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知らなくて  作者: みなみ 陽
絶望の始まり
17/21

慈悲と嘘

【五月二日 六時】


「翔太? 起きとる?」


 私は恐る恐る翔太の部屋のドアを叩いて声をかける。しかし、返事はない。


「翔太? 翔太ってば!」


 ドンドンドン、と力強く叩くと中から「んあーっ」と欠伸に近い声がした。

 良かった……生死の確認が出来たのでとりあえず安心だ。


「春紀か~……どした?」

「大変なの! はよ来て!」

「え~でも頭痛いしなぁ……」

「頭痛いとかどうでもいいけん! 大変なことが起こっとんじゃって!」


 腹が立った私は、部屋のドアを開けた。するとそこには、上半身裸でパンツ姿の翔太が――。


「あ! ご、ごめん!」


 慌ててドアを閉める。見てはいけない物を見てしまった気分だ。でも、役者を目指しているだけあって体はちゃんと鍛えているみたいだ。


「俺の自慢のボディはどう?」

「ちゃんと鍛えとんじゃね……ってそうじゃなくて、急いで服着てお風呂場に来て!」


 翔太はさっきの悲鳴も聞こえなかったのだろうか。本当に呑気に寝ていたのか。とりあえず状況の共有だけはしておかないといけない。こうなってしまった以上、犯人がいることに間違いない。外部の人か、それとも家族か。

 私と姉が立てていた計画は破綻した。しかし、事は起きた。これから一体どうなってしまうのだろう。


「全く……はいはい着替えましたよ」


 扉が開かれる。眠たそう、というより死にそうだ。体調不良なのか、顔色も悪い。一瞬見ただけでは分からなかったが、しっかりと見れる今無理に起こしてしまったのが申し訳ない。

 いや、そんなことを言っている場合でもない。


「なんか……大丈夫? ちゃんと寝た?」

「寝たよ、想像の中で」

「それ寝とらんってことじゃ……昨日睡眠薬貰っとったじゃん」

「実は俺錠剤飲めんのよね~……でもそんなこと貰っとって言える訳ねーじゃん? じゃけぇ……まぁ」

「え、じゃその錠剤どうしたん」

「ポイ、よ。ポイ」


 翔太は、ポイッと投げ飛ばすジェスチャーをした。


「勿体ない……」

「まぁ想像の中で寝れただけでも御の字よ。俺はこの経験を生かして、次こそは実際に眠ることを叶えるけぇ」

「はいはい……って、こんなことを話しとる場合じゃないんじゃってば!」


 私は、翔太の腕を掴んで急いでお風呂場へと向かった。


「待って待ってしんどいしんどい」

「ほぼ一直線じゃろ!? しんどいのは分かるけど……結構重要案件というか、超ヤバイ案件じゃけぇ」

「……うん」


 


 そして私達は異質な雰囲気漂う現場へと到着した。私は鼻を塞いだ。こんな血生臭いの耐えられない。お母さんはまだ尻餅をついていた、腰が抜けて動けないのだろう。お父さんは頭を抱え、勝紀は「ヤバイ……ヤバイ……」と呟き続けている。

 そして翔太は――動揺するでもなく、涙を流すこともなく、怒ることもなく、お姉ちゃんの遺体を見つめていた。


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