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く、くるみちゃんと愛を育むんですか?


「ということで、今日は咲の家に一泊してこようと思う」

「えっとつまり……年頃の女の子が住む家でお泊りってことですか!?」


放課後。例によって田中さんと一緒に下校している途中、昼休みに咲から聞いたくるみの件と今日は早乙女家に厄介になることを報告していたのだが。

どうもロマンチスト田中さんは事の重大さがわかっていないらしい。


「あ、あのな。確かに女の子の家で一泊するのは事実だが、変な下心とか一切ないからな?」

「そうなんですか? わたしてっきり、一夜を共に過ごして愛を育むのかと」

「育まんわ! くるみを安心させてやるだけって説明したろ!?」

「く、くるみちゃんと愛を育むんですか?」

「なに言ってんの!?」


なんだ!? 今日の田中さんのジョークはいつにも増して強烈だぞ!?

それとくるみには十分な愛情を注いでいるので、これ以上育まなくても大丈夫だと思う。うん。


「って言うか、僕と田中さんだって一夜どころか一週間近く同じ屋根の下……いや、同じ橋下で寝泊りしてるだろ?」

「え? あ、そう言われてみればそうですよね?」

「だから咲と同じ部屋で寝たとしても変な気は起こらないし、そもそも咲さん怖いから変な気を起こそうとも思わない」

「な、なるほど……」


そこでようやく納得してくれた田中さんが、なにやら思いついた様子で手を打った。


「真鍋さん、今思い出したんですけど。わたし今晩暇なんですよ」

「う、うん? そうなのか?」


なにやら突拍子も無いことを言い始めた田中さん。

『今晩暇』という発言が既におかしいのだが、彼女の顔を伺うとなにか言いたげな表情をしていたので先を促す。


「なのでわたしもどこか友達の家へ泊まりに行こうかな、と思いまして」

「なるほど。んで誰の家に行くんだ?」

「そうですねー ……今晩は早乙女さんの家に泊めてもらいます」

「は?」


あれ。てっきり葵の名前が出てくると思ったんだが、早乙女? 早乙女って言うと、早乙女咲?

僕の知る限り、田中さんと咲はお泊りをするような仲ではなかったような気がする。


「そうと決まればさっそく手土産を買いに行きましょう!」

「いやいやいや! マジで行くつもりなのか!?」

「当然です! 良く考えてみれば、わたしってほら……くるみちゃんの友達。いえ、むしろ家族のような仲じゃないですか」


初耳なんですけど。まぁ姉妹のように仲が良かったのは知ってるけどさ。


「ですからくるみちゃんを安心させるために、わたしは必要不可欠な存在と言いますか、隣に居て最も安心できるベストポジション的存在と言いますか……」

「だから自分も咲の家に行って、くるみを安心させてやりたいと?」

「その通りです! 流石真鍋さんです!」

「いやその通りと言われてもなぁ」


正直な話、女の子の家へ泊まりに行くこと自体、世間的によろしくないのだが。

ましてや泊まり先の家に、他の女の子を連れ込むのはな……ちょっと、いろいろとヤバイ気がする。


「やっぱり駄目でしょうか?」

「う、ううん。ちょっと不味いかなぁ」

「そうですか……」


僕の返事を聞いて、がっくりと項垂れる田中さん。


きっと彼女は、どうしてもくるみの傍に居てあげたかったんだと思う。


「ありがとな田中さん。田中さんもくるみのこと心配してくれたんだろ?」

「あ、当たり前です。くるみちゃんが寂しくて泣いているのを黙って見過ごせるわけないじゃないですか……ですから、せめてくるみちゃんになにかプレゼントを買わせてください」


めずらしく不貞腐れた様子の田中さんは、そう言って商店街の方へ足を向けた。


「やっぱり、田中さんは優しい人だよな」

「なっ! なんですか藪から棒に!?」


ちょっと褒めると、すぐに機嫌が直るところもまた彼女の魅力ですよね。はい。



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