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リーゼロッテはいつも怒ってる  作者: 有栖多于佳


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20/30

リーゼロッテと、ローズの婚約に向かう道中の他領でざまあする

長い物語になってしまいました。

王都を出発しても、その王都の周りのかなりの部分が王領なので、特に問題なく一行は進む。

王弟の公爵にとっては、実家のような安心感である。


サルアール王国は、どこも他国よりは栄えているが、やはり王都は首都としての賑わいをみせている。

そして、この国の一番大きな貿易の要の港は南の辺境伯爵領なため、王都から南に向かう道はどこも整備されており、また王族とその縁戚貴族が領地としていた。


もちろん自身のロレーヌ公爵領も王都に隣接する土地であり、そこは農業が盛んな場所であった。

久しぶりに自身の領地に泊まり、そこでもローズの婚約を領民に祝われた。


そしてまた主要街道を一路南下すると、今度はまた広大なクラランス公爵領に変わる。

ここは王妃殿下の生家であり、魔術師団長イーサン、魔術師で生徒会を共に運営する友人のヨーゼフの領地である。

隣接領地の同じ年の公爵令嬢同士、王妃殿下と公爵夫人(ジェーン)は幼馴染みの親友なのも頷ける。


この家門は王国で希少な魔力を持った一族であり、広大な領土を一族の者に部分ごと代統治させて、その家門の血が他所に流出しないように管理されていた。

とは言え、ヨーゼフのように婿入りする者、王妃殿下のように嫁に行く者もいるので、北のロゼリア王国のような厳密な管理では無さそうだが。


クラランス公爵領は、公爵と次男のトマスが領地に引き込もって管理していた。

早くより魔力の多さとその才能を見せていたイーサンは嫡男ではあるが、魔術師団を任されていたので、実務的な領地管理は初めから次男が引き継いでいた。


クラランス公爵領都でも歓迎を受け、公爵領に数日の滞在の後、先を急ぐ。

なんせまだ道中の半分を過ぎた位である、先は長いのだ。


そこからも南下に南下をして、その先も南下して進んだ後、やっと余り関係の深いとは言えないダビイ伯爵領に入った。

関係が深くないとは言え、ダビイ伯爵家は建国以来の古い家系で王家に長く忠心を誓っている名門であった。


「これはこれは、公爵閣下。我が家へのお立ち寄りを感謝します、また今回のご令嬢のご婚約、心よりお慶び申し上げます。」

ダビイ伯爵代理が大袈裟な身ぶり手振りで公爵(おとうさま)に挨拶をした。

それに続いて、伯爵代理夫人と娘が同じような振る舞いで挨拶を述べる。


「うむ。歓迎、大儀である。このような歓待に感謝する。」

公爵と夫人、そしてローズとリーゼロッテが挨拶を返した。


そして、屋敷の客間に案内される中、リーゼロッテがそっと使い魔を放っていたのをローズだけが目敏く見つけていた。


「あらあら、まあまあ。フフフ」

ローズが小さく楽しそうに微笑むと、前を歩いていた公爵夫妻が

「なんだ、ローズどうした?」

「あら、なにか楽しいことがあったのかしら?」

と気づいた。


「いえ、何でもございませんわ。」

そういうと挨拶をして、自身の用意された部屋に入って行った。



トントン、トン


リーゼロッテの部屋にローズ付きの侍女が先触れに来て、すぐにローズがやって来た。


「ねえ、リーゼ。さっきのはどういうこと?」

悪戯っ子のような笑顔でローズが聞いてきた。


「・・・どうかは、まだわからないわ。何せまだ数十分と経ってないのだから。」

リーゼロッテが抑揚の無い声でいう。


「そうは言っても何かあるから使い魔を放ったのでしょ?キャーこの目で現場を見られるのね。」

ワクワクが止まらない様子のローズが興奮して更に聞いてくる。


「・・・、スキルの再調査を教会がしているのは知っているでしょ?」

リーゼロッテが表情のない顔をローズに向けて関係のない話をし始めた。


「ええ、やっと王都と公爵領が終わったのよね。それでも、スゴく早いわよね、一年で全国民の再判定を半分以上終えているんだから。」


「そうね。後一年位で全国民の再判定が終わると思うの。そして、終わっている中で、スキル持ちは他国と同じように一万人に一人位の割合で発現が認められたの。その中にはあのメアリも居た訳だけど。」


