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悩みと救いは狂気の果てに  作者: 三島三城
その②日常編
10/28

小鳥遊兄妹編①:小鳥遊美咲と翼流道場

ふわん、ふわわ~ん、ドカーン。さあ、これ何の違いだ?気になる方は本編で。


 昨日はもはや地獄であった。同人作家の闇を見た…。寝かせて、お願い。

そもそもボクが安易に同人誌の手伝いなんて引き受けるからこうなった。今日は日曜……久々に薊とデートである。ついでに綾ちゃんもいたりする。

「兄さん、綾さん大丈夫ですか…。顔色が最悪ですけど。特に、綾さん…。」

「だいじょ~ぶだよ~ん、薊ちゅあ~ん。」

あ、ダメだ。壊れてらっしゃる。昨日の同人誌制作の際の徹夜だけでなくどうやら我が師匠であられる希さんが原因のストレスであるらしい。因みに薊は何があったか知っているらしいが

『女には生まれ持った格差があるんです』とだけ言っていた…。ドンマイです(察し)。

確かに希の家で資料拝見という名のま〇マギ鑑賞してたのがいけなかった。ボクの判断ミスだろう…俺のミスだっ!まあ、そんな徹夜明けの気晴らしに近所のショッピングモールまで出かけることとなった。ちなみに提案したのは薊で本当はもう少ししてからだったけど…あれ以上部屋にいたくなかったボクたちは早々に出かけることとした。薊…マジで愛してる。




 ショッピングモールもといイ〇ンに到着した。

ここはちょうどボク達の最寄りの駅と学校の最寄りの駅とのちょうど中間にある駅にある。

 ここはこの市の数少ない名物であるテーマパークがあり、駅名も〇〇駅である。しかしながら、最近の若い衆(もちろんボクも)は隣の〇オンに行きがちだ。このテーマパークも施設の老朽化や土地の契約期間、そもそも最初の経営会社がとっくに倒産していたことも重なり来年の初めあたりには閉園予定である。駅名がどうなるのかが地元民のナウな話題だったりする(跡地は大規模ショッピングモールになるらしい)。


そんなことはどうでもよく、綾ちゃんにこの辺りを案内すると同時に薊とデートをする。この二つを同時進行することが重要である。…眠いでゴワス。それにしても女性の服に対する執念はすごいよね。ボクとか黒のTシャツにジーパン、その上から上着を羽織るぐらいだもん。それに引き換え女性陣は


綾ちゃんはバスの中で再会した時の服装。水色のワンピース…なんだろう…なんだか既視感があるな?あ、快楽堕ちする女性同人作家にいそうなやつだ…黙っておくのが吉だろう。似合ってるんだけどさぁ。

続いて薊…当初はお嬢らしい服装かと予想していたがそうでもないが若干高そうぐらいかなという感じ。いやらしさがない!素晴らしい!そして着こなしがうまい。ファッションに関する知識は皆無であるボクだが少し説明しよう。


基本的に上半分が明るい色を基調としており、下半分が暗い色を基調とした全体的なグラデーションが見受けられる。スカートとか長すぎず、短すぎない完璧なラインである。上とかもやっぱり女子は違う…Tシャツとかとまず生地が違う。その上にカーディガン…若干カーディガン萌えに走りそうになる。自重せねば……。


 お二人さんが新しい店を見つけたらしく中に入っていく…もう何十分経ってると思ってるんでしょうか……ここが女性との一番の違いだろうなと思う今日この頃。

「あ、晃司だ!」

何やら聞こえ慣れた声とボクの危機管理能力が警鐘を鳴らす…。あ、もう誰が来たか分かった。こんなオーラ出すヤツ一人しか知らない。

「おー、二人でこんなところに来るとは珍しいな。たかし、それと美咲も。」

他ならぬ小鳥遊兄妹である。ボクの親友と天敵である…。困った…これは…薊と遭遇させてしまう…。ついでに綾ちゃんも…。あの子意外に人見知りなんだよねぇ。という訳で…遭遇させてたまるかぁ!

