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重力が変わったんじゃない。この木材が重いのだ。

朝食を終えた僕達は特に何をするでもなく、ただ河原でぼーっとしていた。


「さて、と……」


なんか良い暇潰しは無いかねぇ。



『田中さんのお仕事。』


暇なので田中さんのもとへやってきた。

彼女は橋下に転がっている木材をせっせと拾い集めていた。


「なにやってんの田中さん?」

「え? あ、真鍋さん。焚き火用の木材を集めてるんです。暗くなったら手間なので、明るいうちに集めておかないと」


ほぉ。流石路頭生活のベテランだ。


「なるほどなー あ、僕も手伝おうか?」

「いえ! そんな悪いですよ!」

「そう遠慮すんなって、ホラ。その抱えてる木材持ってやるから」

「す、すみません……」


こんな力仕事を女の子にさせるなんて男が廃っちゃいますよ。

ま、田中さんみたいなか弱い美少女は川で洗濯してなさいな。


「あの、重いですから、気をつけてくださいね?」

「うぃ。了か……えっ、ちょ!? うおぉおおおおっ!?」


田中さんが抱えていた木材を受け取ったその時。

僕は膝から崩れ落ちていた。


「は?」


な、何が起こったンだ!? 膝が撃ち抜かれたとでも言うのか!?


落ち着け、落ち着け。まずは立ち上がろう。

せーのっ!


「よっこらせ! ……あ、あれ?」


なんだろう。立ち上がれない。

いつの間にか日本は界王星にでもなったのだろうか。


「い、いや。違うな」


重力が変わったんじゃない。この木材が重いのだ。

この、か弱い田中さんですら持てた木材が。


「うわわっ、大丈夫ですか真鍋さん!?」

「田中さん、アンタ一体どんな技を使った?」


僕の質問に「へ?」と首をかしげる。


「ごめん。忘れてくれ、田中さん」

「え、あの?」

「僕ちょっと、川で洗濯でもしてくるわ」

「え! ちょっと真鍋さん!?」


そのまま振り返ることは無かった。

両頬を伝う悔し涙を見せたくなかったから。



『くるみとさらおねーちゃん』


「おーい! くるみー!」


今度はくるみのもとへやってきた。

今のお兄ちゃんはとても傷付いているので妹の笑顔に癒されたいです。


「おねーちゃんだー」

「なんだハルか! お前も一緒に遊ぶか!」


妹の愛らしい笑顔と、鋭い目付きの誇り高き戦士さんが僕を出迎えた。


「あ、あぁ。うん」


なんでサラダさんまでいるんですか、という言葉は飲み込む。


「んで、二人はなにしてたん?」

「いまねー さらおねーちゃんに『せんしのこころえ』をおしえてもらってたのー」


ア゛ァ!? 戦士の心得ェ!? んなもんウチのくるみに教えてんじゃねぇよ!


ちなみにくるみは、朝食を終えてからサラダさんの事を『さらおねーちゃん』と呼び始めた。

仲良くなるのはいい事だが、くるみの教育に悪そうなので複雑だ。


「私は決めたんだ! クルミを誇り高き戦士にすると!」

「ふざけんな! いらんお世話だっつの!」

「いや、護身術を身に着けて損はない!」

「うっ、それはまぁ」


確かにサラダさんの言うことは正論だ。

護身術を身に着けて損はない、その通り。


「すまん。僕なにも知らずに怒鳴っちまって」

「ハル! 私は気にしていないぞ! 顔を上げろ!」


おぉ、良いヤツだなサラダさん!


「それじゃ、もう邪魔しねーから続けてくれ」

「わかった! クルミ! ハルに戦士の心得を聞かせてやるんだ!」


そう言われたくるみが「はい!」と敬礼し、僕のほうに身体を向けた。

おぉ、軍人っぽい! たくましいなくるみ! おにいちゃんは嬉しいぞ!


「せんしのこころえ、そのいち! はらがへったときは、せいせいどうどうたたかってしょくりょうをうばえ!」

「は?」

「せんしのこころえ、そのに! あいてがおとこなら、まずきゅうしょをねらえ!」

「ちょ、くるみ!?」

「せんしのこころえ、そのさん! ちからこそせいぎである、ちからなきものはみじめにのたれじ……」

「うがぁあああああああああああ! んなアホなこと言わないでくれぇええええええええええええええええ!」


僕は駆け出していた。目の前の光景を信じたくなかったんだ。

あの可愛らしいくるみが、あんなアホっぽいことをぺらぺらと……っ!


「サラダさんのアホォォォォォォォォォォォッ!」


悪い影響受けまくりじゃねーかぁああああああああああああっ!


もう僕は振り返らない。

両頬を伝う悲しみの涙を見せたくなかったから。


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