こんにちはおじさん。今日は友達が一緒なんですけど……いいですよね?
日曜の夕方。
風呂に入りたい、そう思うことはいけないことだろうか?
否。やっぱ人として衛生上の身嗜みはキチンとしておきたいからな。
だが毎日銭湯に通えるほどお金があるわけでもない、そこで。
「そこでベテランの田中さんに相談しようと思ったわけだ」
「そのベテランという表現は、褒めてるのかそうでないのか微妙ですけど。一応話はわかりました、ここはベテランのわたしにお任せください!」
「おふろー?」
「そうですよー 一緒に入りましょうね、くるみちゃん!」
流石はベテランだ。やはり田中さんはたくましい。
「おぉー」とくるみと二人で拍手を送っているところへサラダさんが割り込んできた。
「風呂だと! 風呂に入れるのか!」
「お? 結構食いつくんだな」
「私は行水で十分だったからな! 風呂は久々だ!」
「マジか」
ふむ。ラブコメヒロインとしてあっちゃならん程のワイルドさだ。
……ん? ラブコメヒロイン? なに言ってんだ僕は?
「私は汗をかかない!」
「それフォローのつもりかよ」
なんか悲しくなってきた。
さて、そんなこんなで田中さんに案内されたのはすぐ近くの銭湯だった。
「え? ここ、金払わなくていいのか?」
「まぁそうですね。多分大丈夫だと思います」
大丈夫って、ホントかよ?
少し不安になりながらも銭湯の建物に入る。
「いらっしゃー……っ!? たたたっ、田中さん!?」
僕等を出迎えた銭湯のおっちゃんが、田中さんを見て目を見開いた。
え。なにその反応。
「こんにちはおじさん。今日は友達が一緒なんですけど……いいですよね?」
「え、えぇ! もちろんです! ささっ、どうぞこちらへ! あぁホラ、御連れ様もどうぞ中へ!」
銭湯のおっちゃんが冷や汗をダラダラ流しながら建物の中に通してくれた。
「田中さん、どうなってんだ一体?」
脱衣室へののれんを潜る前に、田中さんを呼び止めて聞いてみる。
「大した理由じゃないですけど。先週くらい前でしたか、酔っ払った先ほどのおじさんが、河原の橋下で寝ていたわたしに悪戯しようとして、それで」
「うわ、大丈夫だったのか?」
「えぇなんとか。それからタダでお風呂に入れてくれるようになりました」
「それは良かったのか悪かったのか微妙だな?」
「そうですねー その時は少し怖い思いもしましたが、まぁ結果オーライということで!」
「た、たくましすぎる!? 流石ベテランだ!?」
一言褒めると「えへへ」と照れくさそうに微笑んでから、田中さんは女湯ののれんを潜っていった。
彼女の潜ったのれんが揺れるのを眺めながら、なんとなく思う。
「んな怖い思いしてまで、家出する理由ってなんだろーな?」
声に出してみたが、いい答えは出てこなかった。
それから脱衣所で服を脱ぎ、さっそく風呂に入った。
あぁ、癒される。やっぱ風呂はいいな。まるで心まで温まるってヤツか。
湯船に浸かりながら、昨日から溜まりっぱなしだった疲れを大いに癒す。
「明日は学校かぁー」
僕とくるみの学費などは、由紀さんが払ってくれると言ってくれた。
本当に申し訳ないとは思ったがお金のことばかりはどうしようもないので、いつか借りは返します。と由紀さんに頭を下げた。
「あのバカ親、次会ったらぶん殴ってやる」
これは心に決めたこと。
次会ったら、絶対殴る。そんで由紀さんの前に並んで土下座しにいこう。
「だから早く帰ってこいよ。二人とも」
「早く帰ってこいよ、その通りだわなァ。俺だって早く借金返済してもらいたいからなァ」
「は?」
独り言に返事が返ってきたので隣を見ると、そこには昨日知り合いになったばかりの怖いオッチャンがいた。
「つうか、なんで嬢ちゃんが男湯入ってンだ?」
「つくもん付いてるからだよ!」




