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……随分と心地の良い朝だ。せっかくなんだし二度寝でも……。
「ハナ殿! 遅刻するぞ早く起きんか!」
慌てた様子のヘルスティアに毛布を引っ剥がされた。えぇ、もうそんな時間……?
「……やっば?!」
寝ぼけた頭が一瞬で覚醒した。遅刻まで残り十分というギリギリの時間帯だ、今から大急ぎで準備しても間に合うかわからない。着替えて荷物詰め込んで飯を食べて歩いていって、なんて悠長なことはしてられなかった。ちなみに朝食は寮の食堂で食べられるらしい……って今はそんなことどうでもいい!
「朝食を食べている暇などないな! 急いで着替えるぞ!」
ヘルスティアはそう言って俺と自分の着替えを引っ張り出す。急いで俺たちは着替え始めた。
大慌てで着替え終え、荷物を詰め込み、部屋を飛び出す。ああもうこれが最上階端部屋の宿命か! エントランスまで遠い!!! 道中危うく転びかけながらも、まずは外へと飛び出す。受付の人が唖然とした表情を浮かべていたのが印象的だった。
直線方向に学校の影が見える。このまま全速力で直進すればなんとか間に合いそうだ……。
「……工事中だぞ!」
「何ーーーッ?!」
補修工事を行なっているらしく、通行止めのためにロープが貼られている。その向こうには軽装の労働者たちが道具を持って作業しているのが見えた。いやテンプレみたいな遅刻原因は今求めてないんだよ!
「う、迂回だっ!」
慌てて急カーブし別の道を進む。曲がってまた曲がれば道の向こう側に出れるはずだ。
「おい、危ないだろっ!」
「「すみませーん!!!」」
ぶつかりかけた男性に怒鳴られながらも、俺たちは足を必死に動かした。道中果物屋から雪崩れてきた果物を踏みそうになったり、裏路地から出てきた野犬に追いかけられながらも、なんとか向こう側に出る。というかスカート走り辛いなおい、急ぎすぎてズボン見つける余裕なかったのが悔やまれる!
「……うぅ、もうダメだ……。」
「おいっ?!」
そんなところで、彼女が膝から崩れ落ちた。
「すまん、もう足が動かぬのだ……先に行ってくれ……。」
そう言って彼女は学校の方に視線を向ける。まあ確かにこいつ普段から運動してなさそうな感じしてるけど! ……だーもう!
「ひゃっ?! ちょっ、お主、何をっ……!」
「ちゃんと掴まっとけよ!」
彼女の膝と脇に手を回し、抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこの形になった。こんなところで置いていけるような性格じゃあねぇんだよ俺は。
「ヴェ、ヴェアティ殿はともかくハナ殿もそういう節があるのだなぁっ?!」
顔を赤くし、目をグルグルとさせながらヘルスティアは叫ぶ。それでもちゃんと腕を回してくれているあたり、そういうところは冷静なのだなと思う。
少し走って、なんとか校門を走り抜けてそのまま昇降口に突っ込む。走れるくらいには回復したヘルスティアとともに上履きに履き替えると、そのまま手を繋いで教室へと走った。一瞬見えた時計はチャイムまで残り数十秒を示している。
「おはようございますウンター先生ーーーっ!」
「はいおはようございます……って、廊下は走らないようにー!」
「「すみませーん!」」
教室へと向かうウンター先生を追い抜かし、教室に二人してダイブする。その瞬間、チャイムが鳴った。
「……はぁ、まあ遅刻を避けるためだというのは明確だったので今回は許しますが。もう少し余裕を持って行動するように。」
「「はーい……。」」
ジト目のウンター先生にそう説教されながら、俺たちは座席へと向かった。周りからの笑い混じりの目線が、少し恥ずかしかった。
さて、それからしばらくして。当然大慌てで来たわけなので、荷物が完璧に揃っているわけがなかった。この日の授業は国語・数学・理科・地理・歴史・魔術理論……とのことだ。まあ初授業である分そんな本格的にやるわけではないのが幸いだが……。
「……なあ、理科の教科書ってあるか?」
早速俺は理科の教科書を忘れたわけだが。ヘルスティアが持っていればいいんだが……。
「む、これか?」
そう言って彼女は本を一冊差し出してくる。そうそう、この怪異が哺乳類か鳥類かっていうのをひっかけ問題でね……って違ーう!
