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悩みと救いは狂気の果てに  作者: 三島三城
その① プロローグのようなお話
4/28

力とその根源~かけがえのない出会いを添えて~

察しの通りの回想、宿命回です。


 気絶した晃司を乗せて一行は村上家へ着く。

一般に気絶した人間はしてない人間に比べ個人差はあるものの


 かなり重たい。


 その理由として体重の分散に気を使えないという点が挙げられる。なぜそんなことを言うのかと聞かれれば、『晃司君が気絶したから』で済むのだが…そんなことはどうでもいい。


 なんで晃司君のお母さん…晃司君担げるの?


 その疑問点は割とすぐにわかることになる。

「ああ、ごめんね。この子重かったでしょ…気絶した後の事は想定してなかったの。」

「そこはいいんですけども。」

そういった後にその母を見上げてみると変化が分かった。彼女の瞳は紅く染まっていた。まるで先ほどの暴走した晃司の様に。

                   

それに気付き、なんとなく彼女が【当事者・・・】であることを察した。

「それは気付いちゃうよね…。中で話をしましょう。」

そこで自分が表情に出してしまっていたことを悟る。…なんか私より闇が深そうな気がしてきたなあ。

そう、まだ濁った目をした少女、一ノ瀬希は思った、思ってしまった。


 場所は村上家リビング、作戦会議をした場所である。

なんだか一時間ぐらいしか経ってないのに遠い過去のように感じてしまう。特に薊は深刻であろう。

何せ自分のたった一人しかいない兄がいきなり豹変して、それを自らの手で気絶させたのだ。

場の状況についていけないのはこの中の一人を除いてそうであろう。その人物は村上晃司の実の母である村上沙織…ここに来て人変わってない?

「取り敢えず、この現象についてを教えましょう。これは【狂気】というもので、人が持つことのできる限界まで力を引き出すことができる。簡単に言えば単なるリミッター解除だけでなく修行の果てに得られるようなものさえ使えるようになる。

 しかし、こんなものに欠点がないわけがなく、名前の通りに人を狂気に引きずり込む。自分のうちに眠る欲求や思いなんかが外に出てくる。当然未熟な人間が使えばそれは大変なことになる。でも、言ってしまえばそれだけのはずなんだけどね。」

「どういうことですか?お母様。」

「薊ちゃん言ってたよね?晃司はたまに怖くなってその時の記憶がないって。それはね、本来あり得ないことなんだよ。兆しの段階で意識がない…まるでそれは【多重人格】そのものじゃないか。」

言われた言葉に追いつけた者はいるだろうか。確かに言われたことが唐突すぎて現実味が湧かない。

だけど、ひと呼吸すれば少し理解できた…。それは……。

「つまり…晃司君は【狂気】の深度が他の人々に比べて深刻であるということですか?」

「そういうことだよ。何せ前例が存在しないんだよ。何百年とこの一族が患ってきた呪いだけど…今回が初だ。」

そういって深呼吸を一回。

「【狂気】についての話をしましょう。初代とその発現理由。沈静化の方法を。これは発現した全員が見る夢のようなもの。あなた達には知ってもらう必要があると思うから…。」

そういって彼女は語り始めた。




 とあるところに大きな家が存在した。

そのあたり一帯を治めている家で、村の人間からはとても信頼され、尊敬されていた。

 その家には二人の子がいた、兄と妹。

彼らは互いにいがみ合うわけでもなければ、慕いあうような間柄でもなかった。ただし、妹の方は兄にすべてを委ねようと思っていた。自分の身の振り方や家の事についてなどを…。

 しかし、当主である父の死により全てが一変する。


 跡取り争いである。



 はなから家の相続権についてなど興味もなかった妹であるが、家来たちはそうでもなかった。

世はまさに戦国時代、父は戦をすることに反対していた反面兄は戦に賛成であった。

家来の中には『しめた』という思いの者も多ければ、またその反面反対するものも多かった。

戦に出なければのし上がることなどできはしまい。かと言って、何の関係もなかったこちらから名乗りを上げることは無謀ともいえることであった。戦にさえ出なければ、この国は安泰なのであった。

