血を引く蜘蛛
【五月二日 六時】
「立派な殺人事件じゃね……これは」
翔太は遺体をまじまじと眺めながら言った。どうしたらそんなにじっくりと見れるのだろう。知っている人とかいない人とか、そんなの関係なく遺体をそんなに見る勇気、私にはない。
「嗚呼、じゃけぇもう警察には連絡した」
お父さんは暗い声でそう言った。警察……この悪天候では本島から来るのは大変だろう。最悪、夜になるまで来ない可能性もある。それまで私達はお姉ちゃんを放置しておくしかない。変に触ってはいけないし、捜査の邪魔にも成りかねない。
とりあえず一旦ここから離れたい。
「警察……必要ないっすよ」
「あぁ?」
勝紀が何を言っているんだ、とでも言いたそうな目で翔太を睨む。
「犯人はこの中にいます。間違いなく……」
翔太は周りをグルリと見渡した。
「俺達の中に殺人鬼がいるってことかよ!?」
「そう言っとるじゃん。分かれよ」
「て……てめぇ!」
「やめんさいや! 二人共!」
慌てて私は睨み合う二人の間に入る。怖い、二人共怖い。
「翔太君、犯人分かるの?」
座り込み、ずっと黙っていたお母さんが消え入るような声で言った。
「……はい。犯人が誰なのか説明します。俺の話聞いてくれますか」
翔太は、お母さんをじっと見つめる。
「そう……お願い」
落ち込んでいるお母さんを、私は初めて見た。私達……特にお姉ちゃんには徹底して冷たくしていたのに、今更こんな反応を見せるなんて。
「お前がそう言うんじゃったら……そんなに自信があるんか?」
お父さんは少し怪訝な表情で翔太を見る。
「あります。腐るほどに」
「はっ! 糞素人が探偵でも気取ってんのかよ」
勝紀が半笑いで、ゆっくりと手を叩く。こんな時でも相変わらずというか、なんというか……。どうしてここまで勝紀は、翔太に対して喧嘩を売るようなこと言うのだろう。どうして仲良く出来ないのだろう。そんな風に色々思っていた時だった。
バリン、と冷たい嫌な音が響く。
「翔……太?」
翔太の左手がお風呂のガラスの壁を貫いていた。蜘蛛の巣のように綺麗に割れたガラスから、糸を引くように血が零れ落ちる。
「……聞けや……これが――――」
聞き取れなかった。しかし、何と言ったのかと問う勇気もなかった。口を開く勇気すらなかった。情けない。これを見た勝紀は流石に怯んだのか、一歩二歩と後退りして黙った。
異様な雰囲気、それ以外に言い表せない。
「ガラスを割ったんじゃ、ちゃんと正しいこと言わんかったら弁償して貰うけぇの」
お父さんは腕を組み、ジッと翔太を睨んだ。
「はい」
翔太は大きく深呼吸をして、再び口を開く。そして事件の推理を始めた。