「というか、あんたがこんなところに来るのがよっぽど珍しいと思うんだけど。それより、その顔で外に出るのは薊ちゃん関係か悩み関係に限るわね。」

鋭い!何この子。いつもの通学グループの中でたかしに次ぐおバカちゃんだったはずでは?4分の3超せないとか言ってませんでしたっけ。とかいうと死ぬ運命にあるので口が裂けても言わない…。薊のためならその限りではない。

「そんなに頭が働いてる方がよっぽど珍しい…ハッ(゜Д゜)」

「そんなに死にたいの…それよりもここに薊ちゃんがいることは確定したわ。」

ダニィ…美咲のくせにボクを嵌めたのか。美咲の分際でぇ!

「まあ、薊ちゃんに会えるんだったら言うことはないけど…どちらかというと用事があるとすればあんたよ。」

何でしょうか。薊と会う邪魔をしないと約束しろと?いいや、だめだね。

「なんだよ。ボクに用事とか珍しいにもほどがある。お前のボクに対する評価…羽虫じゃなかったですかね?」

そうである。彼女のボクに対する評価は羽虫である。ちなみにこれは薊と出会った後でその前はお兄ちゃんの友達A…ボクの存在とは…。どうでもええけど。そんなのが用事とはこれまたいかに?

「なんだよ…お前の悩みはあんまり聞く気になれないぞ。」

「何でよ……。」

「いや、普通に考えろよ。」

「気絶させた回数10にのぼる。薊ちゃんを取り合う相手。常に威圧。これだけしかしてないわ。何が不満…。」

「全てだよ!しかも【だけ】ってなんだよ。それの上があるのかよ。」

「まあ、今回はそれをしたい相手についてなんだけど。」

へッ!そんなのあんの、いるの…ドンマイです。というより関われと!

「なぜに?嫌がらせや復讐には付き合わんぞ。この間ひどい目に遭った。」

そうだ…目についた不良を無表情でフルボッコにするとかしちゃいけない!手痛い復讐受けるよ!

「違うの。今回の相手はとある道場の奴ら。全員私と同じ大会出禁級。という訳で【狂気】とやらで助けてほしいのだけど。」

まさかのそれですか…。というか、その話をしっかりしたのはたかしだけだった。説明不足は痛いなぁ。ボクの落ち度。なんかミスばっか。

「嫌だ。断る。それに【狂気】は本当に命に関わるし、ボクの意志とは完全に独立してる。本当に危険なんだ。この間も一人殺しかけた。」

「そうなの…ごめんなさい。その姿になると薊ちゃんが泣きそうね。諦めるわ。ひとりでどうにかする。全員葬ってやる。だけど、聞いてしまった以上…最後まで付き合ってね。」

なんか可愛らしくウインクとかする。ロリ体形のウインクとかボクには本当にきつい。恐怖とトラウマがぁ。


でも、これはかなりの男が落ちそうである。その辺お兄ちゃんとしてはどうなんだろうか…先輩として今度聞こうかな?

「ごめんな晃司……。」

その後終始謝り続けるたかしであった。奔放な妹を持つと大変そうだ…その辺そっくりだなこの二人。




 先程の会話の直後に運悪く二人とも帰ってきた。その後は予想通りであった。

薊に絡みつく百合少女美咲、どう対処しようか悩む薊(そのしぐさがたまらないいい!)、あたふたと慌てる綾ちゃん、なんだか諦めて別に会話を始める男性陣。マジでカオス。自分でいうのもなんだけど…マジカオス!混沌が犇めく。

 なんだろう…こうなるのは運命だった気がする…メガネな小鳥遊兄妹が来た時点でこうなるのは確実だった。ちなみに小鳥遊兄妹は両方メガネ。ついでに、メガネ一家らしい。まあ、ボク…眠い。デートどころじゃ無くなったな。帰って寝ようか。その前に薊を回収して、綾ちゃんの正気を取り戻す。死を覚悟しよう。死因…睡眠不足による判断ミス。…なんか嫌だな。その後、本当に死にかけた。




 結局ボク達は変えることを許されず、その道場(翼流というらしい)へと向かうこととなった。本当に眠いので帰りたいのですが…綾ちゃん死にそうだけど、リポビタン買うから許して。自分の分も欲しい。絶対必要になる。

「悪いわね。付き合ってもらって、薊ちゃんも来てくれてうれしい。」

「悪いとか思ってねえだろ、この百合っ子。」

本当である。後半しか本心言ってねえだろ。せめて綾ちゃんだけでも…たかしも覚悟を決めた表情をしている。しかし、これがどういう決意であったかなど知る由なんてなかった。

「晃司さん…私のことは気にしないで…下さい。」

いや、するよ!死にそうだもの。寄りかかってるもの。きっと3割ほど『役得ぅ』とか考えてそうだけど。残りはマジだろう。生きろー!