そのことを熟知していながら兄は戦に出ることを望んだ。妹も兄に任せることにしていたため異論は

なかった。ただし…本人は…。


 ことが起きたのは相続の二日前である。

兄の相続及び、戦に反する家来が妹の名を使い、反旗を翻したのである。本人には知る由もなく話は進み、全面的な家の内乱が生まれたのである。妹の兄に反するつもりは毛頭ないという言葉も黙殺されて、相続権の争いという構図ができあがった。もちろん、けしかけた家来は妹に相続させる気は毛頭なく自分が婿となり家を乗っ取ろうとすら考えていた。実質的な大将となったその家来は争いが始まって間もなく討ち死にした。しかしながら、そんなことでは収まらず、妹はさらに望まぬ戦に身を委ねることとなる。


 結果として、妹の軍は壊滅した。

ほとんどが平和組であり、武に長けていたのは先ほどの様な下心のある輩しかいなかった。

これはほとんど必然であっただろう。

 このため妹は家から追放となった。(兄は戦の最後に妹が何もしていなかったことに気付いた。しかし、利用する輩がいることに気付いたためこの処罰である。)

 もちろん、逃げ落ちるところなどなく、終いには捕まり拷問と凌辱の限りを尽くされた。

 彼女の純潔は散り、家を追い出され、頼るところもない。簡単な話、人生に詰んだのだ。このままだと…。


 奴らの慰み者となることにすら慣れた彼女の眼は濁っていた。怒りも湧かず、羞恥も湧かず何も感じない。そんな壊れてしまった彼女を【ナニカ】は見ていた。

【ナニカ】はその姿を見て自分にはわからない人間・・としての感情が湧き、少しの力とともに(厳密にいうと紛れて)彼女に授けてみた。


それがどのような作用を及ぼすか…そんなところであろう。結果として、彼女は人外な力を得て、暴走した。その屋敷を文字通り壊滅させた。中の人間を一人残らず殺した。ある者はその頭部を吹き飛ばされ、またある者は頭を握りつぶされ脳みそをまき散らし、体に風穴が空くものすらいた。正気を取り戻した彼女はその一帯の事について何も感じない…何かに突き動かされるようなことがあってもしたのは自分の意志である。最低限の衣服を奪いその場を去った。…この先に幸せがあることなんて想像すらせずに。


 国を出て、外れに一つの民家があった。

空腹であった彼女は何か食べたくてしょうがなかった。だから、

『この家の人を殺してしまおう。』そう思えるほどに壊れていた。そのとき中から人が出てきた。先に殺してやろうかと思った矢先、予想外のセリフを聞くこととなる。

『大丈夫かい、なんならうちに泊まるかい?』

そう言ったのももう夜も深く、さらに彼女が来ていたものが男物であった。しかし、それはただのきっかけでしかなく彼の心の清らかさゆえであった。彼女は言葉には甘えたものの彼らに心を開こうとはしなかった。彼女の事情を聴いた青年の家族|(母と妹)はこの家に住めばいいという。そうすることにした。しかし、この家族は自分のいやなことを思い出させる。


 兄と妹


 自分は得られなかった未来…それが目の前にある。不快だった。それから数年がたった。その間青年の必死の試みのおかげか彼女も次第に心を開くようになった。笑うようになった。新しい表情もし出した。

青年もそれに心を惹かれていき、結婚すら申し込むようなことさえあった。

もちろん、彼女は断った。それはお互いのためだと。


町のはずれにあるその小屋は戦があればすぐになくなる。それを考えたこともなかったことを後悔することとなった。案の定、兄が戦を始めた。敵国への侵略であったが形勢が入れ替わり

国が攻め入られることとなる。

外れに存在する小屋などあってないようなものであり、青年は兵に殺されかけた。そのとき、彼女が忘れていたあの衝動が再び目を覚ます。攻めてきた兵隊をひとり残らず虐殺した。青年は守られたが、素直に喜べるものでもなかった。愛した人がまるで鬼の様に人を殺し続ける様が恐ろしかった。何もできなかった。自分が弱かったからだと自分を責めさえした。

『ごめんなさい、さようなら。』と言って去ろうとした。

『震えたままではいけない』そうやって彼は立ち上がり彼女を抱きしめた。

その言葉はわからない。だけれどもそれが彼女の心の氷を溶かしたのだということはわかる。

そうやって二人は結ばれ、【狂気】をコントロールできるようになった。

そこから代々一人受け継がれ人生の試練をこなしコントロールできるようになっていった。




 一方そのころ晃司は覚醒しない意識の中で今日の感覚は初めてではないことを思い出す。

この何かがあふれてくるような感覚は二回あった。一つは【あの事件】のとき、もう一つは薊と初めて会った日。


薊と初めて会った日を思い出す。

『確かにあの時薊には何の感情すら抱いてなかった。しいて言うなら無関心だな。』と今では全く考えられない自分を思い出しついつい笑ってしまう。

あの時の感覚それを思い出すために彼は過去を振り返る。




 ボクはそのときコンビニに注文してたエロゲを受け取りに行く最中だった。ボクはその当時から創作中毒患者であった…。なんか言ってて悲しくなるな…。とまぁ、そんなこんなでボクは寄り道をしていた。

