表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/74

44 ヘルスティア視点

「……何が……?」


 目の前の地面を見て思わず、呟いた。彼女が杖を振り上げると同時にその宝石が赤く輝いたのだけは覚えている。ふと横を見ると、ハナ殿が我を抱えるようにして倒れていた。


「ヤッベェだろあの威力……。」


 彼女は起き上がりながら、その背後に目線を向ける。つられてそっちを見てみると、グラウンドの地面がガラス状になっていた。


「ふむ、避けましたか。魔法の展開速度には自信があったのですがね。」


 興味深そうな表情を浮かべながら、その赤い瞳でフラメ先生はハナ殿を見つめる。


「手加減してくださいよ、先生……。」


「実戦において手加減はあり得ませんよ?」


 ぐうの音もでない正論をぶつけられる。でもこれはあくまでも授業なのだ、少し手加減してくれても良いような気はする。


「……少し待ちすぎましたね。」


 そう呟くと、彼女は杖を振り上げる。その瞬間、急に地面の感覚がなくなり、代わりに膝裏と背中に少しの柔らかさを感じた。


「ハナ殿ーーーッ?!」


「ちゃんと掴まっておけよ!」


 いわばお姫様抱っこの状態で、我は彼女に持ち上げられていた。とんでもない速度で飛んでくる炎をかろうじて彼女は避けている。


「防戦一方だな……!」


 小さな声で彼女はつぶやく。……では、攻撃に転じてみるとしよう。


「……なるほど、随分と早く考えつきましたね。」


 炎・水・光・闇・氷・雷・風。とにかく攻撃に使えそうな魔法を全てぶつける。彼女は杖を振るった。先端の宝石が赤くなったかと思うと、叩かれた炎の球が消えた。黄色になると、雷の球が消えた。そして白くなると、光と闇の球が消えた。他の属性の攻撃は軽々と避けられる。


「……なるほど。炎・雷・光か。」


「お前しかできねぇぞその芸当……。」


 完全なゴリ押しではあるものの、彼女の使える属性を割り出すことができた。まだ隠している可能性もあるが……それでも三属性は割り出せたわけだ。


 ちなみに、同じ属性の魔法であれば、威力の弱い方が、強い方に塗りつぶされる。属性の相性が悪ければ相殺、あるいは突破される。魔法の基本原理だ。


「いいですね、使えるものを全て使う姿勢は好きですよ。」


 フラメ先生は小さく拍手をする。いやしかし、それでも突破口が見えない。もとより勝てるとは思っていないが、せめて一矢報いたいという気持ちはあるのだが……。


 またもや彼女からの攻撃が始まる。考える時間は与えてくれないらしい。流石に我を運びながらでは厳しいのだろう、段々とハナ殿も息切れしてきた。……いや、しかし。まてよ。


「……なあ、ハナ殿。」


「なんだよ?」


「あの杖、もしかして一属性の攻撃しかできないのではないか?」


 そう、先ほどから、あの宝石の色から連想される属性の魔法しか使っていないように見えるのだ。


「あぁ? 確かにそうみたいだけどさ……なんか作戦でもあんのか?」


「うむ。先ほどハナ殿が見せてくれた魔法のおかげもあってな。」


 彼女にだけ聞こえるように、小さくその作戦を伝えた。少し考える素振りを見せたのち、彼女は口角を上げる。


「よし、乗った。そんぐらいしか無さそうだしな!」


 そういうと彼女は、一気にフラメ先生へと迫っていく。フラメ先生は驚きの表情を浮かべながらも、すぐに杖を構えた。


「ふんっ!」


 炎・雷・光・闇の魔法を一気に撃ち放つ。彼女は杖を振るい、その先端の宝石の色を変えては叩き、時には避けながら言った。


「特攻作戦はお勧めしませんよ?」


「一矢報いることができればいいんですよ!」


 彼女の言葉にそう返答した。そしてかなり近づいたところで、炎属性の一撃を放つ。ほんの少しだけ細工をした、特殊な一撃を。


「なんの、この程度!」


 彼女はそう叫ぶと杖先端の宝石の色を赤に変え、その魔法の球を強く叩いた。真っ赤な炎の"外殻"が打ち砕かれる。


「……っ!?」


 その中から飛び出してきたのは、空の色を反射した水の塊。振るわれた杖は止まることなく、その塊へと突っ込んでいく。


 そして高音を響かせながら、宝石が砕け散った。


「……っ、ふんっ!」


 ふと思い立ち、彼女へと向けて小さく、光属性の魔法を放つ。まっすぐ彼女の胸へと向かい……そして、当たる直前で光は弾けた。それを確認した彼女は、ゆっくりとその場で膝をつく。


