春にかわいいとか言われても。
「ほら昨日僕の首絞めたろ? なんか怒ってんのかな、って思ってさ」
「ううん。怒ってないわよ」
田中さん情報では凄く怒っていたらしいが、そうでもないらしい。
よかった怒ってなくて。それじゃあ昨日は特に理由もなく、僕を殺しかけたってことか。よかったよかった、って。
「理由もなしに首絞めたんか!?」
「うるさいわね。そういう気分だったの」
首を絞めたい気分てなんすか、と言いたが。まぁいいか。
「んじゃ別に怒ってはないんだな?」
「ううん」
「え? なに? やっぱ怒ってんの?」
「怒ってはないけど、なんかイライラしてた」
「い、イライラって。僕なんかしたか? 今日はそれを謝りに来たんだけど」
「こんな時間に来られてもねー」
「すみません」
だって朝は飯の準備があるし、その後は田中さんと登校するし、教室では咲と話す機会もないし、放課後になって謝るのもどうかと思うし。
いろいろ考えた結果、この時間になったのだが。
「5時はお気に召しませんでしたか」
「あたりまえよ」
「そ、そうか」
まぁ咲も女の子だからな。寝込みにお邪魔されるのは嫌だったわけだ。
やっちまったなぁ、と反省した時。ふと彼女の髪に目を奪われた。
「お。咲が髪結んでないって珍しいな?」
普段は二つに結ばれている髪が開放されていた。寝てたんだし当然か。
うーむ。田中さんの黒髪ストレートもいいが、明るい髪のセミロングも嫌いではない。
「あんまり見ないでよ」
「いいじゃん、似合ってるんだし」
素直に褒めるが、これくらいでデレるほど咲は甘くなかった。
「アンタ、あたしがふたちょん始めた時も同じこと言ってた」
ふたちょん、というのはラフな二つ結びのこと。
「そうだったか? まぁあっちも似合ってたし」
「ふーん?」
「なんだよふーんて」
「別に。なんでもない」
いやいやいや、確実に怒ってるだろ。なんか気に触るようなこと言ったかな。
ってこんな時間にお邪魔してること自体気に触ってるか。
どうしよう。咲の機嫌を良くするために来た筈が、更に悪くなってしまった。
ここはなにか、気の利いた一言をかけてやらねば!
「さっ、咲はかわいいからどんな髪型でも似合うよな!?」
「あっそう」
そっけない!?
「いやもぉ感動した! 咲はかわいい! キューティクルだ! よっ、このキューティクル!」
「春にかわいいとか言われても」
「え? ハハッ、そうか? ……ってなんで!?」
それは遠まわしに、僕の顔が咲さんの美貌に勝っていると言いたいのか!?
い、いや。今は気にしないでおこう。冷静になれ冷静に。
「ところで春?」
「な、なんすか?」
「アンタってさ。黒髪の女の子と、明るめな髪の女の子とどっちが好き?」
「は? えっと、明るい髪、かな?」
急になんですか、と思いながら答える。
ちなみに黒髪と明るい髪では両方好きだが、ここは咲の喜びそうな回答をするのが無難なはず。
「そっか……そうよね、これ夢だし。あたしが望んだこと言うに決まってるじゃない」
「は? 夢?」
そういえば、夢ってことになってたな。
めんどうだから今更説明する気も無いが。
「そうだ春。せっかく夢に出てきたんだし、ちょっと顔貸しなさいよ」
「顔っすか!?」
顔貸せって、今度は顔面パンチか! どんだけストレス溜まってんだ咲さん!
「いやっ、もうそろそろ帰るから……うぉっ!?」
素早く逃走を試みるも、咲の腕が胸倉を掴んでいた。
ややややばい! 逃げられん!
「ちょ! ちょっと待て! まだ心の準備が!」
が、顔面だけは! 顔面だけは勘弁してください!
顔にアザなんて作ったら、田中さん達になんて言われるか!
「いちいち反応がリアルなのよ、夢のくせに」
呆れたように言って腕を引き寄せる。
「だから夢じゃ……っ」
「ん」
だから夢じゃない、と訴える前に咲の唇が頬に触れた。
「……は?」
なんすか、これ?




