決してキレてはいけない。あくまでも大人の対応を貫き通すぞ。
愛情のこもった夕飯を食べ終え腹十二分目になった僕は、重くなった胃を休めるためにいつもの河原に戻ってきていた。
まぁぶっちゃけサラダさんの様子が気になってきたのだが。
「あ、もう帰ってきてるじゃん」
七面鳥を救出するため一晩戻らないということは、もしかすると既に七面鳥を連れて帰ってきているかもしれない。という僕の予想は見事に的中していたようだ。
すっかり辺りも暗くなってしまったが、川のほとりで突っ立っている女性のシルエットは間違いなくサラダさんだろう。
「おーい! 七面鳥は無事だったかー!?」
土手の上からサラダさんに向かって叫ぶと、彼女はこちらに視線を向けた。
「む! なんだハルか! 鳥はまだ見つかっていない!」
「あ、まだ見つかってなかったのか?」
「近くにはいなかったからな! 遠出をする準備をしにきていたんだ!」
なるほど。近隣で七面鳥は見つからなかったから、一度準備を整えに戻ってきたらしい。
サラダさんの言葉に納得してから、足元を良く確認しつつ土手を滑り降りる。
「それにしてもハル! 皆、消えていたから驚いたぞ! どうした! 奇襲でも受けたか!」
受けてねぇよ。てか、奇襲なんて物騒なことするヤツはサラダさん以外にいないだろ。
と言いたい所だが、言ってしまうと話がえらくこじれそうなのでやめておく。
「実は今晩、訳あって知り合いの家に厄介になってるんだ」
「そうか! 奇襲を受け敗北したハルは知り合いの家に逃げ込んだんだな!」
「なんでそうなるんですか」
な、なんか腹の立つ言い回しだな。
いやしかし、ここでツッコんでしまえば僕の負けだ。なにを言われようが冷静を保とう。
「少し目を離しただけでこれか! ははは! だらしないぞハル!」
おおおぉっ! むかつくな!?
いやっ! 落ち着くんだ真鍋春!
思い出せ、ここに来たのはサラダさんを心配してのこと。それを今キレてたんじゃ仕方ないだろうに。
……よし、ここは大人の対応をするべきだ。決してキレてはいけない。あくまでも大人の対応を貫き通すぞ。
「とこっ、ところでサラダさん。こっちはもう夕飯済ませたんだけど、サラダさんは飯食ったか?」
「なにも食べてないぞ!」
「そうか。なら米くらい炊いてやるよ、少し待っててくれ」
「ああ! ハルが負けたせいで飯が食えないのは嫌だからな! 私は待つぞ!」
「……オイ、サラダ」
「どうした!」
「誰が奇襲なんて受けるかああああ!!」
キレた。というか、我慢の限界を超えました。
「そもそもこの平和な町で奇襲を仕掛けるやつなんかいねーよ! いるならそりゃサラダさんくらいだっつの!」
「なんだと! 私は奇襲なんてしないぞ! 誇り高き戦士は正々堂々戦うんだ!」
「知るか! 飯を作りにわざわざ来てやった恩人にボロクソ言いやがって、なにが誇り高き戦士だ!」
「聞き捨てならないぞハル! 誇り高き戦士をバカにするのか!」
「バカにするまでもなくサラダさんはバカだと思いますが!?」
一度火がついてしまえば、後はヒートアップするだけ。
額に青筋を立てた僕達はその後しばらく言い合いを続けたのであった。
そんなこんなで5分程が経過。
「はあっ、はぁ、くそ! サラダさんと口で言い合っても埒が明かん!」
「私は正論しか言わないからな! 当然だ!」
「ちがうわ! サラダさんが正論を捻じ曲げるから話の収集がつかなくなってんだろーが!」
ちなみに誇り高き戦士についての口論は、いつの間にか今後の日本はどうあるべきか、という訳のわからない口論に発展していた。
どうやったらそこまで話題が切り替えられるのか理解不能だが、サラダさんのバカっぷりがなせるわざだろう。あ、悪い意味でな。
「それなら戦うのが一番だ! もう言葉はいらないぞ!」
そう言って、拳を構えるサラダさん。
「望むところだ! そっちの方がわかりやすくて手っ取り早い!」
「後悔しても遅いぞ! ハル!」
「誰がするか! 今日こそ参りましたって言わせてやる!」
ということで、今日も仲睦まじく喧嘩しましたとさ。