「メアリねー。リーゼの言った通り《スキル 探求者》があったなんて。『一つのことを突き詰めて求める成果を手に入れるために突き進む』って正にメアリよね。」

リーゼロッテの話にローズも相づちを打つ。


「スキルは貴族平民問わず偶然の発現だから、調査の結果全て王国に教会から報告書が上がっているの。」

「そうでしょうね、第二第三のメアリを見つけていきたいもの、当然よ。」


「そして、このダビイ伯爵家のご令嬢に《スキル 演算》が現れていることが判明しましたの。とても貴重なスキルでその理論を活用できるようになれば、この国の管理業務が飛躍的に変わるものだそうですわ。」

リーゼロッテが表情のない顔をローズに向けて抑揚の無い言葉でいう。

表情も言葉に抑揚も無いが、これはリーゼロッテが重要視していることなんだろうな、とローズは感じ取った。


「そうですのね、演算って私にはよくわからないけれど。」

ローズは算術系は苦手なのだ。

「ええ、何かと掛け合わされたら、技術の発展にとても繋がるモノらしいですわ。お義兄様とイーサン様が言っていたわ。」

リーゼロッテも具体的には何をするのに使うのかはわからないようだが、きっとあの二人がそういうのならそうなんだろうな、と思った。ローズも同様だった。


「で、それがどうしたの?」

「そのご令嬢は先程の方ではありませんわ。」

リーゼロッテが何気なく言うが、ローズは息を飲んで

「え?それって?」

と食い気味に質問した。


「ここの領での調査は、ごく最近終えたばかりですから、居ないはずがございませんわ。それなのに、公爵家への出迎えに姿を見せないなんて、普通はあり得ませんでしょ?」

「そうね、そうね。」

淡々と話すリーゼロッテと対照的にローズは前のめりである。


「だから、そのスキル持ちのご令嬢を使い魔に探させているのですわ。」

「もう、この話の間に解ったのでしょ?教えてよー。」

とても婚約に向かう淑女の仕草では無いが、ローズはそんな事にこだわる子ではないのだ。


「ふうー。」

リーゼロッテが珍しく人前でため息を吐くと使い魔を召喚した。


そして暫くの間目を瞑っていたが、もう一度、ほうぅぅーとため息をつくと話し出した。


「そのご令嬢はメイドの服を着て下働きをさせられておりますわ。骨と皮だけのような痩せ細った姿で、日が昇るより早くから水汲みをさせられて、夜は皆が寝静まってから台所の残飯を食べて命を繋いでいる様子。」


「・・・確か、今日出迎えた父親は、婿養子ではなかったかしら?そして隣の夫人はメイド上がりの後妻とその娘ね。」

ワクワクとした態度とはうって変わって、ローズが半眼でリーゼロッテに語る。

リーゼロッテが目で『もっと説明を』と求めると、


「伯爵は代理であって、本当の伯爵は現在王都のタウンハウスに奥方と暮らしているはず。嫡女の娘が急に馬車の事故で亡くなって、奥方が悲しみにくれて体調も崩してしまわれたから、王都の医師にかかるために領地を留守にしているのよね。馬車の事故も、暴風雨の中どこかに向かった娘が崖から馬車ごと転落して亡くなったっていう不可思議な事故だったはず。伯爵によって調査をされたんだけれど、証拠が無くて迷宮入りしたハズよ。」

ローズがリーゼロッテに顛末を話した。


ローズは演算などの算術は苦手だけれど、各貴族の家門の歴史や領地のことなど非常に詳しく覚えていた。また社交的で、その穏やかな顔立ちと優しい話し方から、ご令嬢からの相談に乗ることも多く、公爵夫人と連れ立ってはよくお茶会にも通っているため噂や流行もよく知っているので、リーゼロッテの大切な情報源であった。


