第34話 次の依頼
◇ ◆ エル視点 ◆ ◇
「はふぅ~......」
組合に設置された待合椅子に深く座り込むと、ゆっくりと息を吐き出して脱力する。
--避難が無事に終わって良かったぁ~......
孤児院の子供達は素直に言う事をきいてくれたけど、腰を抜かしちゃったり漏らしちゃったりで大変とってもだった。
「全く...だから子供は...」
隣に設置された机に突っ伏して、ニナさんがブツブツと文句を呟いてますね。
まぁ気持ちはわかりますが、恐いんで心の中だけに留めといて欲しいです。
--でも...
ニナさんは何時も文句を言うけど、実は面倒見が良くて優しかったりするのを知ってます。
私も最初に出会った時は悪く言われて恐かったけど、悪い場所は的確に最後まで教えてくれるし、特訓にも付き合ってくれる。
今回も結局お漏らしした子を綺麗にしたり、腰を抜かして動けなくなった子を背負って運んだのはニナさんだ。
『ジョニーは前衛で護らなきゃならないし、エルは...遊撃が居なくなると私が困るから』って言ってましたけど、照れくさくて言ってるのはわかってます。
そう言うところが、私はちょっと可愛いなって感じてしまうんですが...。
流石に先輩に向かって『可愛い』は失礼過ぎますよね。
--口を滑らさない様に気をつけないと...
私はつい思った事を言ってしまうので、『可愛い』なんてニナさんに言ったら大変な事になってしまいます。
どれだけ毒を吐かれる事か...考えただけでも恐ろしいです。
「んんー......」
眠くなってきたので、伸びをして眠気を飛ばしてあらためて周囲を見渡す。
今は依頼が一段落ついて次の指示を待ってるところです。
ジョニーさんは隣の机で装備の整備をしてますが、全身鎧の上に大盾に長剣が装備なんでとても大変そうですね。
私の装備は今回使わなかったので、整備のお手伝いを申し出たいところではあるんですが、装備っていうのは仲間でも触らせたくない物なので見守っています。
--暇だなぁ...
教会のポータルからは順調に避難が進んでいるらしいし、何もなければ此処で最後まで待機する事になります。
他の冒険者さん達は色々仕事をしているのに、こうして休んでいるのは少し申し訳ない気がしますけど。
こうして休んで待機するのも、緊急事態に備えた立派な仕事なのだから仕方が無いのです。
そう、だから仕方ないです...。
「はふぅ~......」
--無事に終われば良いなぁ...
......。
「あれっ?」
何だか組合のカウンターが騒がしい気がします。
「何かあったのかな?」
「うえぇ......私はもう面倒事は嫌よ...」
ニナさんが面倒そうな声を上げて机に突っ伏しちゃいました。
「ちょっと私、見てきますねっ」
「えー...わざわざ首を突っ込まなくても...」
ニナさんが気だるそうに文句を投げかけてきますが、何時も通りなので特に気にせずカウンターへと向かいます。
私も面倒事は嫌ですが、それ以上に何かあったのか気になってしまうのです。
私の仕事はパーティの斥候でもありますからねっ、何があったのかしっかりと偵察してきます。
--とは言っても...
そこにいるリィナさんに聞くだけなんですけどね。
「リィナさん」
「はい、どうかされましたか?」
「いえ、何だか騒がしかったので...何かあったんですか?」
「え、えぇと...」
私が疑問をぶつけると、リィナさんが周囲をキョロキョロと確認して、耳打ちするように話し始めた。
「その、内密にお願いしますね」
「...はい」
「その、ケイトさんから救難信号がありまして...」
「えっ...確かケイトさんって、レムさんが付いて行った人ですよね」
「はい...」
ケイトさん自身も教団の聖騎士だって聞いてたけど、そんな二人が救難を求める程に苦戦するって...。
何よりあのレムさんが、敵に負ける姿が全く想像できないんですけど。
「それで、おそらく『蒼天の剣』の皆さんに救援依頼が出されると思いますので
念の為に準備をしておいてもらっても宜しいですか?」
「は、はいっ...」
す、すぐにジョニーさんへ伝えないとっ。
「ジョッ、ジョニーさんっ」
「エル? どうしたんだい、そんなに慌てて...
...もしかして、緊急事態なのかい?」
「は、はいっ レムさん達が「ジョニアック!」」
私が内容を話そうとしたところで、グラディスさんの声が部屋の中に響いた。
「...行きましょうか」
「はい」
「ほら、ニナも行くよ」
「だるい......」
ジョニーさんに呼ばれて、ニナさんも渋々と行った感じに立ち上がる。
「こっちだ、ジョニアック」
「どうかしたんですか?」
「城に向かったケイトとレムに何かあったらしい」
「レムさんに?」
「ああ、アイツに......だ
ケイトに渡してあった救難用の狼煙があげられた」
「それは...まずいですね」
「そうだ、だから蒼天の剣に依頼したい」
「そうですか、詳しい情報は何か...?」
「ああ、ラッツとデアッドが狼煙の近くにいてな。様子を見に行ったらしい...」
「...それで?」
「ああ、一面破壊の跡と血溜まりと砂の山があるだけで、ケイトもレムも姿は見なかったらしい...
その上、見たこともない砂のミイラが出たらしく、命からがら逃げ帰ってきたと報告に来た」
「そうですか...」
あのレムさんがやられるとなると、相当危険な状況だと言う事なんでしょうか。
見たこともないミイラっていうのも気になりますね...。
「わかりました、すぐに向かいます」
珍しいですね。
普段は仲間と話し合ってからでしか依頼を受けないジョニーさんが、即答で依頼をうけました。
「あのっ、ケイトさんが危険だって聞いたんですが」
「む? アルティナか...?」
ジョニーさんとグラディスさんの会話に割り込んで、聞いた事のある声が入ってきました。
グラディスさんが振り返った方を見ると、そこに神官のアルティナさんが立っていました。
さっきまで臨時でパーティを組んでいた女の子だ。
「私も連れて行って下さい」
「いや...それは...」
何だか少し暗い表情をしています。さっきまでは子供達を助けられて笑顔だったのに...。
聞いた話だけれど、今回のこの状況は彼女が関わっているらしい。
そのせいで思い詰めてしまっているんでしょうか。
「お願いします」
「......」
グラディスさんが黙り込んでしまいました。
「ジョニアック、御前が決めろ」
「......わかりました」
「ジョニアックさん...」
「今回は避難依頼とは違い、かなり強い敵との戦闘が考えられます」
「...はい、覚悟の上です」
「......」
アルティナさんの目が真剣です。
ジョニーさんと見つめ合ったまま、黙り込んでしまった。
暫くそのまま見つめ合うと、ジョニーさんが静かに頷きました。
「わかりました、アルティナさんの回復魔法は心強いですし御願いします
すぐに出発するので、準備をしてきてもらえますか?」
「はいっ」
どうやらアルティナさんも来る事になったみたいだ。
遊撃の自分としては怪我の回復手段が増えるのはとても助かります。
--けど、大丈夫かな...
アルティナさん、責任を感じて思いつめてましたけど。
危険な場所での感情は非常に重要で、気持ちに左右されて一瞬の迷いが生じたり、判断を誤ったりしてしまいます。
無茶をしないように、しっかり私が見ていないと危ないかもしれませんね...。




