慈悲と嘘
【五月二日 六時】
「翔太? 起きとる?」
私は恐る恐る翔太の部屋のドアを叩いて声をかける。しかし、返事はない。
「翔太? 翔太ってば!」
ドンドンドン、と力強く叩くと中から「んあーっ」と欠伸に近い声がした。
良かった……生死の確認が出来たのでとりあえず安心だ。
「春紀か~……どした?」
「大変なの! はよ来て!」
「え~でも頭痛いしなぁ……」
「頭痛いとかどうでもいいけん! 大変なことが起こっとんじゃって!」
腹が立った私は、部屋のドアを開けた。するとそこには、上半身裸でパンツ姿の翔太が――。
「あ! ご、ごめん!」
慌ててドアを閉める。見てはいけない物を見てしまった気分だ。でも、役者を目指しているだけあって体はちゃんと鍛えているみたいだ。
「俺の自慢のボディはどう?」
「ちゃんと鍛えとんじゃね……ってそうじゃなくて、急いで服着てお風呂場に来て!」
翔太はさっきの悲鳴も聞こえなかったのだろうか。本当に呑気に寝ていたのか。とりあえず状況の共有だけはしておかないといけない。こうなってしまった以上、犯人がいることに間違いない。外部の人か、それとも家族か。
私と姉が立てていた計画は破綻した。しかし、事は起きた。これから一体どうなってしまうのだろう。
「全く……はいはい着替えましたよ」
扉が開かれる。眠たそう、というより死にそうだ。体調不良なのか、顔色も悪い。一瞬見ただけでは分からなかったが、しっかりと見れる今無理に起こしてしまったのが申し訳ない。
いや、そんなことを言っている場合でもない。
「なんか……大丈夫? ちゃんと寝た?」
「寝たよ、想像の中で」
「それ寝とらんってことじゃ……昨日睡眠薬貰っとったじゃん」
「実は俺錠剤飲めんのよね~……でもそんなこと貰っとって言える訳ねーじゃん? じゃけぇ……まぁ」
「え、じゃその錠剤どうしたん」
「ポイ、よ。ポイ」
翔太は、ポイッと投げ飛ばすジェスチャーをした。
「勿体ない……」
「まぁ想像の中で寝れただけでも御の字よ。俺はこの経験を生かして、次こそは実際に眠ることを叶えるけぇ」
「はいはい……って、こんなことを話しとる場合じゃないんじゃってば!」
私は、翔太の腕を掴んで急いでお風呂場へと向かった。
「待って待ってしんどいしんどい」
「ほぼ一直線じゃろ!? しんどいのは分かるけど……結構重要案件というか、超ヤバイ案件じゃけぇ」
「……うん」
そして私達は異質な雰囲気漂う現場へと到着した。私は鼻を塞いだ。こんな血生臭いの耐えられない。お母さんはまだ尻餅をついていた、腰が抜けて動けないのだろう。お父さんは頭を抱え、勝紀は「ヤバイ……ヤバイ……」と呟き続けている。
そして翔太は――動揺するでもなく、涙を流すこともなく、怒ることもなく、お姉ちゃんの遺体を見つめていた。