「そうなのね。そう言えば、その伯爵家の嫡女はいくつなのかしら?」

「前妻が亡くなったのが三年前だから、たぶん十歳位じゃないかしら?」

「あの後妻の子はいくつかしら?」

「そうねー、七つか八つってところじゃない?」

リーゼロッテが冷え冷えした顔で聞くと、ローズも同じ声色で答える。


「では、参りましょうか。」

「ええ、すぐに。」

二人はスッと音もなく立ち上がると、扉に向かって歩き出した。



食料庫から小麦粉の大きな袋を出そうと悪戦苦闘している小さい少女がいた。

古びたお仕着せを着た骨と皮のように痩せたその少女には持ち上がる筈もない大荷物だ。

しかし、それを急いで厨房に運ばないと、後妻に今日も無能と罵られて夕飯を抜かれる。

厨房の料理人や他のメイドが彼女を手伝えば、その場で紹介状の無い解雇をされるため誰も助けることができない。


「はあ、はあ、はあ、はあ。」

鶏ガラの少女は余り引きずると袋に穴が開いて小麦粉が溢れてしまうことはわかっていたが、何せ力が無いため持ち上がらない。


早くしないと、穴が空かないようにしないと、ああ、お腹が空いて目が回る・・・


気ばかりが急いてしょうがないが、現状どうにもできなくて途方に暮れていた。

すると、突然その小麦の大袋が勝手に宙に浮いた。


「わ、わああああー!」

声を上げて驚くと、腰を抜かした。

叫び声は周囲に響くほどではなく、蚊の鳴くような囁きだった。


「大丈夫よ、怖がらないで。」

優しげな声が近くから聞こえると、急に目の前に茶色の目と髪の優しい顔立ちの少女と、薄い金髪にアイスブルーの瞳の人形のような美少女と、大柄な小麦粉の袋を脇に抱えた騎士が立っていた。


「な、なあ、なんで、いや、どなた様でし、あ、その紋章、公爵家のご令嬢でおられますか?」


驚いて、腰を抜かしながらも騎士の腕章から公爵家と見極めた、鶏ガラ少女は立ち上がるときちんとしたカーテシーを披露した。


「楽にして。わたくしはロレーヌ公爵家長女ローズ、こちらは妹のリーゼロッテよ。あなたは?」

リーゼロッテが認識阻害魔法を解くと、ローズが美しい笑顔を向けて名を名乗る。


「わたくしは、ダビイ伯爵が孫娘 イザベル ダビイでございます。」

「そう。ではなぜ伯爵家のご令嬢の貴女がメイドの格好をして、こんな所で自分の体より大きな小麦の袋を引き摺っているの?」

ローズが優しい声で質問する。


「!!」

イザベルはその質問に息を飲むとなんと答えていいかと不安に目を泳がせる。


「ここではなんですわね。一度、わたくしの部屋へと参りましょう。」

リーゼロッテがそういうと、指を鳴らして一瞬、リーゼロッテに与えられた客室へと景色が変わった。


「え?え?これって?」

魔法に触れたこともないイザベルの驚きを宥めるでもなく、

転移魔法(ワープ)ですわ。」

と、なんでも無いことのようにリーゼロッテが言った。


「さて、そんなことはさておき、あなたのことを教えてくださいな。」

ローズが優しくそういうと、軽く手を打つ。

すると、すぐに公爵家の侍女とメイドがやって来て、イザベルを連れて客室の風呂場へと向かったのだった。



晩餐の席に伯爵家の出迎えた面々が着席して、公爵たちを待っていた。

ドアが開かれて、公爵がエスコートした夫人と共にやって来て着席する。

その後ろをローズ、リーゼロッテと一緒に、なぜかドレスアップしたイザベルが入ってきた。


「な、なぜお前がそこの席につくんだ!控えろ。」

「そうよ、図々しいわ、自分の立場を考えなさい!」

伯爵代理夫妻が猿山の猿のように、キーキーとした声を上げてイザベルを怒鳴った。


「う、ううん。」

公爵が咳払いをして、その怒鳴り声が不快だと言葉でない非難をする。


「は!申し訳ありません。公爵閣下。物を知らぬ愚か者が紛れ込んだようです。直ぐに排除致します。誰か、これを摘み出せ!」

伯爵代理はそう言うと、使用人に声を荒げて命令した。


しかし、誰もその命令に従わない。


「な、何をしてるの!早くしなさい。」

後妻も後ろに侍るメイドに命じたが誰も動かない。


「何をしてるの?大体あんた、何よそのドレス!そんなの持って無いでしょ?そんなカッコしてないで早くいつものぼろ雑巾のようなカッコに着替えなさいよ!」

後妻の娘が目の前に公爵家がいるのも気にせず、いつもの具合でイザベルを貶す。


「なんで動かん、もうよい。」

そう言って立ち上がった伯爵代理がイザベルに向かって行くと手を掴み力任せに引っ張った瞬間、なぜか自分の体が硬直して動かなくなった。


伯爵代理が掴んだイザベルの腕から、手を離すように、護衛の騎士が黙ったまま指を一本一本開いて行く。

そしてその硬直した伯爵代理の体を、元居た椅子の前まで抱え歩いて置いた。


「これはどういうことでしょうか?」

さすがにこれは可笑しいと気づいた伯爵代理が動かぬ体のまま目を公爵に向けて聞いた。


「それはこっちの言い分だ。どういうことか、聞かせてもらおう。リーゼ。」

公爵が重い口調で問いかけ、リーゼロッテに声をかけると、リーゼロッテが指を鳴らした。


伯爵代理の硬直が解け、代わって重力に押し付けられるような力を肩に感じて椅子に無理矢理座らされた。


ーこれが魔法の力か!ー


言い様のない怖さに、伯爵代理も後妻もその娘も顔色を悪くして、口を閉じた。


「さて、伯爵代理、君は代理だ。当主は今王都のタウンハウスに居られる。当主の後継者はこのイザベル嬢となっているが、その嫡女に対して下女のように扱い食事も与えず、教育の機会も奪うこの行為は虐待として処罰の対象だが、相違ないか。」

