↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リーゼロッテはいつも怒ってる  作者: 有栖多于佳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/30

男爵令嬢が王太子殿下との真実の愛を育むか

リーゼロッテたちは貴族学校の最終学年へと進級し、それにともない《王太子と婚約者の公爵令嬢》の結婚の日取りも決まった。


リーゼロッテがサルアール王家とへ嫁ぐことは、北のロザリア王国との婚姻契約に基づいたモノであり、教会が保証人になっているため、それを国内外へと発表するだけでも大変手間がかかる。

更に、実際結婚式を挙げるまでには数多くのセレモニーや各国からのお祝いの使者の来日など通常の業務に結婚関連の業務も重なり、王城勤めの者は目の回る忙しさになった。


公爵家は花嫁の婚家としての準備もあるため、公爵も夫人も日々忙しく過ごしていた。

しかも、リーゼロッテが王家へ嫁いだ三ヶ月後には辺境伯家に長女のローズも嫁ぐのだ、公爵家の者で呑気にしている者など誰一人としてない。

結果、リーゼロッテもローズも思うような通学の機会が持てず、進級してから最初に登校できたのは夏休み前の定期試験の時であった。


すぐに夏期休暇に入り、ロザリア王国からリーゼロッテに会いに、実の両親であるプールヘム伯爵家の一同が訪ねてきて、ズルいズルいと言ってはわがままばかりだった年子の妹が年相応のマナーを身に付けた淑女になっていたり、まだ幼い姿しか覚えのない弟が正しい貴族の振る舞いが出来るような少年に成長していたり、知らない内にもう一人弟が出来ていたりと、随分様子が変わっていた。


両親も思い出の姿形より年を取っていて、驚いたことに実母は公爵夫人によく似た鷹揚な態度の貴婦人然としていて、実父は幼子や姉弟を気にかける子煩悩な姿を見せていた。


ロゼリア王国のプールヘム家に何があったかはわからないが、その姿はかつてリーゼロッテが見たことがない微笑ましいものであった。


そんな忙しい日々が落ち着き、やっとヘンリーと一緒の馬車で登下校出来るようになったのは冬が到来した頃だった。


「やっと、やっと、ロッテと学校で過ごせる。もうすぐ終わってしまうが。」

ヘンリーが感慨深げに独り言ちる。


「それは、殿下がどうしても卒業式の後すぐに結婚したいとごねたからですわ。新年度は文官やメイドも新しい者が入ってきて通常でも忙しいのですもの、夏か秋まで延ばせば良かったのですわ。」