「晃司、綾ちゃんと仲良くなったんだな。…希さんに綾ちゃん、女性と仲良くなるのは凛久以来かな。良かった。」

「……」

思わず黙ってしまう。その名前をここで出されるとは思わなかった。

「公仕さん、凛久さんって誰ですか?」

「それは、晃司が最初に口説き落とした女子さ。」

「人聞きが悪いな。ボクは普通に仲良くしたくて工夫していただけだ。」

「ああ、兄さんのそういうところはそこから来たんですね。」

薊さん…ボクって変なこと言ってましたっけ?というよりも…たかし、なぜアイツの名前を出した。それはお前にとっても禁句だったはずだ。あいつの真意が分からない。ここは取り敢えず薊と綾ちゃんがいるからごまかす必要がある。そのあたりは考えていたのだろう、ふざけたことを言っている。たしかに、アイツと話すまでにはかなり苦労した。

何せ人を引き付けないからな。それももう過去の話だ…。

「お兄ちゃん…なんで凛久さんの名前を出したの。その名前は出さない約束でしょ。二人ともまだ振り切れてないのに…なんで…。」

美咲はイレギュラーだったな。ボクもそのことについて聞きたかった。

「そんなの決まってるだろ…俺はまだ、晃司の隣にいていいのは凛久だけと思ってる。その話がまだ俺たちの中で残っているからしている…。お前はまだわからなくていい。」

「何でそんなこと言うの…お兄ちゃん。どうして。お兄ちゃんだってつらいはずなのに…。」

ボク達は一つの問題に直面する前により大きな壁に激突してしまった。当時中一であった美咲は【あの事件】について知っている。だからこそたかしのあの発言について許せず、涙を流したのだろう。今日のたかしはボクの理解を超えていた。その話はその後自然消滅して、道場へと到着した。……遠くない日に爆発するであろう不発弾として。




 翼流道場。西区のはずれにある道場で、空手から剣道まで幅広い武道を取り扱っている。しかし、その実態は選ばれた実力者しか入ることを許されていない実力者集団である。美咲も言っていたが大会出禁級しかいない。地獄だな。その中で一人の男子と美咲が若干いざこざを起こして美咲が喧嘩を売りに行くらしい。内容がマジで笑えた。笑ったら死ぬから必死で耐えたけど。


 美咲のロリ体系目当ての不良が例のごとく襲い掛かったところにさわやか君(仮)が助けに来たそうだ。曰く、『君みたいな子が一人で歩くなんて非常識だ』だそうです。ヤバイ、もう無理。

「あ、君はこの間の…調べさせてもらったけど本当だったようだね。見くびっていたよ。それより、自分より強いってやつはどこだい?」

あ、こいつがさわやか君(仮)だな。正直嫌い、こういうやつ。本質が。それより美咲さん?あんた先に言ってやがったな。

「ああ、それならここの寝不足だけど、アレは正直危険らしくて断られた。まあ、私一人でも十分だから。」

「そうかい。それは残念だ。僕には君みたいな子を攻撃する趣味はない。そこの彼にやってもらいたいな。僕の前に危険なんてない。」

そうじゃねぇんだよ。本当に死んじゃうよ。まあ、正直木刀とか持っても勝ち目なさそうだな。これは本物だわ。美咲クラスとはよく言ったものだ。そんなとき、奥からそれは大層威厳のある爺さんが現れた。

