20
その20です。
ヴェリヨいわく、自分は脳と一部の神経以外を全て機械化した、いわゆるサイボーグなのだそうだ。
「まあ、脳もかなり機械なんだがね。俺の身体にゃ人間が持ってない機能をしこたま積んでるからな」
「そんなの可能なんですか? いや、さっきの銃弾バラマキもビックリしたんですけど、脳以外を機械にするなんて」
「アタマ固いな。ビルが異界化してたり、怪物やら幽霊が襲ってきたりしてる時点で、もう常識なんて捨てるべきだろ」
「それとこれとは別問題でしょ」
オカルトは非日常だが、それでも身近なものと感じることはできる。だが、進み過ぎた科学は無理だ。全身を機械化するなんて、技術云々よりも倫理面から反対意見が出そうな話である。クローン臓器ですら喧々諤々だというのに……。
それにしても、と改めて泰地はヴェリヨに正対する。
やっぱり機械の身体だとは信じられない。誰が見ても普通の(レスラーみたいな)人間としか思えない。というか、明かされても「ハイハイ」と相手にしないだろう。
しかし、同時に頼もしさが増したのも事実だ。
全身これ武器という先輩が先導してくれるのであれば、異界だろうが魔界であろうが、よほどのヘマを犯さない限りは身の安全を確保してくれると安心できる。頭の上の自称魔王に関しては、ぶっちゃけあまり信用していない。
「ともかく、ここは行き止まりらしいから、他のドアへ行くか」
血まみれの部屋を離れると、ヴェリヨはまた躊躇なく右のドアノブに手をかける。
それが泰地にとって更なる受難の幕開けとなるなど、予想できるはずもなかった。