馬車の中、ローズが向かいに座っているヘンリーを半眼で見る。


「卒業したらすぐに結婚して欲しいとロッテに言って了解してもらったのだから、それを延ばすなんてあり得ないだろう。」

屁理屈(ヘンりくつ)を捏ねる。これで押し通してきた実績のある言い訳である。


「なら、学生生活の最終学年をほとんど過ごせなくても致し方ありませんわね。」

ローズが扇で口元を隠して、呆れた声で言った。


リーゼロッテはいつもの無表情な顔をヘンリーに向けて静かに佇んでいた。


学校に着き、ローズとリーゼロッテをエスコートして馬車から下ろすと、久しぶりの教室へと向かった。


「あーーー!へんりーーーさまーーーー!」

突然教室の中から大きな声で王太子の名を呼び、女生徒が駆け寄ってきた。


「おはようございまーーーす、へんりーーー様、とその人誰ですか?」

その女生徒が抱きつかんばかりにヘンリーに寄り付くと、横に居るリーゼロッテとローズを見て低い声で聞いてきた。


「・・・え?」

「「「・・・え?」」」


ヘンリーだけでなく、その場に居た者全員がその言葉の意味を測りかねて驚きの声が漏れた。

この国で、この貴族が通う貴族学校で、リーゼロッテを知らない者が居るとは思えなかった。


「ねえ、あなた誰ですか?私のヘンリー様にまとわりつくの止めて下さい。」

その女生徒は目に涙を溜めて、リーゼロッテの前でプルプルと震えながら訴えた。


「・・・・」

リーゼロッテは一瞥すると横を通りすぎた。


「え?無視ですか?私が元平民だから差別するんですか?ヒドイ。ヒドイわ。」

その女生徒はリーゼロッテの前に回り込むと、涙を流しながらヒドイヒドイと叫び出した。


「・・・・」

「・・・・」

今度は一瞥もなく歩みを止めること無く進む。

リーゼロッテだけでなくローズも無言で横を通りすぎ、席に着いた。


「君、リーゼロッテは私の婚約者である。そういう非難めいた言葉は止めないか。そして私にまとわりついているのは君だと何度言えばわかるのか。私は君に名を呼ぶ許可を与えていない。」

ヘンリーが強い口調で女生徒に告げる。


「でも、学校では平等だって聞きました。ヘンリー様も私の名前を呼んでいいですよ。平等です。」

女生徒が笑顔で上目使いにヘンリーを見上げて言った。

先程の涙は何だったのか?



「またアレが騒動起こしたの?」

昼休みの食堂のサロンにヨーゼフを呼び出すと朝のことをローズが話した。

朝の女生徒は男爵家の庶子で、春に三年へと編入してきたという。

その入学の時に、校舎で迷って困っていたのをヘンリーが見つけ声をかけたと言う。

それからはほぼ毎日ヘンリーにつきまとっていたらしい。


クラスの他の生徒が『許可も無く王太子の名を呼ぶことは不敬だ』とか『腕を絡めたり、近くに寄ったり、侍ったりする行為は婚約者の居る人にするのはマナー違反』とか色々注意すると朝のように虐めだとか差別だとか騒いで泣き喚くので、今では近寄る人も居なくなったとか。


教師も注意をすると、朝のように『平等』を盾に取って喚くわりに、最後は『私女の子なんですけどー』と言って泣いてお茶を濁すらしい。


ヘンリーもその都度注意をしているが、『王太子なんだから庶民の感覚もしらないとダメですよ』などと意味不明な言葉で煙に巻かれていたので、強く止めるように言うが、『俺様ツンデレ溺愛のパターンですか!』などと意味不明な事を言って余計に付きまとう始末。


「男爵に注意するように学校側から伝えなかったの?」

ローズが理解を越えた女生徒の行動に首を傾けながら聞いた。


「勿論何度も言ったし、王家からも非公式ながら注意喚起はした。男爵は何度も学校に連れ戻しにやって来て、始めはタウンハウスで謹慎させたが、抜け出してしまうので最後は領地に送って監禁紛いのこともしたって。でも、抜け出すんだよ。これ以上は迷惑をかけられないと学校を退学したのが夏休み前なんだよ。」


「だから前のテストの時は居なかったのね。え?じゃあ、なぜ朝学校に来ていたの?」

「だから、抜け出したんだろう?」

「あれって、不法侵入なの?大丈夫なのこの学校のセキュリティは?」

ローズが驚いて、淑女にあるまじき声を上げた。


「だから今それを殿下がやっている。彼女はあの後殿下の護衛に捕らえられて連れていかれた。もう、男爵家はお終いだな、奥方は初めの学校からの知らせを聞いて倒れてしまってまだ床から起き上がれないらしいし、男爵も心を病んでしまったとか。」

ヨーゼフが遠い目をして言った。


「おかしいわね。なにか感じないのかしら?」

リーゼロッテが抑揚のない声を上げた。


「一応、魔術師団員が男爵家を訪ねてみたんだけど、洗脳の類いは無かった。強いて言えば、男爵家に引き取られる前の彼女を知る平民はみな彼女がそんな非常識な行動を取るとは信じられないと言っていたそうだ。男爵も引き取るかどうかの面談をした時は落ち着いた優秀な子だったので引き取ったと言っていた。」

ヨーゼフが魔術師団での調査の結果を話す。


「ああ、確か男爵は二人兄弟の弟だったわね。嫡男の兄がメイドの子と良くなったので、相続権を放棄して平民になったのよね。弟が家を継いだけれど子が出来ないので兄の子を養女にしたとか。その時あの状態なら養子縁組なんてしないものね。」