「なんだよ怪異図鑑って! 面白そうだけど!」
「む? 違ったか……。」
そう言って今度はちゃんと理科の教科書を出してくれた。怪異図鑑を彼女に返し、二人で共有することにする。ちなみに数学のときは彼女が、国語の時は二人揃って教科書を忘れていた。
「物理というものは自然現象に法則性を見出した先人たちによって築き上げられており……」
女性の理科教師が板書をしながら物理について説明をしているのを見ながら、少し物思いに耽る。当然板書を取りながらだ。……宰相や喫茶店の店員が同類であったわけだが、となると他にもいる可能性があるわけだ。今思えば、あの八木アンテナみたいな模様がついた魔石はそういった人間が生み出したのかもしれない。あれ偶然生まれる可能性もあるが……それでも、そう考えた方が自然だろう。
「……なんとかは惹かれ合う、みたいなもんか……。」
類を以て集まるとも言うべきか。とりあえずそんな気がした。あの感じだと恐らく喫茶店の店員と宰相には交流があるんだろうし、そして俺も交流を持つことになるだろうし。
「何か言ったか?」
「ああいや、なんでもねぇよ……。」
誰にも聞こえない程度で呟いたつもりだったが、ヘルスティアには少し聞こえていたらしい。簡単に誤魔化す。
「そこ、喋らないように。」
「「はーい。」」
……先生に注意されるのは本日二回目だ。思わずため息が出た。
そしてお昼の時間となり、俺たちは学生食堂へと向かっていた。
「……ねえ、二人ともー!」
後ろから聞き慣れた声がしてきた。振り返ってみれば、燃えるように赤い髪色の少女が駆け寄ってくる。ヴェアティだ。そう言えば昨日からずっと会ってなかったんだよな。
「これから食堂でしょ? 一緒に食べようよ。」
彼女の提案に、すぐに俺たちは首を縦に振る。あとアーマリアもいればいいんだが……。
「……あ、おーい!」
いた。彼女の金髪と青い服装はやっぱり目立つ。駆け寄ると、すぐに嬉しそうな笑顔を彼女は浮かべた。
「……おい、貴様!」
急に横から少年が飛び出てきた。青色の髪の毛と灰色の瞳が特徴的な、少し華奢な少年。制服の色は藍色だ。それに合わせるようにして、藍色の髪の毛の少女も飛び出してきた。こちらの瞳の色はオレンジで、制服は濃いめの紫。
「貴様、この方をなんと心得る! ヘンドラー伯爵家の令嬢であるアーマリア様だぞ!」
「貴女、その様子では庶民でしょう? 知らないのも無理ありませんが、それでも軽々しく話しかけて良い人物ではございませんわ!」
……は? なんだこいつら。俺がアーマリアに近づこうとするたびに間に割り込んでずっと邪魔してくる。その時、アーマリアが口を開いた。
「……アイス、リーラ。貴方たちは下がりなさい。」
一瞬、誰かと思った。普段の元気な印象とは違い、落ち着き払った少し低めの声がアーマリアの口から聞こえてきた。
「ア、アーマリア様、しかし……。」
「この方は私の友人です。それに校則で"学生はその身分によらず、修業期間中は平等である"と定められているのをお忘れで?」
アーマリアのその言葉に、アイスと呼ばれた少年は渋々といった様子でどこかへと去っていく。リーラと呼ばれた少女は、困惑しながらも彼の後を追って行った。
「……はぁ。シークス様、他のお二方はどこにいらっしゃいますか?」
ため息をついたのちに、彼女は普段の声色で話しかけてきた。
「ああ、あいつらはあそこに……いやそれよりもお前、今のって……。」
「……食事の時に話します。」
アーマリアの少しげんなりしたような表情が、かなり印象的だった。
昨日は宰相と喫茶店の店員が同類だと分かって、今日は遅刻しかけて。連日はちゃめちゃだが、まだ色々ありそうだ。そう思うとほんの少しだけ、憂鬱な気分になった。
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