「ほお、なんとまあ威勢のいい娘さんじゃのう。それに実力もこの道場の中でも頂上を競えるレベル。それよりも…。」

この人がこの道場の師範代の翼さんだろう。ちなみに、翼は苗字ではなく名前の方らしい。なんでも世襲制ではないからだそうだ。

「そこのおぬし、苗字は【雨宮】というのではないか?」

「いいえ、違いますけどまたなんで?」

「いや、おぬしがとある男の雰囲気にそっくりだったからじゃ。それに…なんじゃその潜在値。化け物か。」


おじいさんにまで化け物扱いされる今日この頃。というか【狂気】を見抜いたのか。すげえな。

「これは自分では出せませんけど…出すわけにはいきません。」

「そうか、そういう類の者か。眠れる獅子は眠らせたままだとな。」

「師範代、私にこの者と勝負させてください…。今日こそ実力を証明したい。」

「それは相手に聞けと毎回行っておるじゃろう!それに、今回は本当に分が悪い。……死ぬぞ。」

流石、分かってるなこの人。それに引き換え、この馬鹿弟子は…。恐らく上位層なのだろうけど素行がなってないんだろうな。もう人の腕を引きちぎった後の絶望顔なんてもう見たくない。殺したくなんてない。薊に迷惑をかけたくない。美咲を宥め、ボク達は道場を後にした…その際に表情を曇らせていた二人の少年をボクは気にせずにはいられなかった。




 翌日の朝、中学の行事の影響で月曜である本日も休みである。正直、土曜が休みじゃない時点で文句があるんですけど。慣れたからもういいですぅ。昨日の寝不足によりボクと綾ちゃんは早々に死んだように寝た。綾ちゃんはまだ眠っているが、ボクは昨日の道場で見た表情を忘れることができずにいたために11時起床であった。普通に寝ただろう?ふざけるな寝てない方だ!ボクの心配していたうち、片方の予感が早くも的中してしまっていた。ボクの携帯に一通のメールが来る。

「薊からだ。」

しかし、内容は薊からではなかった。昨日のさわやか君(仮)からだった。君の最愛の妹君は預かった。この少女が大切ならば僕と勝負しろ。君がこの少女を溺愛していることは知っている。僕にお前の力を見せてみろ。


 だめだった。彼はボクに対する地雷を躊躇なく踏みつけていた。そして、案の定【ボク】は意識を失い、【オレ】が表に出てきた。

「母さん、オレちょっと出かけてくるわ。ゴミを処理しに。」

「ちょ、晃司待ちなさい!」

そんな声など無視し、クラウチングスタートの体勢を崩しけもののような体勢から大地をける。速度はもはや車を追い抜かせるほどだろうか…それどころじゃないかもな。その後、失速しそうになるたびに地をけり加速する。道場に到着するまでそう時間はかからなかった。


 道場の入り口は重たい鉄の扉で開けるのが面倒くさい。という訳で蹴飛ばす。とんだ鉄扉の下敷きになる門下生が一人。その他大勢も戦意を失っていた。

「おお、来たか。昨日とはまるで別人だな。それでこそ倒し甲斐がある。」

そのまま一撃を入れようとして来る勘違い系さわやか。

「邪魔だ。」

そんなことお構いなしで、軽く払い退けるように手をふるう。宙を舞い、遠くにある壁にめり込む。今日はもうおしまいだろうな。まあ、当初の目的は果たしたが、足りねぇ。

「全員血祭りにあげてやる。」

「そうはさせぬ。」

そこへ歴戦の猛者が立ちふさがった。へっ。面白い。少しはましだろうなぁ。オレと猛者との勝負が始まった。




 私こと小鳥遊美咲はたった今、村上家の母、沙織さんから最悪のシナリオを聞いた。晃司の携帯から薊ちゃんは誘拐され彼は【狂気】を発動させ出て行った。このままでは道場が血の海と化しかねないらしい。そして私は【狂気】を抑えるバットを渡され、道場へと向かうのであった。




 師範代は強かった。このオレを前にして普通に戦えている。もはや人間じゃねぇ。ただし、攻撃は若干反らされるイメージで、恐らく直撃すると骨をやれる。拳と拳を重ねる。それは、オレにはできないはずのことであった。こんなのがいるんだ。世の中は捨てたもんじゃねえな。

「おぬし、恐らく思考が追いついておらぬな。直感だけで動いておる。人間は大体、成長過程でそれを補えるがおぬしの場合は違うじゃろう。でも、それだけでも強いのが素質なのだろう。誠にいやらしい。」

「おお、言ってくれるな爺さん。こちらもしっかりやらねえとな。」

右の一撃…逸らされる。ハイキック…相手の絶妙な位置へのハイキックにより防がれる。

「あまい!」

一瞬何が起きたか分からなかったが右腕がつぶれていた。

しかし、ただやられるのでは芸がない。こちらも左腕をつぶした。

「やるな爺さん。相打ちか…じゃないんだよな!」こちらは【狂気】…呪いなんだ。つぶれた右腕なんてすぐ直る。折れた骨が急速に接合し、抉れた繊維は元の形状へと戻る。完全復活だ。」