情報通のローズは下位貴族のお家事情にも詳しかった。


「ああ。編入のテストも良いデキだったし、面接も申し分なかったので許可を与えたと教師は言っていたな。とにかく、殿下にあった時から性格がおかしくなって、人が変わったそうだよ。」


「二重人格なのかしら?」

リーゼロッテが無表情な顔をヨーゼフに向けて問う。


「どうだろう、でも確かに何らかの精神の障りがあるのかもしれないね。」



牢の中に朝の女生徒が居た。

その檻の外にヘンリーとリーゼロッテ、そして魔術師団長のイーサンとアッシュグレーの髪(ラルゴ)魔術師が立っていた。


「あ!?ヘンリーさまー!助けに来てくれたんですか?私怖かったー。」

女生徒の目には、ヘンリーしか見えていないのかもしれない。


「いや、助けになど来ていない。聞きたいことがあるのだ。素直に答えて欲しい。」

ヘンリーが冷たい声で言い捨てた。


「どうしたんですか!あ、この女が邪魔をしてるのね。あなた、どう見ても悪役令嬢じゃないの!ヘンリー様はね、私との真実の愛を貫きたいのよ。邪魔したり虐めたりしても無駄なんだから!」


「・・・悪役、令嬢とは?」

リーゼロッテが聞きなれない言葉を聞き返す。


「そのままズバリ!悪役よ。あなたが愛する婚約者のヘンリー様の心変わりを受け入れられずに、元平民の私を虐めるからヘンリー様からもっと嫌われていくの。そうして、私を妬んで嫉妬から私の命を狙ったことが公になって処刑される運命なのよ。」


「な、何を言っているんだ。私は君を愛してなどおらんし。リーゼロッテは妬みなどで人の命をどうこうするような者では無い。何を言っているのだ!!」

ヘンリーが大変憤慨して言い返すが、その言葉はその女生徒の耳には届かないらしい。


「なるほど。イーサン様、ラルゴ様、用意は出来て?」

「ああ。」

「はい。」


リーゼロッテが魔術師たちに問うと、返事を聞いたか否かで指を鳴らした。


すると暗転した世界の中に五人が浮かんでいた。


ラルゴが魔法を詠唱して女生徒の精神を拘束すると、リーゼロッテが更に指を鳴らし透明な球体を出現させた。

イーサンが魔法を詠唱して、ラルゴが拘束している女生徒の精神に光の魔法を重ね掛けした。

その中で女生徒でない魂が現れ、それを分離してリーゼロッテの作った球体へと入れた。


球体の中には、茶色の髪で紺に白い線が入った襟のついた服と太ももが丸出しの破廉恥な短いスカートを履いた女生徒とは違う面立ちの姿が薄っすらあった。


「これは何だ?」

ヘンリーが固い声を上げた。


「名付けるとすれば魂と呼ばれるモノでしょうか。」

リーゼロッテが抑揚の無い声で答えた。


「で、ではこの魂はどこのモノだ?見たことが無い格好をしているが。」


「それを今から聞き出していきましょう。」

リーゼロッテが指を鳴らすと、元の牢に戻り、透明な球体は宙に浮かんでいた。


イーサンとラルゴは球体の中で、その見慣れぬ破廉恥な格好の女生徒と対話していた。


時間にして数十分、リーゼロッテに因って元の場所に戻された。

透明な球体の中は空になっていた。


「この組紐に付いている石、これが闇の魔石。これをある店であの女生徒は養母に買ってもらった、と。なんでも流行りの店の一点物だったとか。これからの慣れない貴族学校生活を応援したいという親心みたいで悪意はなさそうです。それになぜか、移ろう魂が取りついてそれを身に着けた女生徒の魂を追いやって暴走した、と。」

