田中さんがその気になれば、友達百人も夢じゃねーって。
「ま、真鍋さん! 一緒に帰りませんか?」
「へ?」
放課後。
特にやる事もなく、さっさと帰ろうと席を立ったところで田中さんが声をかけてきた。
「ダメですか?」
「いやいやいや! んなわけねーって!」
田中さんと一緒に下校だと!?
す、素晴らしい。まさか放課後にこんなイベントが待っていたとは!
「僕が田中さんのお誘いを断るわけなかろう」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんです」
「えへへ、なんだか嬉しいです」
田中さんの照れくさそうな笑顔をありがたく頂戴しつつ手提げを肩にかける。
「んじゃ行くか」
「はい!」
こうして僕達は教室を出て行った。
教室でそんなやりとりをすることが、どんなに目立つ行為かなんて考えもせずに。
―――咲視点。
「な、なにあれ?」
先ほどの光景を目にしたあたしは、思わず声を上げていた。
クラス一の美少女田中さんと春が一緒に下校? 一体どういった風の吹き回しで?
ま、どんな理由があるにしろ、ウチの春に手ぇ出そうなんて百年早いわ。
「オイ。見たか今の?」
「あぁ、田中さんが真鍋と一緒に帰ってたな。どういうことだ?」
「羨ましいッ! あんのオカマヤローッ!」
クラスの声に耳を澄ますと、男子連中が春のことを悪く言っていた。
春が悪いって言うの?
どう見ても誘われてたのは春のほうじゃない。
お、おのれ田中美晴……ちょっと顔がかわいいからって、春の風当たりを悪くするのは許せない!
「咲、一緒に帰ろー」
「え!? あ、ごめん! あたしちょっと用があるから先に帰るわ!」
「そうなの?」
「そうなの! ごめんね!」
言いながら鞄を肩にかける。
「あ。もしかして旦那を追いかけるので?」
旦那、というのは春のことらしい。
「ち、違うって」
「はいはい。咲も物好きよねー、別に止めやしないから行っておいで」
聞いてない!?
「それじゃ、また明日っ」
友達に別れを告げてから、あたしは春の後を追いかけた。
―――春視点。
「春視点ってなんだ?」
「え? なんですか急に?」
「あ、いやなんでもないです」
いかんいかん。なんかぼーっとしてた。
頭を振ってからなにか適当な話題を探す。
「そういえば今日サラダさんが遊びに来てたぞ?」
「サラさん? が、学校にですか?」
「そうそう。校門のところに立っててさ。仕方ないから遊んでやった」
「う、羨ましい。わたしにも一緒に遊びたかったです」
「いやいや。田中さん昼休みは葵と一緒に居ただろ?」
「そうでしたね、残念です」と言いつつも、彼女はどこか嬉しげ。
やっぱりクラスで話せる友達ができて嬉しいんだな。よかったよかった。
「葵とは上手くやれそう?」
「はい! 最初会ったときはびっくりしましたけど、葵さんとってもいい人でした」
「そうか。そりゃなにより」
「でも葵さんクラスで人気者ですから、わたしなんかと居て、悪い評判が付かないかどうか不安です」
「いやそれはないから」
「そ、そうでしょうか?」
うむ。僕が見た限り田中さんは嫌われてないし。
なんというか、高嶺の花を扱うみたいに皆遠慮しているんだと思う。
「田中さんがその気になれば、友達百人も夢じゃねーって」
「それはちょっと」
そう言って苦笑する田中さん。
勿体無い。この引っ込み思案さえなければ、クラスで孤立することもないだろうに。
なんかちょっと複雑だった。