公爵が強い口調で詰め寄る。


「いや、そんな、虐待などあるわけがありません。」

額から脂汗を流し、目を泳がせて伯爵代理が言い訳をする。


「嘘ですわ。」

リーゼロッテが冷たい視線を向けて素っ気なく答える。


「リーゼロッテはこの世で知らぬ者は居らぬ存在だが、その前でよくそんな嘘がつけるな。」

公爵が呆れた物言いで言い返した。


「知らぬ者の居ない存在ってナニ?」

後妻の娘が空気を読まず母親に聞いた。

「ば、バカ。シッ」

後妻は慌てて口を塞いで下を向いた。


「何、知らぬ者が居るのか。貴様も知らぬか。」

公爵が冷たい目線を伯爵代理に向けて聞く。


「あ!」

リーゼロッテのスキルを思い出した様子の伯爵代理は自分の口を手で押さえた。


「ハイかイイエで答えて下さい。イザベル貴女はこの家で下女として扱われていましたか?」

「ハイ。」

イザベルが小さく肩を震わせながら答える。


「バカ!何言ってんだい!」

後妻が咄嗟に悪態をつく。


「まあ、この辺りには、随分育ちが悪いオウムが居るのね。」

公爵夫人が扇で口元を隠して笑いながら独り言ちる。


「あ!」

後妻も口を手で覆って黙った。


「イザベル、貴女はまともな食事も与えられず、服もボロを着せられていた?」

「ハイ。」


伯爵代理たちの顔色がみるみる悪くなっていく。


「伯爵代理、伯爵家当主の娘でイザベルの母を悪天候の中呼び出したのは貴方?」

リーゼロッテが急に伯爵代理に質問を投げる。

伯爵代理は口を押さえて答えない。


「伯爵代理のご夫人、イザベルの母の馬車に細工をしたのは貴女?」

後妻も口を塞いで下を向いて震えだした。


「リーゼロッテの前での沈黙は了承と決まっているのだよ。この国でも教会でもね。連れていけ。」

公爵が厳しい口調でそう告げると、護衛騎士が扉からゾロゾロと入ってきて伯爵代理と後妻を捕らえて出ていった。


「な、何するのよ。おとうさん、おかあさん。離して、二人を離して。お姉ちゃん、助けて。」

後妻の娘は泣きながら、騎士に連れていかれる両親にすがり付き、イザベルに助命嘆願する。


「それは無理よ。」

イザベルは冷え冷えとした声で拒否をし、視線を宙に漂わせていた。


その日の晩餐は、各々部屋で取ることになり、翌日には隣接したクラランス公爵家から魔術騎士が派遣されて、伯爵代理と後妻、その娘は王都へと護送されることになった。


伯爵家にもクラランス公爵家から代理人を臨時で派遣することになり、イザベルは無事保護されることになった。


「全くゆっくり休めなかった。」

公爵が馬車の座席に座ってグッタリとしていた。


「ふふふ、そうは言っても虐待であの少女が儚くなったりしたらそんなモノでは済まないわ。」

公爵夫人が優雅に扇を揺らして言った。


そして公爵家一行は日程を数日早めて一路南下していくのだった。


その後、取り調べによって伯爵代理が妻を自分が賊に襲われたと偽の情報で暴風雨の中呼び出し、メイドだった後妻が予め馬車に細工をしたことにより、崖で車輪が外れて崖から転落死するように計画殺人をしたことがわかった。


伯爵は激怒して、伯爵代理の一族にも後妻の一族にも多大な損害賠償請求をして、一族はみな破産し、鉱山労働を科された。渦中の二人はその鉱山で何者かに殴り殺されてしまった。

後妻の子は実は伯爵代理の子では無く、亡くなった伯爵夫人を暴風雨の中馬車で運んでいた御者の子で、伯爵代理と上手く行くのを邪魔されるのを危惧して、一緒に事故に見せかけて殺害したのだった。


実の父親が母親に殺されたことを知ったその娘は心を壊してしまい、領地の修道院で静かに暮らすことになった。


イザベルの《スキル 演算》にロレンツとイーサンが興味を持ち、イザベルの心の傷が癒えた頃、伯爵家の当主と入れ替わりで王都のタウンハウスにやって来て魔術師団での研究に加わることになるのは、また別の話。

お読みくださいましてありがとうございました。


誤字誤謬があるかもしれません。


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