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知らなくて  作者: みなみ 陽
絶望の始まり
18/21

血を引く蜘蛛

【五月二日 六時】

 

「立派な殺人事件じゃね……これは」


 翔太は遺体をまじまじと眺めながら言った。どうしたらそんなにじっくりと見れるのだろう。知っている人とかいない人とか、そんなの関係なく遺体をそんなに見る勇気、私にはない。


「嗚呼、じゃけぇもう警察には連絡した」


 お父さんは暗い声でそう言った。警察……この悪天候では本島から来るのは大変だろう。最悪、夜になるまで来ない可能性もある。それまで私達はお姉ちゃんを放置しておくしかない。変に触ってはいけないし、捜査の邪魔にも成りかねない。

 とりあえず一旦ここから離れたい。


「警察……必要ないっすよ」

「あぁ?」


 勝紀が何を言っているんだ、とでも言いたそうな目で翔太を睨む。


「犯人はこの中にいます。間違いなく……」


 翔太は周りをグルリと見渡した。


「俺達の中に殺人鬼がいるってことかよ!?」

「そう言っとるじゃん。分かれよ」

「て……てめぇ!」

「やめんさいや! 二人共!」


 慌てて私は睨み合う二人の間に入る。怖い、二人共怖い。


「翔太君、犯人分かるの?」


 座り込み、ずっと黙っていたお母さんが消え入るような声で言った。


「……はい。犯人が誰なのか説明します。俺の話聞いてくれますか」


 翔太は、お母さんをじっと見つめる。


「そう……お願い」


 落ち込んでいるお母さんを、私は初めて見た。私達……特にお姉ちゃんには徹底して冷たくしていたのに、今更こんな反応を見せるなんて。


「お前がそう言うんじゃったら……そんなに自信があるんか?」


 お父さんは少し怪訝な表情で翔太を見る。


「あります。腐るほどに」

「はっ! 糞素人が探偵でも気取ってんのかよ」


 勝紀が半笑いで、ゆっくりと手を叩く。こんな時でも相変わらずというか、なんというか……。どうしてここまで勝紀は、翔太に対して喧嘩を売るようなこと言うのだろう。どうして仲良く出来ないのだろう。そんな風に色々思っていた時だった。


 バリン、と冷たい嫌な音が響く。


「翔……太?」


 翔太の左手がお風呂のガラスの壁を貫いていた。蜘蛛の巣のように綺麗に割れたガラスから、糸を引くように血が零れ落ちる。


「……聞けや……これが――――」


 聞き取れなかった。しかし、何と言ったのかと問う勇気もなかった。口を開く勇気すらなかった。情けない。これを見た勝紀は流石に怯んだのか、一歩二歩と後退りして黙った。

 異様な雰囲気、それ以外に言い表せない。


「ガラスを割ったんじゃ、ちゃんと正しいこと言わんかったら弁償して貰うけぇの」


 お父さんは腕を組み、ジッと翔太を睨んだ。


「はい」


 翔太は大きく深呼吸をして、再び口を開く。そして事件の推理を始めた。

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