ラルゴが球体の中で聞いた話をヘンリーとリーゼロッテに報告した。


「この石は、メアリにわたしくしが差上げたモノを砕いて再利用したのね。全く新商品を発売する前には魔術師団に報告するように言い聞かせなくては。」

リーゼロッテが珍しく眉を下げて困り顔で言った。


「どうやらまた新たな魔法を図らずしも作り出したようだね。」

イーサンは可笑しそうに笑って言った。


「笑い事ではない。これではあの女生徒も男爵家も被害者ではないか!彼女は大丈夫なのか!?」

ヘンリーが渋い顔をしてイーサンに聞く。


「ああ、今魔術師団の治療室で休ませてる。男爵家にも使いを出した。」


「では、あの移ろう魂とは何だったんですの?あのような格好をする者が居る国とはどこかしら?悪役令嬢とはなんなの?」

リーゼロッテは悪役令嬢の呼び名を少し意識しているようだ。


「魂の欠片なので覚えてない事も多かった。高校生という学生らしく、服は制服だという。」

イーサンの言葉に、ヘンリーが

「あんなに短いスカートが制服なのか!どんな国だ!?」

と、すごい剣幕である。

「ヘンリー様、それはどんな感情の発露ですの?」

リーゼロッテが半眼を向けて冷え冷えした声で聞く。

「あ、いやその」

「はは、確かにね。でもみな同じ服を着て学校に通っていると言っていた、その学校で読んでいた本の挿し絵にヘンリー様がそっくりでその本の世界に入り込んだと思い込んだらしい。」

イーサンが楽しそうに話した。


「だから、笑い事ではない。だが、そうか。その本の内容が学校で女生徒が叫んでいた真実の愛であり、悪役令嬢という敵方と対峙するのだな。そういうことだ、リーゼロッテ。気にするな、悪役令嬢などという呼び名はこの国には無い。」

ヘンリーがリーゼロッテを気にしながら言った。


「欠片の女生徒は、自分の名も覚えていないような長く移ろっていた魂のようでした。

普通なら人に取りついたりは出来ないほど弱った魂が憑依出来たのは、組紐の魔石が依り代になったからだと思います。

闇の魔力が依り代になるようです。

確認しましたが、他の魔力を貯めた魔石では依り代にならないようです。

闇の魔力に何かがあるようで目下調査中です。」

ラルゴがヘンリーに報告した。


その後、意識を取り戻した女生徒は憑き物が落ちたように穏やかになった。移ろう魂に憑依されていた時のことは覚えているが、自分の意思で発言や行動が出来なかったと言っていた。

王家から男爵家へは今回の事件は不問とされ、少なくない迷惑料が支払われた。

男爵と奥方は、娘が元の聡明で穏やかな姿に戻ったことを歓んだ。

娘は過去の振る舞いを詫び、奥方も自分が渡した組紐のせいだと娘に詫びた。


そして、この顛末により闇の魔石を使用した商品は不買と決定し、メアリの店は魔術師団の管理下に置かれた。


そんな騒ぎが収まった頃、貴族学校の卒業式を経て、王太子ヘンリーと公爵令嬢リーゼロッテの結婚式が盛大に執り行われたのだった。


「本日、わたしはリーゼロッテを妃へと娶り皆の前で結婚の誓いを出来る幸運を嬉しく思う。

今日という日を迎えられたのは、私とリーゼロッテ、二人を支えてくれた多くの人々のおかげだ、皆に感謝したい。

これからも臣民の為、王国の発展の為、二人で苦難を乗り越え喜びを分かち合い進んでいくことを誓おう。

そして、リーゼロッテ。私の手を取ってくれたあなたに、私の永遠の愛をここに誓う。」


「私も、ヘンリー様への変わらぬ親愛を誓います。」


ヘンリーの大粒の涙涙の宣誓とリーゼロッテの麗しの(かんばせ)に微笑を湛えたその姿に来賓も国民も大いに沸き、その熱狂の中、誓いのキスが行われた。


王国にこの素直で涙もろい王太子を残念王子出し殻王子と呼ぶ者はもう居なかった。

率直な言葉で人の心を慮る王太子だと、貴族平民問わず認めていた。


そして皆は最後にこう言うのだ。


《王太子妃リーゼロッテ様がいれば大丈夫》と。


お読みくださいましてありがとうございました。


誤字誤謬があるかもしれません


わかり次第訂正いたします。


いいねなどいただけますと励みになります。


よろしければお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。