↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/6

第1話 アドルベルナへようこそ

「お願い、目を覚まして」

薄暗い病室でミラが泣き叫ぶ。

ミラの親友ハーヴェストがエルセロックという徐々に記憶が薄れていく病を患ってしまった。

静まっていく病室で医者が重い口を開いた。

「この病の治療法はこの世界には存在しない。」

「そんな。なんとか助けられる方法はないんですか。」

厳密に言えばない訳ではなかった。

だが、その方法が難しすぎるあまり医者は勧めることができなかった。

ミラの眼差しに圧倒された医者は渋々と答えた。

「一つだけ治療法がある。記憶の石というものがあるんだが、その中に入っている液体を飲ませれば治せる。」

「じゃあそれを飲ませましょうよ」

「それが、この世界には存在しなくて。アドルベルナという異世界のアドリッス樹林にしか存在しないんだ。」

「じゃあ、そのアドルベルナのアドリッス樹林に行けばいいんだ!」

「ダメだ!」

医者が血相を変えて叫んだ。

「あそこは恐ろしい場所だ。現地の住民も生物も植物も何もかもがこの世界の者を嫌っている。奴らに正体がバレたら帰れなくなるどころか命まで奪われるぞ。こんな少女が行くようなところでない。」

医者の剣幕に圧倒され、諦めそうになったが親友のためだ。

ここで引き下がるわけにはいかない。

「行ってみないとわからない。大切な親友を救うための可能性があるのに、それを蔑ろにすることなんてできない。」

ミラは必死に頼んだ。

命を懸ける覚悟は彼女の中にはあった。

医者はミラの命のためにも許さなかった。

だが、あることを思い出した。

アドルベルナが危険すぎるあまり、正体を知られたら強制帰還させられるシステムがあったことを。

「これを用いれば安全に行ける。だが、現地の奴らに直接命を奪われる可能性は残っている。」

「本当ですか!」

ミラは大喜びだ。

これで親友を救えるからだ。

医者は完全に心を許したわけではない。

でも、ハーヴェストを助けたいことは確かだ。

そして、医者は科学者に電話し、事の経緯を説明した。

科学者はすぐに飛んできた。

ミラに会うや否や

「あなたが異世界転移をしたい人ですね。本当に行く覚悟はありますか?」

「はい」

ミラは即答だった。

親友を救うことが彼女に与えられた試練だと思っているからだ。

科学者はミラに一冊の分厚い古びた本を差し出した。

「この本にはアドルベルナのことについて書かれています。これに従って行動してください。でも、気を付けてくださいね。油断すると現地の者に正体がバレるかもしれませんから。」

