
(き、軌道コロニー?)
それは、レイにとってはこの異世界で聴き慣れない言葉だった。




