変な心配する前に、たまねぎの千切りでも手伝いなさい。
「そういえばアンタ達、夜ご飯はまだなの?」
冷蔵庫の扉に手をかけた咲が、居間でくつろいでいる僕と田中さんに向かってたずねてくる。
そういや夜飯はまだだったな。
せっかく咲の家にお邪魔してるんだし、今日はちゃんとした料理が食べたいところだ。
「咲がなんか作ってくれんの?」
「そりゃまぁお客さんだし、リクエストがあれば応えるけど」
「カレーにしましょう!」
リクエストと聞いた田中さんがいち早く挙手してカレーを提案する。
「か、カレーって。そんな簡単なものでいいの?」
「簡単ですが奥が深いんです! 今晩はカレーにしましょう!」
「わかったわよ、それじゃカレーでいいけど……いいのよね春?」
「まぁカレーは好きだから全然いいけどさ」
というより、田中さんはやけにカレーを押してくるんだな。
普段は魚とかバナナとかを食べてるからわかんかったが、もしかすると彼女の好物はカレーなのかもしれん。
「かれーだー やったー」
「お。そういやくるみもカレーが好物だったか」
「くるみ、かれーははんばーぐとおなじくらいすきだもん」
要約するとカレーとハンバーグが一番の好物と言うことだ。
「それじゃ、ついでにハンバーグも作っちゃいましょ」
「両方作るのは手間だろ?」
「たまには手間かけた料理も作りたいのよ。変な心配する前に、たまねぎの千切りでも手伝いなさい」
エプロンを着込んで気合十分な咲さんは、そう言うとどこか嬉しそうに微笑んだ。
それから数分後。
「なんで千切りもできないのよアンタは!?」
「い、いや……別に僕、料理得意じゃねーし」
たまねぎの千切りすらできない僕は、額に青筋を立てた咲さんに怒鳴られておりました。
いや、千切りくらい出来ると思ったんですけどね?
めちゃくちゃに切ればいいと思ってやってみれば、たまねぎの破片がそこら中に飛んでしまうではありませんか。
「経験が足りなかったということでひとつ」
「その顔なら料理のひとつくらいできると思ったのに。拍子抜けね」
聞き捨てなりませんよ咲さん!?
「顔と料理の腕は反比例なんだよ!」
「あら? ついさっき聞いた様な台詞だけど、響きが全然違うわ」
「うぐっ!?」
く、くそう。なんで手伝っていたはずの僕が怒られているんだ。
ここは失敗した僕を笑顔で励ましてくれるのがヒロインとしての役目だと思うのだが、全く咲さんはとことん冷たいお方ですな。
「悪かったわね冷たくて」
「……なにも言ってませんが」
「顔がそう言ってるのよ」
不機嫌そうな顔でそう言い、ぐりぐりと拳を頬に当ててくる咲。
物理的には痛くないけど、なんか別の意味で痛かった。
「真鍋さんはよく顔にでますからねー」
「ねー」
居間の方でも田中さんとくるみが僕の顔について話していた。
「そんなに思ってることが顔にでてるのか?」
「困っているときなんか、特にでてますよ?」
「それとなにか文句が言いたいときにもでるわよ?」
……気をつけよう。
僕の質問に対し即答を返してくる咲と田中さんの言葉を聞きながら、そんなことを思った。