ーーーーーアドルベルナの攻略ーーーーーーーーーーーーー

      アドルベルナでのルール

一、現地の者に正体がバレてはならぬ。

一、各街には異世界の者(異分子)を見分けるための罠やルールがある。気をつけろ。

一、30日以内に帰還すること。

       各街のルール・罠

アレルドリアー転移の場所。

ルールはないが、ニラミーギョという草には気をつけろ。

奴は攻撃性はないが、踏むと異分子にしか反応しない着色料がつく。

そのまま歩くと足跡がついて監視に異分子だとバレてしまう。

脱色するにはシルシ苔を塗れ。

・・・

ーーーーーーーーーーー完ーーーーーーーーーーーーーーー

他にも現地の生物やアドリッス樹林までの地図が記されていた。

「明日の朝ここで転移の儀式をします。それでは」

とだけ言い残し科学者は帰ってしまった。

「これでハーヴェストを救える」

ミラは明日が待ち遠しくてしかたがなかった。



 ついに約束の日の朝が来た。

いつもと変わらない日の出なのに、どこか勇ましく感じた。

「今日からアドルベルナか。大丈夫かな?」

ミラは昨日とは裏腹に、少し不安を抱いていた。

すると、ハーヴェストと撮った写真と目が合った。

「懐かしいなあ。」

ハーヴェストの目は優しく、でも勇ましかった。

まるでこの旅を応援してくれているようだった。

そっと写真を手に取り、胸に当てた。

「待っててね。絶対に記憶の石を見つけるから。」

そして、手作りのお守りの中に写真をそっと詰め込んだ。



 とうとう約束の場所に着いた。

昨日とは違い、科学者は占い師のような格好をしていた。

「おはようございます。こちらに来てください。」

ろうそくに囲まれた魔法陣の上に通された。

何とも言えない緊張感が体に走る。

「それでは、異世界転移の儀式を始めます。目を瞑ってください。」

ミラはそっと目を瞑った。

「呪文を唱えます。

モンストラ、オー モンストラ、ウィアム アド インフェルヌム アペリーテ、エト、エウム、イン、インフェルヌム、コニキテ!」

呪文が耳を通り抜けた瞬間、今までに経験したことのないめまいに襲われた。


そして、意識を失った。



一瞬の出来事だった。



 気がついたときにはあのめまいがなくなっていた。

深い眠りについた後の感覚に近い。

上半身を起こし、周りを見た。

言葉が出なかった。

辺り一面見たことのない景色に覆われてる。

銀色の草や紫色の空、空気も元の世界のものとは明らかに違った。

「ここがアドルベルナか。」

おとぎ話に出てくるとような優しい雰囲気だった。

「なんだ。意外と平気じゃん。とにかく、記憶の石を見つけないと」

あんなに危険だと言われていたわりには、安全だった。

鞄からアドルベルナの地図を出し、アドリッス樹林の場所を探した。

「ここから4つ目の街にあるのか。案外近いなあ。」

まだ、アドルベルナの本当の恐ろしさを知らないミラは異世界特有の美しさや表面上の平和に魅了され、油断していた。

一歩歩くと、

"グサッ"

という音がした。

驚いて足元を見ると、緑色の雑草に目が生えたものを踏んでいた。

「何これ?」

じっと見つめているとやがて、その草から紫色の液体が出てきて靴についた。

「最悪。変なのがついたよ。」

ポケットから布を取り出し、靴を拭き取ろうとした。

だが、その液体が取れない。

「安全そうだし大丈夫か。」

放っておこうと一歩歩いたが、歩くたびに足跡がつく。

もしかしてと思い、例の本を見た。

「やっぱり。」

ミラが踏んだのはニラミーギョだったのだ。

この液体を拭き取るにはシルシ苔が必要だ。

「近くにシルシ苔はなさそうだな。でも、この街は安全そうだし住民に見つかったときに探せばいいか。」

ミラは、気を取り直して最初の街、アレルドリアの端に向かった。

道中、やけに現地の者が見てくる。

「顔に変なものがついているのかなあ。」

そんなことを思いながらも前に進んだ。

しかし

「ねえ、君。この足跡がつくってことはアドルベルナの者じゃないよね。ちょっと調べさてもらうね。」

突然、看守のような者に腕をつかまれた。

「違います。離して。」

シルシ苔を探さなかった自分を恨んだ。

ここで正体がバレて強制帰還させられてしまうのか。

待ち受ける運命に恐怖を覚えうずくまった。

「誰か、助けて。」

心の中でそう叫んだ。

すると、腕にかかっていた圧力が徐々に弱まっていった。

「な、何で。」

辺りを見渡すと、物陰から女の人が歩いてきた。

「ふう。間に合った。あんた、ニラミーギョを踏んだのに処置してたいなんて。」

「ごめんなさい。」

「でも、助けれてよかった。」

彼女はそっとミラを起こした。

「私の名前はレフィア。魔法使い。この世界の者じゃないから安心して。」

「助けてくれてありがとう。あなたも記憶の石を探しに来たの?」

「ううん。この世界に逃げてきた破壊神を探しにきたの。ねえ、よかったら一緒に行かない?記憶の石があるアドリッス樹林の場所も知ってるし。一人じゃ心細いし。」

ミラは少し戸惑ったが、何となくレフィアのことが信頼できたので了承した。

「いいの?私の名前はミラ。よろしくね。」

「こちらこそ。」

こうして、2人のアドルベルナでの旅が始まった。

「周りの者が騒いでるわ。捕まるのも時間の問題。行くよ。」

レフィアはミラの手を引っ張り次の街を目指した。

「ねえ、レフィア。まずはシルシ苔を探さないと。このまま歩いて行ったら、他の看守に見つかっちゃう。」

「その必要はないわ。ちょうど持ってるから。」

レフィアは袋からシルシ苔を一つ取り出し、ミラの靴にそっと塗した。

「これでよし。じゃあ行くよ。」

2人は再び歩き出した。

「次の街はエルレックって言って、ガラスでできてるの。」

「ガラスの街かあ。」

「厄介なことに異界の者だけ音が10倍になるの。だから、少しでも音を立てると異界の者だってすぐにばれてしまうの。」

「そんな。」

「それだけじゃない。エリマキキツネって言う異界の者に向かって爆音を鳴らす生物がいるの。こいつが看守に居場所を知らせるっていう噂もあるくらい厄介なんだよ。」

ここでミラはようやく、アドルベルナの恐ろしさを実感した。

「でも、安心して。私はいろいろな魔法が使えるの。もしものときは助けるから。でも、あまり頼りすぎないでね。魔法を使いすぎると、体力が消耗されて動けなくなってしまうの。」

「そうなんだ。でも、魔法を使わなくても隣にいてくれるだけで頼もしいから。私も頼りすぎないようにするね。」

そんな話をしているとアレルドリアの端までやってきた。

それと同時に辺りも徐々に紫がかってきた。

「この森を抜けたらエルレックがあるわ。」

レフィアは森に向かって指を差した。

「この先にエルレックがあるんだ。」

見惚れている時間はない。

こうしている間もハーヴェストの記憶は削られている。

ハーヴェストのためにも急がなくてはならない。

「待っててねハーヴェスト。私、絶対に記憶の石を持ち帰るから。」

2人は紫がかった森へ足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。