協力という未知
大きな、グリフォンのような魔物が現れる。それも、中心部とは比較的離れた場所にある彼女の家にめがけて、だ。
彼女は咄嗟に俺を担いで、家の壁をぶち抜く勢いで横に飛んだ。
刹那、彼女の家は半分以上を散り散りにされてしまった。グリフォンの驚異的な握力は屋根の藁は言わずもがな、支えとなっていた大木さえも、砂のようにパラパラとさせた。
「ナ、ナンデアンナヤツガ...」
「ともかく今は逃げるぞ!」
「ムリ、アイツ、ハヤイ!」
大空を闊歩するように移動するグリフォンは、もう追撃に来ていた。彼女はまたも素早く跳躍し、間一髪のところで爪をよける。
彼女は優しく俺を置き、即座にグリフォンに向かって跳躍する。最初、何をしているのか分からなかったが、すぐに攻撃を仕掛けていることに気づいた。
「シエン!シエン‼︎」
支援をしてほしい、と言うことだろうか。彼女の蹴りはグリフォンに届かず、空を切る。
彼女の動きは早いが、それでも当たらない。何か彼女のスピード性を上げる魔法...そういえば、細胞を活性化させ、一時的に運動能力を高める魔法があったはずだ。
迅速な判断により、素早く彼女の方へ手をかざし詠唱する。
「アクティベート!!」
青い光がカイの手のひらから放たれ、やがて彼女に着弾する。一瞬攻撃かと思いたじろいだものの、それが支援だと分かるとすぐにグリフォンへ視線を移す。
「近づいた瞬間に、俺が動きを一瞬だけど止める!その隙に、なんとか頼む!」
「ワカタ!!」
自身にもアクティベートを付与し、通常の3〜4倍の筋力が備わる。血流が早くなり、頭も冴えてきた。カイは壊れた少女の家から大木を拾い、降りてくるグリフォンの眼球めがけ全力で投げつける。空気抵抗をなるべく受けないよう回転をきかせた。
『グギャアァァァァ‼︎‼︎』
見事命中した。元々の運動神経もあって、それほど難しいことではなかった。だが、活性化は無理に体を動かすために負荷が多い。カイはその場に倒れてしまう。が、意識はあるようだ。
「今だ‼︎決めてくれ‼︎‼︎」
「ーーーーーテヤァーッ‼︎‼︎」
非常に柔らかい股関節から最大の遠心力、活性化による怪力によって、全力で蹴りつけられたグリフォンの首は、時計でいうと10時10分を指す。ゴキッという音とともに、グリフォンはその場に倒れ伏せた。その体重からか、辺りには地響きが起きた。
「ハァ...ハァ...ハァ...」
「はぁ...はぁ...はぁ...」
肩で息をしながら、少女はカイに近づき、顔と顔が隣り合わせで、体は逆向きに倒れ込む。
呼吸を整えた後、二人は顔を見合わせ、
「クスクスッ」
「クククっ」
僅かに笑い合った。それは、感謝や、賞賛にも似た笑いだった。もしくは、緊張が解けただけなのかもしれない。
彼女曰く、グリフォンはエルフの森の近くによくいる魔物らしい。かなり稀だが、こうやって道に迷い、気が動転して気性が荒くなることがある。それがたまたま襲ってきたのだろう、と予測した。街のエルフ達は既に逃げていたみたいだ。なにせグリフォンは魔法攻撃が通用しにくく、突風によって得意とする風魔法も無意味になってしまうらしい。
これは、彼女だからこそできた事だった。
「君はすごいよ...他のエルフじゃできないことをしてみせた」
「ソレハ、キミモ。ミタコト、ナイ、マホウ、ツカッタ。ニンゲントハ、オモエナイヨ」
「あはは、ありがと。......そろそろ自己紹介でもしようか。俺の名は、カイ」
「シア、ワタシ、シア!」
二人は笑顔を交わす。
「よろしくな、シア」
「ヨロシク、カイ」