おい、高校1年生…そんなんでいいのかよ!今も変わりませんけども…。

その時の帰り道帰りのゴミ捨て場に段ボールを捨て、中身をカバンに入れるそんなもはやルーティーンとかした行動をして(いや、すんなよ)帰る途中この時に初めて薊を見た。


まあ、どんな感じかと聞かれると不良集団から絡まれていた。へ、そのとき感じたことと聞かれても…。

『美少女が絡まれてやんのざまあ』か無関心のどちらかだと思う。という風にこの当時のボクは今よりもひねくれていて、尚且つ女性恐怖症(軽度)ではなく『女性嫌悪』でしたしね。でも結局助けることになった。なんでだろうねえ?理由は本当にボクしか理解できないだろう。

「ねえ、か~のじょ~。俺たちと遊ばねえ?」

「嫌です。まず、今日の寝場所を探しませんと。」

「いいじゃねえの~。俺たちが用意してやんよ。ただし報酬は貰わねえとなあ~。」

「お金ならありますし、困ってはいません。」

「そう言うなよ~、もっと楽しいこと教えるしぃ~。夢中になるよぉ~。その体に刻み込んっでなぁ。」

なんか大の高校生が中学生にエンコウ(強制)しようとしてる。

バッカじゃねえの。

これが正直な感想です…。というか相手理解できてなさそうですけど!?

その時の薊の眼を見る。その瞳には様々な感情が見える。

『こいつも大切な何かを失たんだなぁ。』そう思った。なんだか自分と重ねてしまうだから・・・・

そいつからさらに奪おうとする不良どもを許せない…許す気なんてねぇなぁ!思い立ったら行動だ。あんな事件起こしといておじけづくなんてこたぁねえ!許されねえよなぁ。だから動いた…あふれ出る力とともに…。

注 この人はカバンにエロゲ入れてます。


 棒状のものを持てばそれなりにはできる…れる。なんだけども手元には何もなし…まあ、イケるか。そんな根拠のない自信があった。

 取り敢えず一番近いヤツから殴って地面に沈める。

あれ、こんなことできたっけ…どうでもいいな。感覚でわかる、こいつら割とマジなのだ。どうしようと思っていると不良B(Aは沈めたやつ)からのストレート。え、決まり文句はなしなんだいっが~い。

飛んできた右手を左手で軽く押し出すように反らす。相手は体勢を崩すからそこをすかさず正拳突きを入れる。相手はうめき声をあげながら沈む。そんな感じで戦っていてもらちが明かなくなり、その少女に自分の携帯を投げ、「110番」と一言。

そんなこんなで警察が来る前に撤収した(薊と一緒に)。


 不良は警察の方々に頼んでこちらは少女を家に入れた。

少女の家庭の話など形式上聞いておいた。まあ、ボクも鬼ではない。同情ぐらいはした。どうでもいいが取り敢えず家に泊まらせることにした。思えばここから始まった…そう思えるな。


 その少女を見たときに明らかに気が動転していた人物といえば、まず間違いなく父さんであった。

その理由和今になっても教えてはくれない…。恐らくボクの事をマザコンではないかと疑っている方は多いかもしれない。自分を完全に理解してくれるからね。しかし、答えは違う。考えてみなさい。自分と同じ思考ということは好みの思考も同じなわけだ。


というわけでボクはファザコンです。


だから特に追及もしません。薊を引き取るのを最後まで反対したことも、

手間取っていた行政関係の事を【ちょっとしたお話】で終わらせたことも追及いたしません。とまあ、薊を養子にする際に一番尽力したのは父さんかな?という父親自慢?はさておき、薊を養子にするということはボクが薊と出会ってから1か月後の事である。