「……ハナ殿、一本取ったぞ!」


「っしゃあ!」


 彼女の腕から降り、そしてハイタッチをする。まさか一本取れるとは思っていなかった。


「……ふふ、ふふふふふ。まさか、まさかここまでだとは。」


 悪役のような台詞を口にしながら、ゆっくりと立ち上がった。


「面白いですね、まさかそんな奇策を思いつくだなんて。武器の破壊どころか、危うく命まで取られそうになるとは……。」


 ……あ、いや、そうではないか。我々は今、杖を破壊したのだ。厳密に言えばその先端についていた宝石……と言うより魔石をだが。まずい、学校の備品であれ私物であれ、そういうのはまずい。


「ああ、魔石については予備が沢山あるので安心してください。」


 その言葉を聞いて、我もハナ殿も一気に安堵の表情を浮かべる。そんな様子を見てか、フラメ先生は笑った。


「ふふふ。次からは手加減も要らなさそうですね?」


「「へ?」」


 いや、分かっていた。あれが本気ではないことぐらい。だが待ってほしい。本気じゃないのに砂がガラス状になるという時点ですでに威力はおかしいのだ。つまり本気になられては……。


「すみません……絶対に勝てないので許してください……。」


 彼女の目を見ながら、心の奥底からの本音を言い放った。「えぇ……」と不服そうな声を漏らしながらも、彼女は頷く。


「……おっと、そろそろ授業が終わりそうですね。次回もまた、よろしくお願いしますね?」


 そう言って先生は、どこかへと歩いていく。にしても、どうやら我らの戦いを見ていた生徒はそんなにいなかったらしい。全員がペアや四人での戦いに夢中になっていたようだ。


「……はぁ。こんな戦闘、またやるのかよ。」


「次回は流石に対策されているであろうな……。」


 疲弊した顔でそう言い合い、そして互いに笑みを浮かべ、握手する。


「「いい戦いだったな!」」


 「あ、ハモった」と笑い合う。聞こえてきた鐘の音に焦りながら、すでに完成しつつあった生徒の列へと走り寄っていった。






「三人ともどうしてそんな疲れてんの?」


 食堂にて、ヴェアティ殿にそう問いかけられた。先生のプレッシャーに常時気圧されていたということや緊張もあり、なかなか疲労は抜けなかったのだ。授業のことも含めて彼女に説明する。


「ちぇ、三人はそこで会えるのに私だけハブかー。」


 羨ましいという感情を隠そうともしない。実に彼女らしく思うのと同時に、少し幼く感じてしまい、思わず口角が上がってしまった。


「むっ、なにさヘルのくせに!」


 そう言って彼女は頬を膨らませると、我に抱きついてきた。


「ちょっ、ヴェ、ヴェアティ殿っ!」


 自分の顔がみるみる熱くなっていく。どうしてもこの行為には慣れなかった。


「ははは……いつも通りだなお前ら。」


「まったくです。」


 どこか呆れたように、ハナ殿とアーマリア殿は笑う。


「……。」


 ふと、彼女らの後ろの席から、じーっとリーラがコチラを見つめていることに気がついた。いままでの気まずそうな視線とは異なり、何か聞きたげな様子だ。しかし我と目が合った瞬間に、彼女はその目線を逸らしてしまった。


「どうしたの、ヘル?」


「いや、なんでもない。……ところで、そろそろ離してくれぬか?」


「えーやだ。」


 こやつは! 本当に!


 ……まあいい。とりあえず、後でリーラになんとか話しかけてみよう。……まだその時ではないのに、もう緊張してきてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