「なんと、おぬし幻想種の類か?」

「なんだよ…まあ、そうかもしれんな。というよりいるんだそういうの。」

「まあ、もともと人間に仇名す幻想種…主に吸血鬼を狩るためにこの道場はある。」

「そうか。その【雨宮】はそれがらみか?」

「まあ、そうと言われればそうじゃの。」

こんなのを常人では目で追えないレベルの戦いをしながらしている。本当にこの爺さんはオレを興奮させる。【狂気】にここまでできた人間はそうはいない。

「それじゃあトドメだぁ!」




 道場に到着したとき、場は騒然としていた。戦っているのは二人、晃司と翼師範代だ。そのレベルはとうに人間を超越していて介入できない。

まず、薊ちゃんを探し出すのが先決だろう。そしてこのバットの使い方を教わろう。

 薊ちゃん自体はすぐに見つかった。しかし、バットについては後頭部に当てなければならないらしい。薊ちゃんにそんなことさせられないし、この原因はそもそも私にある。私がしなければならない。私は勝負に出た。


 場に着くと、勝負は付きそうになっていた。再生する負傷者としない負傷者。どちらが有利なんかすぐわかる。トドメを刺そうとしている。

「あんた、こっちを向きなさい。薊ちゃんは助けたわ。犯人もあんたが倒した。もう落ち着きなさい。」

「嫌だね。もう少しで終わるんだ。最後まで余韻に浸りたい。」

「意地でもとめる!」

私は前に出る。一撃が飛んでくる。とてつもなく速い。でも、反応はできる。いつも通りの技で宙を舞わせる。しかし、体をねじって着地する。当然そんなことをすれば、状態はより悪化する。最悪骨が大変なことになる。でも、再生してしまう。今度こそおしまいだ。だがしかし、私の出番はもう終わっている。

「師範代お願いします。」

「任せなさい。」

師範代にとっさに投げたバットは晃司の後頭部に直撃してことは収拾した。




 ボクはまたしでかしたらしい。ここは昨日の道場…たぶん負傷者はいなそうだ。前回ほどの騒ぎではなかったから。たぶんここは道場の救護室かな、どこも最近はあるらしい。目を開ければそこには薊がいる。助かったんだな。良かった。その隣にいるのは百合っ子と師範代。この二人にも迷惑をかけてしまったようだ。

「すみません。暴れてしまったようです。それよりも師範代の腕…。」

「いいんじゃ。あそこまでわしを追い詰めたのはあの者以来じゃ。それにこのぐらい昔はよくあった。」

なんだか気を使わせてしまったかな。こういう時は厚意に甘えるのが正解だろう。それに、美咲がここにいるのは謎だ。

「それよりお前にも迷惑かけたな、美咲。」

「いいの、これは私が原因でもあるのだから。それに、薊ちゃんを誘拐するなんて許せない。まあ、バットを渡してくれたあんたの母親には感謝しときなさい。」

そういうことか。母さん…適役を見つけてたんだ。確かに、美咲なら少しは相対できる。伊達に40になってない。まあ、後で『あと数か月あるの』って文句を言われそうだが…。

「兄さん。ごめんなさい。私のせいで……また、ごめんなさい。」

「どうして君が謝る必要がある。これはボクの自己責任だ。力は自覚と覚悟がある者にしか持つことを許されない。ボクには自覚も覚悟も足りていなかった。それだけなんだよ。だから、薊が無事で良かった、それだけだよ。」

そのまま、薊の頭に手を乗せ撫でる。これがいつものボク達の在り方。慰めるのにはちょうど良かった。薊は泣いていた…。【狂気】はそれほどに【ボク】からかけ離れていたのだろう。でも、表に出てくるたびにそれが奥に秘めたものなのだと実感してくる。ボクの本質は知らない。本来自分というものは自分が一番知らないものとかはこの際どうでもいい。父さんから断られた。


ボクの本質を見る目の師匠である父さんから。それが何を示すのかなんて知らない。でも必死だった。絶対に知ってはならないらしい。ボクはなんなんだろう。【狂気】は本質なのだろうか。負の感情なのだろうか。ボクの課題は増える一方だった。

