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番外編 旅のあとのピザと、お揃いグラスの乾杯


「お風呂、済ませましょ。先にどうぞ」


千海ちかがふわりと微笑みながら、家の浴室を指さした。


「あぁ、ありがたく一番風呂を頂戴するとしよう」


璃景りけいが衣服の袋から着替えをもって浴室へと向かった。


その間に、千海は手際よく動いた。


今回の旅で大活躍したお揃いのデニムバッグには、新たな定位置を決める。


璃景の肩掛けバッグと千海のデニムバッグを、邪魔にはならないけれど、ちゃんと目に入る場所へ並べた。


グラスを洗い使えるように用意する。


そして、長旅の後の夕食として、デリバリーの手配を済ませる。


璃景がさっぱりとした湯上がりの姿で戻ってきたのでドライヤーで乾かしてあげる。


千海も急いでシャワーを済ませ、髪を乾かした。


ちょうどタイミングよく玄関のチャイムが鳴った。


届いたばかりの大きな平たい箱をテーブルに広げると、部屋中に香ばしいチーズとトマト、そしてにんにくの食欲をそそる香りが一気に広がる。


「夕飯はピザにしました。何となく」


千海がくすくすと笑いながら箱を開けると、璃景はその円盤状の美味を見つめた。


「千海、これは?」


「ピザです」


「ぴざ?」


「はい。疲れにはピザとビールかなと思いまして。うちにあるのがノンアルコールビールなので、ほとんどアルコールはありません」


「のんあるこーる?」


「酔わないけどお酒みたいな味がするんです」


「なるほど。ぜひ体験してみたいね」


「お疲れ会をしましょう」


「千海……なんとも、この香りと佇まいは実に見事な食欲をそそるのだが……」


璃景は感心したように頷く。


「さあ、温かいうちに食べましょう」


千海は璃景に冷蔵庫からもってきたノンアルコールビール見せて


「飲みますか?」


「あぁ。いただくよ」


プシュッ、と小気味よい音を立てて缶が開けられる。


お揃いのペンギングラスとうさぎグラスへ黄金色の液体が注がれると、細やかな白い泡がふんわりと盛り上がった。


夜の明かりの中で琥珀色に美しく染まっていく。


カチン、とガラス特有の澄んだ高い音が部屋に響く。


「おぉ……この黄金の輝きと、雪のような泡の立ち居振る舞い。実に見事な佇まいだね」


「では、お疲れさまでした。乾杯」


「千海、お疲れ様。ありがとう、乾杯」


二人は同時にグラスを傾けた。


ごくりと喉を鳴らして飲み干した璃景は、一瞬、その独特な苦味と、喉を突き抜ける爽快な炭酸に目を見張った。


「――っ。これは……! 最初にがつんとくる心地よい苦味の後に、麦の芳醇な旨みが一気に駆け抜けていくね。冷え冷えとした喉越しが、この熱々で濃厚な『ぴざ』の脂を実に見事に洗い流してくれる」


「ふふふ、そうなんです! ピザとビールは、この世界でも最強のコンビなんですよ」


千海が「美味しいですね!」と嬉しそうに笑うのを見て、璃景はたまらなく愛おしそうに口元を綻ばせた。


「なるほど、最強のコンビか」


璃景は、ぺんぎんのグラスをそっと置き、千海を見つめる。


「……私たちも、なかなか良い布陣になってきたのではないかな」


さらりと、けれど深い情愛を込めて告げられた言葉に、千海はまたしても胸がどきんと跳ねてしまう。


ソファーの上では新しいもちもちのペンギンクッションが、棚の上からは小さなぬいぐるみが、楽しそうな二人を温かく見守っている。


「確かに、ペンギンとうさぎでいいコンビになってきましたね」


「それはいいコンビなのかい?」


「はい。異世界美男子、ペンギンに心を奪われる。なんてどうですか?」


「千海……それ褒めてないよね?」


璃景はジト目で千海を見つめる。


千海はまたしても悪戯が成功したように笑う。


「これからも沢山メモ取らせてくださいね、璃景さん」


「あぁ。我が作家殿の役に立てるように全力を尽くすよ」


「期待しています」


千海は笑いながら、グラスを傾けた。


「長旅の締めくくりに、この手づかみで豪快に食す異界の兵糧、喉を抜けるこの苦みとうま味を併せ持つ飲み物……そしてこれからの約束。最高だね作家殿。まさに今の我らの本陣にふさわしい戦略だね。千海」


璃景はソファーに置かれた新しい色違いのペンギンクッションに大きな背中を預け、もちもちとした感触を楽しみながら、嬉しそうに一切れを手に取った。


「北九州のうどん、ラーメンのバリカタ。下関のフグ、宮島の牡蠣、倉敷のぶっかけうどん、神戸の海鮮に中華街……そして我が家でのピザ、ノンアルコールビール。千海の導く食の行軍は、最後まで私を驚かせ、そして最高に満たしてくれるね」


璃景は熱々のチーズが伸びるピザを見つめ、楽しげに微笑んだ。


「それは食いしん坊作家として誉れですね」


千海は得意げに微笑んだ。


「さあ、我が作家殿。この見事な円盤を共に分け合おうじゃないか!」


熱々のチーズをとろりと伸ばしながら、二人はもう一切れへと楽しそうに手を伸ばした。


手元には新しく増えたペンギンたち。


東京の本陣に帰ってきた安心感と、旅の余韻に包まれながら、二人の賑やかで愛おしい夜は、温かく更けていく。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


今回は、取材旅行を終えたあとの、東京の本陣での夜のお話でした。


旅先で増えたお揃いのグラスと、ぺんぎんたち。

帰ってきた部屋には、二人の思い出の戦利品が少しずつ並んでいきます。


長旅の締めくくりは、ピザとノンアルコールビールでお疲れ会。

璃景にとっては、これもまた新たな異界の美味だったようです。


旅は終わっても、二人の賑やかな日常は続いていきます。

璃景の言葉に少しどきっとしつつも、千海はやはりメモ優先……。


この二人は、どこまでも二人の空気感で進んでいくのでした。


少しでも楽しんでいただけましたら嬉しいです。


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