高天原朱鳥と千田遥香
さ~て、今回の祓い屋は、高天原朱鳥のエピソードです。
長編連載が苦手な私なので、主人公を変えながら、連載一話完結型で祓い屋を書いていこうと思います。
よろしくお願いします。
完結した祓い屋 八ッ坂標の場合がホラー部門で日間2位にランクイン!ありがとうございます。
今後とも、祓い屋を、よろしくお願いします。
ここは、何処にでもある様な一軒の居酒屋、店名は『鬼の酔い処』と言う。
この店の、一番奥のテーブル席に、祓い屋三人の姿はあった。
千田遥香は酔っていた…それもかなり酔っていた。
「遥香ちゃん、どうしたの飲み過ぎた?」
心配になった高天原朱鳥は、遥香に声をかける。
テーブルに両肘を着いて、首を真下に折り曲げ、じっとテーブルの一点を見つめている遥香だったが、行き成り椅子から立ち上がると、突発的に怒りが込み上げて来たのだろう。
遥香の内に貯め込んだ積年の恨みを、爆発させる様に絶叫した。
「お、お、男何てぇぇぇ~!ヒック」
そして、静かに椅子に座ると、少し満足したのかニヤリと笑いながら、虚ろな目のままテーブルへ、バタリと伏せて寝息を立て始める。
「あれから二年の歳月が経過してるが、まだまだ癒えそうにないな」
侍園秋子は、遥香の様子を見て呟く。
「そうだねぇ。遥香ちゃんの場合、ただ振られたんじゃなくて、身代わりに差し出されてるから余計に引き摺るよ」
遥香を助ける為、魂の融合をした白雪との親和性がほぼ100%だった事もあって、未だ分離出来ていない。
「それ私の性でしょうか?あ、氷下さい」
寝ていた遥香の体が起き上がると、白雪に入れ替わっているのが分かった。
「白雪ちゃん、お久しぶり元気そうだね」
「まぁ、元気と言うか何と言うか…。普段は遥香なので、いつも通りです」
二年前のあの日、消えかけていた遥香の魂を救う為、最勝寺花瀬が白雪と魂の融合をしたのは、致し方なかったと言うしかない。
「朱鳥さん、氷です。遥香さん荒れてますね」
「遊悟君、ありがとう。ごめんね煩かった…今日は、ちょっと飲み過ぎたのかな」
1年前に比べたら、大人しくなった方だと思いながら、鬼拂遊悟は朱鳥に氷を手渡す。
「いえ、他の客も気にしていない様なので大丈夫です」
そう言うと、遊悟は踵を返し、厨房へと帰って行く。
以前、朱鳥は『お手伝いなの偉いね』と遊悟に訊いた時、『いえ、時給500円のアルバイトです。ウィンウィンの関係です』と、やおら小学生の答えじゃあないなぁと、感じた事を思い出し微笑んだ。
「はい、白雪ちゃん氷だよ」
「あ、ありがとうございます」
白雪は氷を受け取ると、まるでポップコーンでも放り込む様に、ポコポコと氷を口の中に放り込んでいく。
元が雪女の結晶化だった事もあり、冷たい氷が好きなのだろうと思っていた朱鳥だったが、どうやら違うらしい。
「白雪ちゃん、氷好きだよね。やっぱり雪女だった名残なのかな?」
しかし、朱鳥の予想とは違って、以外な答えが帰って来た。
「いえ、この肉体が貧血気味なので、氷を欲しているらしいです」
遥香が普段から、冷たいキャンディやかき氷を良く食しているのは、どうやら貧血が原因らしいと訊いて、朱鳥自身も氷菓等の冷たい物が無性に欲しい時があるなぁと思っていると、遥香の様子がおかしい事に気付く。
「そう言えば、そんな時あるね。あれ、遥香ちゃん大丈夫?」
「うっ、は、吐きそうです。今は白雪です」
顔面蒼白になりながら、トイレに駆け込む遥香の中の白雪が、とても不憫だと思う朱鳥だった。
翌日の遥香は、夕べの事を憶えていないのは、いつも通り事だった。
「凄く頭痛いです…朱鳥さん、全く記憶無いんですが、私やらかしました?」
「う~ん、特に問題ないよ。酔って憶えていないだけじゃあないかな」
「それが問題何ですよ。問題発言とか行動してなかったです?」
「それも、いつも通り…かな」
朱鳥の僅かな間に、敏感に反応する遥香は頭を抱えて天を仰ぐ様に嘆いた。。
「わあぁ~ん。絶対何かあったんだぁ」
どちらかと言えば、とばっちりを食ったのは白雪の方だったと思う朱鳥だが、遥香が気にすると思い伏せておく事にする。
そんな遥香だったが、目敏く朱鳥の目の下にある隩に気付く。
「朱鳥さん、どうしたんですか?何だか冴えない顔してますね。目の下にも隩あるし」
「そう?まぁこのところ少し眠れていないかなぁ。一晩中、夢見てる感じで、夜中に目が醒めると朝方まで眠れない事もあるしね。でも夢の内容とかは全く覚えてなくて…標さんいたら訊けば分かるかなって思うけど、本部に移転したから、ここには居ないし」
「朱鳥さん、標さん好きですもんね」
意表を突かれる遥香の言葉に、朱鳥は顔を真っ赤にしながら、頭と手を左右に振った。
「は、遥香ちゃん、標さんは人としても祓い屋としても尊敬していると言うか好きと言うか付き合いたいとかそこまでじゃあなくて、まぁ出来る事ならって、もう遥香ちゃん」
朱鳥の様子を可愛いなと思いながら遥香は温かい眼差しで見つめるのだった。
そして、話題は朱鳥の夢へと移行する。
「その夢って、少しも覚えてないんですか?」
「う~ん…そうなんだよねぇ。あっ、おもちゃの人形かなぁ。そうそう、毎回おもちゃの人形が、あった様な…?」
朧気で、曖昧な夢の記憶しかない為、確証はない。
「それって、人型の人形とかですか?人型だとすると何等かの呪いの線もありますね」
「う~ん、どうだったかなぁ」
その時、テレビからピアノの音が聞こえたと同時に朱鳥が叫んだ。
「そうだ!楽器だ!楽器の人形が沢山いたよ」
「楽器の人形ですか?」
「そうそう、楽器の人形だった」
「だとすると」
遥香は額に、右手人差し指を当てて、名探偵の如く思考を巡らせる。
「だとすれば」
ゴクリと唾を飲み込んで、朱鳥はその名推理…いや迷推理を待った。
「えーと多分、関係無いですよ」
「だよねぇ。それじゃあ遥香ちゃん、仕事に戻ろうか」
「そうしましょう。朱鳥さん」
そして、二人は休暇所の椅子から立ち上がり、それぞれの業務へと帰って行った。




