ものすっごくだらしない顔してるんだけど。
「はぁっ、はっ、はぁ……疲れましたね……」
「そうね、こんなにぺらぺら喋ったのっ、いつぶりかしら……」
僕とくるみが居間でくつろいでいると、息の上がるまで言い争っていたらしい田中さんと咲の二人がやってきた。
ようやく終わったか。いやはや長かったなぁ、まさか20分も続くとは。
「みはるおねーちゃん! いらっしゃーい!」
妙なところで感心していると、隣で寝転がっていたくるみが立ち上がって田中さんのもとへ駆け寄っていった。
そのままぼふっ、と田中さんの腰あたりに抱きつく。
「わっ。えへへ、遊びにきましたよくるみちゃん」
「うんっ、あそぼー!」
「はい!」
田中さんと会えてこの上なく上機嫌なくるみを眺めながら、内心で胸をなでおろす。
よかった。この様子なら、少なくとも寂しくて泣くなんてことはまず無いだろう。
というか、田中さんに抱きついているくるみが羨ましいのだが。
「春、なによその顔?」
「は? なにが?」
隣を見ると、僕の隣に腰をおろした咲が不機嫌そうな顔でこちらを覗きこんでいた。
「ものすっごくだらしない顔してるんだけど」
「そっ、そんなこと無いぞ!?」
「アンタ今、自分も田中さんに抱きつきたいとか考えてたでしょ?」
「ばっ――!?」
馬鹿を言うんじゃない! 誰がそんな変態チックなこと考えるか!
むしろ僕は真剣にくるみの心配をしていたのであって、決して田中さんに抱きつきたいとか、田中さんに抱きつきたいとか、田中さんに抱きつきたいだなんて微塵も思ってないぞ!?
「ばばばっ、ばかを言うな!? ダダレガッ、んなこと考えっ、考えるか!」
「思いっきり動揺してるじゃない!」
「グハッ!?」
うぉっ、ひっぱたかれた! 痛ええええ!?
「なにすんだよ!」
「とりあえず、今ので田中さんのこと黙認してあげるわ」
「え?」
ちょ、今咲さんなんて言いました?
田中さんのことを黙認? それってつまり、田中さんが今晩泊まっていくことを了承したってことか。
「なんで急に」と聞いてみる。
すると咲は、くるみと楽しそうにはしゃいでいる田中さんを一瞥してぽつりと。
「あれだけくるみちゃんのことを大切に思ってる彼女を追い返せるわけないじゃない」
「まぁ、そうだよな」
「くるみちゃんも楽しそうだし、なんか妬けちゃうわね」
「それについては同感だ」
くるみの兄である僕から見ても、田中さんとくるみの仲が特別に良いことは一目瞭然。
それは赤ん坊のころから一緒にいる僕と咲でさえ入り込めないほどに。まぁ、つまるところ僕たちは田中さんにやきもちを焼いているわけだ。
「と、ところで由紀さんは? さっきから姿が見えんのだが、もしかして家に居ないのか?」
しかし田中さんにやきもちを焼いたところでどうしようもないので、先程から気になっていた事を聞くついでに話題を変えた。
「あぁお母さん? お母さんは今日仕事が忙しいみたいで、今晩は帰れないんだって」
「なるほどな、仕事が忙しくて帰れませんと」
「そういうこと」
そりゃまぁ学校の理事長さんともなれば仕事が忙しくて帰れないこともあるわな。
だから今日は、年頃の男女だけで一夜を過ごすわけだ。うん。
「……う、うん?」
「どうしたのよ?」
「えっとですね咲さん。それじゃ今晩は僕達だけで過ごすのでしょうか?」
早くも危険を察知した僕は、冷や汗をだらだらと流しながらたずねる。
「あたりまえじゃない」
即答で咲さんはそう答えました。
『あたりまえ』。つまり今晩は僕と咲と田中さんとくるみの4人でお泊り。
「……これは」
波乱の予感しかしませんな。




