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これはつまり、乙女の勘ってやつですよ!


「こ、これはすごいな。全部二人で作ったのか?」


質の良い木造テーブルの上に並べられたカレーとハンバーグを見て、思わず息をのむ。

手の込んだ料理が久しいこともあってか、目の前の二品がとても美味しそうに見えてしまうのだ。


そんな驚きを隠せないでいる僕を見て、田中さんと咲の二人は揃って笑った。


「あ、でもわたしは野菜を切るお手伝いしかやっていませんので、ほとんど咲さんが作ったんですよ?」

「なに言ってるの。美晴の包丁さばき、すごかったじゃない。あれはお手伝いってレベルじゃないわ」

「そうですか? えへへ、ありがとうございます咲さん」

「お礼を言うのはこっちの方よ、ありがとね美晴」


お互いの働きを褒めあう二人。


あ、あれ? なんかこの一瞬で、かなり仲良くなってないか? 二人とも名前で呼び合ってるし。

ついさっきまであんなに言い争いを繰り広げていたというのに、女心はよくわからん。


「そういうことだから、味も絶品だと思うわ。ほら早く食べましょ」

「うおっ、わかったから押すなって」


料理に目を奪われている僕を強引に椅子に座らせてから、素早く隣の椅子に腰掛ける咲。

そこでふと、ある疑問が生じた。


「……あれ? 咲の専用席って反対側じゃなかったか?」

「えっ? あ、いや」


半年ほど前のことだったか。くるみとかーちゃんと僕の三人で早乙女家に夕飯をご馳走になった時、確か咲は今僕が座っている向かい側の席だったはず。

そう思い出してから「席替えでもしたのか?」と聞いてみる。


「えっとねー、さきおねーちゃんがいつもすわってるいすは、そのいすじゃないよー?」

「く、くるみちゃん……」


その質問に答えたのは咲ではなく、既に料理を食べる準備が整った状態のくるみだった。


ちなみにくるみの席は僕の向かい側。

べっ、べつにくるみの隣がよかったなぁ、とか思ってないから! いやマジで!


「そうなのか? それじゃ、今日はなんで違う椅子に?」

「いや、別に大した意味はないわよ」

「はぁ」

「なによその『はぁ』って! 大体あたしがどの椅子に腰掛けようが、あたしの勝手でしょ!」


え、ちょ!? なんでキレてんの!?


「っていうか、たまたまこの席に置いてあったハンバーグが他のヤツより一回り大きかったからここに座っただけなの! あと今日の風水的にはこの方角の席がベストポジションっていうか! だからつまりそういうことなのよ!」

「いや、どういうことだよ」


それ以前に、咲のヤツ風水に興味があったんだな。初耳だ。

てかなんで急にキレ出したんだろ。


「こほんっ、それじゃあくるみちゃん。あちらの二人はさておき、わたし達はいただきましょうか」

「うん! あのね、くるみおなかすいてるからはやくたべたかったー」

「それはいけませんね! 今すぐ食べましょう! ……では、いただきます」

「いただきまーす!」


咲とよくわからないやり取りをしている内に、さっさと料理を食べ始めた田中さんとくるみ。

それを見た僕も、慌てて両手を合わせる。


「お、おい! もう席の話はいいから早く食おう! な!?」

「え? あっ、わかったわよ」


二人揃って「いただきます」と言ってから、まずはカレーを口に運ぶ。


「おっ、やっぱ見た目通りの味だな! 美味い!」


くるみに配慮して作られた甘口のカレーは、この歳になっても十分美味いと思えるほどの出来栄えだった。

甘口カレーに感動したのも久しぶりだな、と思いながら租借していると、ほんの少しだけ辛味が出てきた。


「……お、これちょっとピリ辛だな? くるみ、大丈夫か?」


この辛さはくるみにはまだ早いかもしれん、と目の前でカレーを頬張っているくるみに聞いてみる。


「んー? おいしいよー」

「そうか? ならいいんだが」


どうやらなんともなかったみたいなので、安心したが。この辛味は一体……


「あ、ごめんなさい。真鍋さんのカレーには七味唐辛子を少しだけ入れておいたんです」


そこで遠慮がちに挙手した田中さんが辛味のトリックを明かしてくれた。


「そうなのか? なるほど、確かにこの辛味は七味唐辛子だな」

「甘口では物足りないかと思って勝手に入れちゃったんですけど、どうですか?」

「あぁ。うん、この七味いいよ。ありがとな田中さん」


流石は田中さんだ。さりげない気遣いがとても上手い。


「えへへ、よかったです」

「でもこの七味唐辛子って、事前に入れてたんだろ?」

「はい。そうですよ?」

「よ、よく僕の選らぶ皿がこれだってわかったな?」


事前に一つのカレーに七味唐辛子を入れていたということは、僕がどのカレーを選ぶかわかっていたということだ。

いくら僕の心が読める? 田中さんでも、これは中々出来ることではない。


「真鍋さん、そんなのわたしにかかれば簡単にわかってしまうのですよ」

「マジか……一体どんな技を使ったんだ?」

「技ではありませんが。これはつまり、乙女の勘ってやつですよ!」

「……乙女のっ、え? はい?」

「乙女の勘です!」


あ、あぁ。うん。すごいっすね、乙女の勘。

田中さんの笑顔に困惑しながら、僕は黙々とカレーを食べ始めた。


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