 単純な理由としては自分と同じ人種だから『傷の舐めあい』がしたかったんだと思う。本当はよく覚えていないけど、親に…主に父さんを説得した。

あれほど何かを熱く語ったことはこれが初めで最後だと思う。あってください。


 薊を今の様に溺愛し始めたのはその3か月後になる。なぜかはわからないけど兄としてどうするかを試行錯誤するうちに、なんとなく薊の可愛さに気付いたんだと思う。

 自分は兄らしくを追い求めることで本人を見てはいなかった。だから『可愛い』と気付いてしまえばあとは早かった。簡単に言えばシスコンと化してしまった。

なんでこうなったんだろうな?ホントにそう思う。でも、人を愛するのは薊で最後…そうボクは決めている。なぜかと聞かれれば答えられないし、答える気もない。言えるのはボクはこの世界が大っ嫌いであるということ。こんな世界は嫌だ…消えたい…そう思ったことは何度もある。度重なる格差…差別…きれいごとを言うだけの偽善者…他にもたくさんある。これらは関係ないようでボク達そのものを示すことでもある。


世界はこんなことでも語りつくせない…それほど醜いもの…そう中学の時に思い知った。だからいつも無気力にしか過ごせない。そんな理不尽を見ると許せない。そんなことだからあんな事件を引き起こして、終いには親友にすら避けられる。そんな日常だから薊は余計に特別なのかもしれない。縋らずにはいられないのかもしれない。記憶にない誰かの面影のある彼女に…。




「こんな感じかな、夢の話は。ねえ、晃司?」

「起きたことに気付いてたのかよ。」

ボクは目が覚めた。懐かしい出会いの夢と悲しい宿命の夢の二つを見た。どちらも自分にとって気持ちのいいいものではない。だからかなり機嫌のいい寝起きじゃなかった。というか寝起きは機嫌悪くなりやすいよ。睡眠中毒者だから(笑)にしても察知の早い母である。気持ちわりぃ。

「そこ、気持ち悪いとか思わない。」

「心を読むな!」

割と切実な思い。

「大丈夫なの晃司君?」

「もう起きていいのですか。ごめんなさい、こんなことになったのは私のせいなんです。下手したらずっとねたきりかもしれないですし。」

「いいよ、すぐ再生するし、ねえ母さん。」

「まあ、そうね。ちょっと実演するわね。」

そういった母さんは刃物で手首を切った。

「「何してるんですか」」

訴えはもっともである。だけどすぐに撤回されることとなる。母さんの瞳が紅く染まりそれと同時に手首の傷も塞がっていく。あの深さはリストカットの比ではない。すなわち完治に数か月かかる。それがものの数秒で完治した。正直に言って化け物である…自分もそうか。

「こんなのだから薊ちゃんも気にしなくていいの。」

「はい。」

こんなのうなずくしか方法はない。あれ、母さんってこんな人だっけ?まあいい。それよりも

「希、お前の依頼終わらせるぞ。」

「え、あ、はい。」

予想外であったろうことが反応からうかがえる。そこで母さんから

「晃司、あなたはこれから成長しなければならない。あなたには私にあの人がいたように薊ちゃんと体質がある。あなたのそれはどちらかといえば体質というより『縁』といった方が正しいでしょう。あなたはその縁を使い自分を高めなさい。そして、その忌々しいものを自分のものにしてみなさい。あなたは私と違って出来が悪いわけではない、だからもっと本気で生きなさい。」

それが母の言葉であった。いつもみたいなダメな人でなく大人としての、親としてのそれであった。

だからこそその言葉には意味があり、心に残るのだとわかる。

自分は壊れている自覚はある。だから「本気で生きなさい。」という発言に動揺せざる負えない。だから意味があるのだろう。人間らしさを取り戻すべきなんだろう。こんなことでもない限り直そうとは思わないけど、だからいい機会ではあると思う。初めに希の依頼だ。これから少しずつ進めていこう。自分のためにも薊のためにも。

「希、お前の悩みを解決してやる。」

「はい。分かりました。期待してますね。」

「おう、期待しておけ。」

「一回失敗してるしなあ。」

「それは言わないで。次はもう決めてるから。」

ボクはもうあの人相手にどうすべきか、それは一回目で理解できた。対策ももうできている。

この件で一番すべきこと…それをすべき人…そんなことは最初から決まっていた。誰も気づかないだけだった。こんなにも王道で、ありきたりで、そんな作戦。

正直に作戦と呼べるのはボクがすることまでで、後はその人物に託すしかない。打算だらけの計画だ。でもこれがいい。後腐れもない、いい計画であると思う。以前なら気付かなかっただろうこれも成長なのだろうか?そんなことはどうでもいい。今は…

「任せとけ。」

今言える最高の言葉を言った。


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