舞踏会5
アトロックの上着を着ると猛烈な異臭に辟易する。
汗の臭いの中に、血と精液の臭いまで混じってる気がするのは勘違いでは無いだろう。
そして、オレはアトロックの能力値を見て驚愕する。
筋力(攻撃力) 130
体力(HP&持久力) 35
耐久(物理防御) 40
器用(成功率) 25
敏捷(身軽さ) 26
知識(魔法防御) 42
魔力(MP)152
先ほどの筋肉巨人グランロッドの筋力値が103と限界と思っていた99を突破していたのに少なからず驚いていたのだが、完全に規格外だった。
見た目からはまったく想像出来ない能力値だし、周囲のアトロックへの評価も噂では愚昧だったり阿呆だったりするので、すべての行動は能力値を隠す為なのかもしれないし、自らの身を守るための手段なのかもしれない。
どんなスキルがあるのかは分からないが、この攻撃特化の能力値を見る限り、感知型のスキルが発達していたとしたら暗殺を目論んでも相当な手練でも返り討ちに会うことになるだろう。
「どうじゃ?マロの上着の着心地は最高じゃろ?」
しっとりとした異臭漂う着心地から意識を逸し続けるが嗅覚と触覚の嫌悪感が現実を突きつけ続ける。
「さ、最高でございます。あまりの着心地の良さに意識が遠のきそうです」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
アトロックはかなりご満悦だ。
「どれ」
ドパーン
何が起こったのか一瞬分からなかった、急に後ろに吹き飛ぶ。
舞踏会の会場が一瞬で阿鼻叫喚へと変わる。
騒ぎの中心にいるアトロックは紫色の透明な半球のシールドの中で満面の笑みで周囲を見渡している。
アトロックを中心に半径2mほどの空白が出来て、その周りに吹き飛ばされた人、吹き飛ばされた人にぶつかった人などが、口や鼻から血を流してアトロックを唖然として見つめる。
オレの着てきたローブ水火竜のローブには、5竜の盾程では無いが、物理と火と水の攻撃を防ぐ防御壁を一定時間周囲に展開する事も可能になっていた。
オレが渡すときに説明しなかったのが悪いのかもしれないが、装備すれば装備品の能力は分かるはずと思っていたが、まさかこの会場内の人混みの中でいきなり展開するとは、あまりにも予想外だった。
「これは便利な者をもらったわい、どうじゃ?なかなかの威力であろう」
アトロックは防御壁が無くなると、周囲の被害をぐるっと見渡すと、鼻と口から血を流している栗毛の可愛い女性の髪を持ち引き上げそう問いかけた。
「ひっ!お、お許しくださいまし!」
「ん?言葉が通じんのかな?」
今度は耳をつまんで自分の口に近づける、今ピリッと耳が少し裂けました。
「威力はどうであった!?」
唾を飛ばしながら鼓膜が破れるかと思うほどの大声で問いかける。
「す、す、す凄かったです。凄い、凄い威力でございましたぁぁぁっっ」
ボロボロと可愛い顔を歪ませて大粒の涙を流して応える栗毛の女性の足元からは大量の液体が溢れでている。
「ほぉ、ソチは公衆の面前で放尿するのが趣味なのか?歴史あるドルトニアの王宮ホールで放尿したのはソチが始めてであろうな。歴史に名を刻むにしても斬新な方法よな」
にんまりと微笑むアトロックをよそに周囲は完全に凍りついている。
「その辺にせんかアトロック。リンジー姫は今日のためにわざわざプロミリアからいらしてくれた大事なお客様じゃ。お主の行動で外交問題にでもなったら事だぞ」
今頃になってビヨットが登場した。遅すぎる。
しかも相手はプロミリアのお姫様だっていうじゃないか、普通に考えたらありえないだろうこんな事は。
「だ、大丈夫でございます。すべては私の不注意でございました。それよりもホールの床を汚してしまいまして誠に申し訳ありません」
泣き腫らし化粧の落ちた酷い顔でリンジー姫はビヨットに謝罪している。
姫の周囲はプロミリアの家臣団が会場内から駆け寄ってきて壁を作っている。
姫に治癒魔法を施すもの、自分の衣服を脱いで床を掃除するもの、壁の後ろで既に剣の鯉口を切っている者までいる。
まさに一瞬即発な状態なのに、ビヨットとアトロックは、飄々としている。
「すいません、父上、あまりにも素晴らしいものを頂きまして、浮かれてしまいました」
「ほぉ。分かるぞその気持ち。良い上着じゃな。モートに礼はしたのか?」
おいおい、プロミリアの方々が叱責しないのか?って顔で見てるぞ。
「私の上着をお渡ししました」
「ふむ。あとは?」
笑顔のビヨット。
「それだけです」
誇らしげなアトロック。
ドゴッォォォン
プロミリアの家臣団の方にアトロックが吹っ飛んでいった。
家臣団を巻き込んでアトロックが血みどろになっている。
「王族たるもの、受けた礼は恩も恨みも倍にして返せと何度言ったら分かる?」
そこ?そこでキレるの?
