随分長いランニングでしたね? 大丈夫ですか真鍋さん?
「おまたせー 朝ごはんできたわよー?」
朝食を載せたお盆を片手に部屋の扉を開く。
「ってあれ? 春は?」
部屋に居たのはお母さん一人だけ。
春はどうしたんだろ、トイレかな?
「えーん! 咲ー!」
「ちょっとなに泣いてるのよ?」
「私フラれちゃったー!」
「はぁ?」
意味不明なんですけど。もしかして春のヤツ帰っちゃったの?
なによ。せっかく朝ごはん作ってやったのに。
「って言うかなんでお茶漬けなのー!? 食材買った意味無いじゃないのよー!」
お母さんがお盆の上に乗ったお茶漬けを見てグズる。
「……はぁ。なにやってんだろあたし」
どうすんのよ、お茶漬け作りすぎちゃったじゃない。バカ春。
早乙女家を後にした僕は全力疾走で河原へ戻ってきた。
「おーい! 大丈夫か二人ともー!?」
叫びながら橋下に入ると、焚き火のドラム缶を囲んでいた皆が僕に気付いた。
「あ、おねーちゃんだー おはよー」
「随分長いランニングでしたね? 大丈夫ですか真鍋さん?」
「おぉ無事だったか! つーかくるみさん今起きたん?」
二人とも無事そうでなによりだ。こりゃ全力疾走すること無かったな。
ま、それはそれとして。
「なんだ遅かったな! 私は待ちくたびれたぞ!」
「知るか! なんでまだいンだよ! 帰れよ!」
田中さんたちに混ざってあのネーチャンも焚き火にあたっていた。
「失礼な男だ! ずっと待っていた私に礼も無しか! やはりジャパニーズの男はダメだな!」
「そうですよ真鍋さん。お姉さんは文句一つ言わずに待ってたんですから」
「そ、そうなん?」
ちょっと意外だ。てっきり周りに当り散らしていると思っていたのだが。
もしかしてこのネーチャンいい人? ……い、いやまさかな。
「いやあの、待っててくれたのはありがたいんだけど、勝負するって話は……」
「待て!」
無しにしませんか。と続けようとしたのだが、それをネーチャンが遮った。
「あれは私の勘違いだった! スマン!」
「は?」
勘違い? 何の話だ?
突然頭を下げたネーチャンを見て首をかしげる。
「あの。真鍋さんがランニングに行っている間、わたしがこの人を説得してみたんです。一緒に朝食を食べませんか、って」
「その通りだ! ミハルはタダで飯をくれると言った! だから私は戦わない!」
「ちょ!? 待て! 僕が『一緒に朝飯食おう』って言っても聞く耳持たなかったじゃん!?」
僕が意義を唱えるとネーチャンは、
「ジャパニーズの男は信用できないからな! だがミハルは別だ!」
「なん、だと……?」
ぶん殴っていいかコイツ。
「ま、真鍋さん。顔が怖いです……」
「なに言ってンの田中さん? 僕はいつも通りポーカーフェイスでしょうに」
「ううん。おねーちゃんこわいかおしてるよ?」
「ぐっ」
田中さんだけじゃなく、くるみにまで指摘されてしまった。
妹に怖い顔を見せるわけにはいかないので慌てて顔を引き締めた。




