ハハッ、ものは言い様だな。
放課後の教室。
見慣れたはずの教室だが、今僕が見ている教室はどこか馴染みが無くて。
なんだろう、なんか……懐かしい。そんな気がする。
『よぉどうしたその痣、また喧嘩か?』
懐かしい声がした。
今住んでいる町に越してくる前は、いつも耳にしていた親友の声。
振り返ると、そこにはかつて親友であった男が立っていた。
『どうせ女顔の事でからかわれてキレたんだろ?』
なんでお前がここに? 頭ではそう思いながらも、口から出るのは全く別の言葉。
どうせってなにさ。まあ当たってるけど。
『喧嘩の相手も災難だな。まさかこんな可愛い顔したヤツが、めちゃくちゃ喧嘩っ早いとは思わんかっただろうに』
見た目で判断しちゃいけない、という事を身体に教えてあげてるのだよ僕は。なんて親切なことか。
『ハハッ、ものは言い様だな』
うるさい。つかお前こそどうなんだよ、この学校の猛者を全員倒すって話は。
『あぁー あれな? なんか2こ上の先輩に一人、すげぇのがいるらしいんだ。なんでも格闘技やってるとかで、俺一人じゃ勝てそうに無くてな。ホラ、外野もいるし』
はぁ。それで?
『だからよぉ、春。ソイツとやる時はお前も一緒に来てくれねーか? お前さえいりゃ余裕だからよ』
はぁ!? なんで僕が!? 断固拒否するね!
日本は平和な国なんだぞ、誰がそんな危なっかしいことするか!
『それ、ついさっき喧嘩してたヤツが言う台詞じゃねぇよ……なぁ頼む、こんな事頼めるのはお前しかいねぇんだ。それに喧嘩においちゃそこらのヤツより断然、信頼できるんだし……顔に似合わず』
オイお前ぶっ飛ばすぞ。なにが顔に似合わずだ。
つか喧嘩が強くなったのはお前のせいだろ、もう二度といじめられないように腕っ節を強くすべし、とか言って無理矢理トレーニングに付き合わせてさ。
『腕っ節が強くて困ることなんて無いだろ? 実際、中学に上がりたてな今、役に立ってる訳だし』
それは、まぁ……ってとにかく喧嘩には行かん! 勝てる気しないし、なによりめんどい!
『おっ、お前っ、めんどいってなんだよ! それにこの学校の猛者を倒せば、俺達は晴れてこの学校の……なんだ? そう、番長だ!』
ハハッ番長て。ウケる。
『なんだよその馬鹿にしたような顔はよ!? 悪かったな、他に言い方が思いつかなかったんだ! ……良く考えろ春、俺達が番長になれば春も女顔のことでからかわれる事も無くなるだろ? 喧嘩に勝つだけでその女顔を気にせず過ごせるんだ。どうだ? いいメリットだと思わねーか?』
おぉ、良く考えてみればそうだよな。
なるほど番長ねぇ……なんか、いいかも。
よし決めた! 僕は番長になって舎弟を作る、そんでソイツ等に僕の事を『兄貴』呼ばせて崇めさせようじゃないか!
『おう! その意気だぜ春! 俺達なら、ぜってぇなれるぜ番長! なっ、春!』
……あぁ、そうだな。……ん? なんか、頭がふわふわしてきたぞ?
まさか今の全部夢?
なんだよ夢か、なんでこんな昔の出来事を夢に見てるんだよ。
ま、いいや。そろそろ起きるとしますかね。
「兄貴! 春の兄貴! 起きてくださいよ!」
「んぁ……」
「おぉ起きましたね春の兄貴! おはようございます!」
目を覚ますと、そこは朝のSHR中の教室だった。
どうやら朝から居眠りしていたらしい。日頃の疲れが溜まっていたんだな、仕方ない。うん。
とまぁ、それはいいとして。
「おい葵。その呼び方やめれ」
「むぐっ」
目の前で僕の事を『兄貴』と連呼する葵の顔面をむんずと掴む。
ちなみに葵の席は僕の前だったりする。
今まで葵と喋ることは全く無かったのだが、田中さんとの仲を取り持つ事になってからは頻繁に喋るようになっていた。
「え、なんで? 舎弟を作って兄貴って呼ばせるのが目標だったんでしょ?」
「ちょっと待て。僕はそんなこと一言も言ってない」
「いや今寝ながら言ってたよ?」
「え゛……」
「それで春の兄貴、話の続きは? 結局二人は番長になれたの!?」
ちょっ!? もしかして僕、夢の会話を全部口に出してたのか!?
なんてこった、我が人生の中で最も忘れ去りたい思い出をよりにもよって葵に聞かれるとは!
「……」
「ねぇねぇ、どうなったのー? 気になるよー」
「……っ」
仕方無い。こうなれば。
「先生、前の橘さんがとてもうるさいです」
「なんとっ!?」
後は先生に丸投げ致しました。めでたしめでたし。