「貴様ぁ、お前は僕に倒さなければいけなかったんだよぉ!」

ここで登場したのは勘違いさわやか。本性が出てきたのかな?見た感じ瞬殺っぽい。ああ……見てるとイラつくな。こいつが薊を…。

「お前、何がしたかったんだ。」

「僕はなぁ、選ばれたものなんだよ。この道場に入ることを許され、そのトップをとれた。師範代にそのことを認めさせようとした。そのために貴様はいいカモだった。なのになんだよ。」

「てめえこそ何がしたいんだよ。そんなことのために薊を誘拐して、ボクをおびき出したのか?人は手前のためにある便利な道具じゃねぇんだよ。」

「ふざけるな!僕は選ばれた人間なんだよ。選ばれなかったものは利用されるためにあるんだ。そこのそいつもお前も!ただの道具なんだよ!」


お前は言ってはいけないことを言った。ボクならいい。正直、ボクは存在価値を見出せないゴミだ。でも、薊は違う。薊はボクに生きる希望を見せてくれた。意味を【貸し出して】くれた。それをただの踏台扱い…。ざけんな。コイツの本質は単純…この選民思想も親のものだろう。だから、本当はかわいそうな自分の意志を持たない人形。


「僕は正義の代行者なんだ。正義のために犠牲が付くのは当たり前なんだよ。特撮のヒーローは町の人間を巻き込まないことなんてない。必要な犠牲なんだよ。」

よりにもよって、正義を語るのか。拗らせすぎだ。それにウル〇ラマンをそういう風に見るなよ。こいつは真正の偽善者。周りを見ずに自分の意志だけでひたすら前に進む。そういうやつがたどり着く先は【悪】だ。ダークヒーローが近年評価されるようになったのは、敢えてその【悪】を選ぶ真正の正義だから。本当に必要なことをする。…例えそれが周りから忌み嫌われようが…。

「ざけんな。誰が正義だ。お前のしてる正義は正義でも何でもない。それにお前のその選民思想は害悪でしかない。選民思想の果てに得られるものなんて絶対にいいものじゃない。選んだ方も選ぶ方も。」

思わず声色を“本来”のものにしてしまった。この声は人を怯えさせてしまう。

昔、悪魔みたいだなんて言ったやつもいた。だから薊の前では出したくなかったがこの際どうでもいいだろう。


「ボクたちは選民思想…いや、選別をする際の後悔を知っている。だからこそお前の発言は許せない。正義というものは自分だけで確立するものじゃない。だからこその“正義”なのだから。」

正義、常識、評判などは人が人を縛るための言葉。本来いらないもの。だけど人間はそれを本能的に求める。それが【社会性】を持つ獣(動物)なのだろう。だから人間は生きる害悪を生み出す。


「そんなの…貴様に言われる筋合いなんてない。僕が正義で、正しくて、選ばれたんだ。お前とは違うんだ!」

そんな捨て台詞のようなものを吐き突撃してくる。今のボクに彼への対処法なんてないだから…。

「美咲、後は頼む。」

「分かった。私も何かしないと気に食わない。」

そう言って、彼女はいつもの技で宙を舞わせる。着地した瞬間彼は終わるだろう。だけど…

「すまん、我慢できない。」

ボクは、宙を舞う彼に渾身の一撃を入れる。美咲にすべてを委ねる予定だったのに。それに、この状態での一撃は相手がどうなるかなんて予想できない。彼は地に沈み、気を失った。




 ボク達は翼流道場を後にした。師範代にも正式に謝罪をし、美咲にも礼をした。薊へのフォローをする。あの声を出してしまうとのどが痛いんだけどな。

「薊、今度はこうならない様にする。ボクが守る。いいかい?」

「いいですよ。それよりも、今回は私にも反省点はありました。もう少し、注意と自覚を持たないといけませんね。ただ、私は兄さんがいてくれるだけで安心です。もうこんなことにはなりません!」


グッと、拳を握る。効果音が『グっ』ていうより『キュッ』ていう感じなのが

本当にかわいいです。庇護欲にかられる。もうこの子を怖い目に遭わせたくない。ボクの新たな決意がここに生まれた。


正しさなんてどこにもない故に普通に生きることがそうなのかもしれない。そして、薊ちゃんへの晃司君の愛が増した回です。

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