いやいや、待てよ! 今お前に出て行かれたら、この部屋に残るのは……!
「それで? 春が戦う相手ってどんな人なの」
「なんか頭悪そーなネーチャン」
「頭悪そうって、そんな相手に作戦いらないでしょ」
「いやそれは無理っぽい。そのネーチャン熊でも一発KOしそーなパンチ打ってたし」
「それ人じゃないから!」
「ごめんKOは言い過ぎた」
でも熊と互角にやり合えそうだよね。あの人。
あ、そういえば。
「元軍人みたいな事言ってた気がする」
「……骨だけは、拾ってあげるわ」
「なに諦めてんの!?」
ちょっとちょっと!? 荷物運んでやったんだから見捨てんなって!
そりゃ熊も倒しそうな元軍人さん相手に勝てるわけねーけどさ! そこは咲さんの知力でなんとかしてもらわないと!
「いや、相手に無理があるでしょ」
「そこをなんとか!」
「そうねー なんか弱点っぽいとこあった?」
弱点ねぇ。あ、そういやアイツ腹減ったとか言ってたな。
「相手は空腹かあ。弱点とは言えないわね」
「ちょっと待て! 僕なにも言ってなかったよな!?」
「いや、だから顔に出てるのよ」
んな具体的なコト顔に出すか!
「ま、あたし達も付き合い長いんだし。表情くらい読めるようになるわよ」
いや僕達言うほど付き合い長くないから。
てか昨日初めて話した女の子にも心読まれてるし。
「はぁ。もういいよ、それでさ……」
と、その時。部屋の扉が控えめに開いた。
「あのー いちゃいちゃしてるとこ悪いんだけど、ちょっといいかなー?」
開いた隙間から、ちらりと顔を出して聞いてくる。
「どうしたのお母さん?」
部屋にやってきたのは、咲の母親である早乙女由紀さんだった。
「どうしたのじゃないわよー いつになったら朝ごはんになるのー!?」
「あ。忘れてた」
「もー! 今すぐ作ってきなさいよー!」
自分で作るという選択肢は無いらしい。
しかしこの家ではそれが普通なことらしく、咲は嫌な顔ひとつせず立ち上がった。
「はいはいわかったわよ。ごめん春、ちょっと朝ごはん作ってくるわ」
「え? お、おい?」
いやいや、待てよ! 今お前に出て行かれたら、この部屋に残るのは……!
「頑張れー! 咲ちゃーん!」
元気に見送ってくる母親を見て「はぁ」とため息をつき、そのまま咲は部屋を後にした。
そして部屋に残った僕と由紀さん。
「さて! 朝ごはんが出来るまで、私と世間話でもしよう!」
「……」
勘弁してくれ。