ビヨットの周囲に黄金のオーラが漂っている、心なしか容姿も若干若返っているように感じるが、肉体は完全に別人になっていた。
オレはこれに似た現象を知っているぞ。
メルロの呪印だ。200歳を過ぎている割には若いと思っていたがビヨットも何らかの呪印を肉体に刻み寿命を伸ばしてきたのだろう。
ビヨットの能力値を見てオレは更に驚く。
筋力(攻撃力) 252
体力(HP&持久力) 315
耐久(物理防御) 222
器用(成功率) 301
敏捷(身軽さ) 168
知識(魔法防御) 158
魔力(MP)128
魔物並のステータスだった。完全に人の域を超えているが、その雰囲気や一代でここまでの大国を築き上げた皇帝ならば人外の能力を持っていたとしても不思議では無いのかもしれない。
この分だと、皇子たちにもそれぞれに呪印が施されて人外の能力値を得ていると思っていた方がいいだろう。
「二度と恥をかく事の無いように、身体に刻み込んでやろうぞ」
ガッ!ゴツッ!グチャッ!ボクフゥ!ビオチャッ!
皇帝が軽々とアトロックをどつきまわす。
一撃ごとにアトロックが吹っ飛ぶが、吹っ飛びきる前に反対方向からビヨットの一撃が加わる
「父上、ご指導ありがとうございます」
血まみれのアトロックが床に額を擦り付け満面の笑みでビヨットに一礼する。
「そうか。分かれば良い。してモートへの礼はどうする?」
なんかどんどんと事が大事になっていって、ありがた迷惑でしかない。
これ以上、この2人と関わり合いが濃くなっていくのは極力避けたいのに、思いとは裏腹にどんとんど密度が増していっている。
「バクリビアの入館および使用許可、そして死霊縁の腕輪をモートにこの上着の礼として渡したいと思っております」
「ふむ。まぁ打倒じゃろうな。モートもそれで良いか?」
「ありがたき幸せにございます」
バクリビアっていうのは、諜報機関から報告が上がっていたアトロックが受け持つ秘密機関だな。あまりの機密性の高さに何度かアタックをかけているが侵入できたものはいないし、何をしている施設なのかは聞き込みもしたが、良くわかっていない。
死霊縁の腕輪とか、ネーミングからして酷いアイテムとしか思えない、まさか褒章として呪いのかかったアイテムを贈るとかは無いと信じたい。
「プロミリアの方々にもアトロックから謝罪の品をお送りしたほうが良いかな?」
「い、いえ・・・結構でございます。お騒がせして申し訳ありませんでした」
リンジー姫が血の気の失せた真っ青な顔でそう答えた。
ドルトニアの長年の圧力外交は周辺各国から相当な恨みをかっているだろうが、それを上回る恐怖をこうやって定期的に周辺の有力者に見せつけているのかもしれない。
いずれにしてもとんでもない魔窟だ。




