舞踏会2
「こんばんはモートさん、何度か商人ギルドではお会いしていますね。改めましてアクアニアのウインズと申します」
「こんばんはウインズさん、アクアニアには良質な鉱山がたくさんあると聴きます。当社では独自の工房と技術を有しています、良い鉱石などありましたら、是非ご紹介くださいませ」
「おお!商売熱心ですねぇ、分かりました当社で所有する鉱石をリストアップして後日お持ちいたします」
「ありがとうございます。アクアニアで一番の豪商ウインズさんとお話が出来ただけでも今日この会場に来た甲斐があります」
このウインズという男、名前は非常に爽やかだが、青白い顔の太った中年男で魚人族のフグ科らしい、きっとトラフグだな猛毒ありってかんじだ陰湿な雰囲気が漂っている。きっと碌でもない事をたくさんしてここまでのし上がってきたんだろうと、オレの同類クズセンサーが反応している。ある意味親近感が湧く。
「ほぉ、こちらが噂のモートさんですか、初めましてラウロスのエコットと申します。普段は森の奥深くで小さな商売をしているもので、こうやって大都市ドールアンに来ると見るもの全てが驚きに満ちています。流石はそのドールアンでの新鋭商人ですね、お召のものも一流品でしょう、見たことも無い素材で出来ていますね」
エコットはネズミの獣人だ。如何にもセコい商売をしていそうだが、ドルトニア皇帝ビヨットの出身国でもあるラウロスとドルトニアとの交易は3国の中では一番多い故にこのエコットはその間でかなり大きな商売をしているようだ。ドルトニア国内の木造の建築物の材料である木材は、ラウロスの膨大な森林地帯からこのエコットを通して輸入されている、税収としてドルトニアとラウロスに相当な金額を収めていたとしても、エコット商会には天文学的な金が舞い落ちていることは誰もが知っている。こうやって公の場に出てくるのは珍しい、それも今日はエコット以上に公の場に出てこない初代皇帝ビヨットが舞踏会に出席すると言う事を聞き及んでいるからだろう。
「エコットさんのご高名は兼兼お聴きしております。新参者の身の丈以上の商売をさせて頂いておりますモートと申します。いつかエコットさんのような大商人の方と、少しでもお取引をさせて頂けるのが夢でございます。この着ている衣類はドラゴンの抜け殻より取り出した鱗を、火竜と水竜のものを均等に粉末状にしたモノを、極楽蝶の幼体の糸に絡めて特殊な製法で創りだした当社の製品です。火と水の属性耐性を持ち、ドラゴン装備の重みを極楽蝶の素材で軽量加護を付けています。この商品はまだ量産は出来ないのですが、実は、近々5竜の衣という最高級品を製造する予定です」
「ほぉ。凄いですね。モートさんのお話は聴いていましたが、ドラゴン装備などは国宝として各国に数点あるだけの存在。それを独自に生産なさっているというのは、改めて本人から聴くと恐ろしくも夢のある途方も無いビジネスですな」
「ドラゴンの素材は膨大な費用を払って超一流の冒険者達に採取させています。ただ、どんなドラゴン素材が手に入るかは時の運。しかも、ドラゴンを討伐することは難しく、戦闘の際に負傷を負わせ、その際にこぼれ落ちた素材を採取するのが精一杯です。安定性に欠けた綱渡りの商売を行っております。冒険者への支払いのほうが超過してしまうことも多く、高級品といっても剥離なのが現状なのですよ」
タダ同然で素材を大量にゲットしているとは口が裂けても言えないな。流通量も常にセーブしているので、価格は小さなモノでも数十億ドランから値段が落ちたことはない。
ボロ儲けだ。
「実は高品質な装備品をラウロスのさる有力者から数点仕入れて欲しいと依頼を受けているのです、予算は潤沢でなのですが、数年前に納品した大変レアな素材をふんだんに使った最高級の装備一式以上の商品が仕入れる事も見つける事も出来ずに困っております。無理は承知でお願いするのですが、ドラゴン装備を卸売していただけないでしょうか?」
相手が買いたいという時は、注意しろと言う、さんざんに振り回されて買わない、当て馬に使われる、罠に嵌められるなど酷い経験も何度かある。
「分かりました。即答は出来かねますが、納期や金額など折り合いが付けば販売することも可能かと思います。」
「期待していますよ」
各国の豪商が3人集まって話すことに興味があったので、その後しばらくその輪に加わって談笑した。
開始時間前にほぼ全てのメンバーが揃ったが、開会はされなかった。
何かいつもの取り決めのようなものがあるのだろう、周囲に動揺などはまったくない。
30分ほどもたったころ、急に会場が静まり返った。
視線が一点に集中する。
会場奥の扉より、初代皇帝ビヨットその横に正室のリオンヌ皇后、後ろから第十一王子アトロック、第二十二王子ゴフトス、第三十一王子ルシュランドが入場してきた。
会場から割れんばかりの拍手の中、会場前の壇上に設けられたそれぞれの席へと着座していく。
推定年齢200歳超のビヨットは体毛は全て白髪ながら、背筋もしっかりしていて、眼光鋭く発するオーラは魔王と言う俗名を付けた人間に気持ちが良く分かる程の威圧感を発している。顔中に刻まれた皺が年齢を感じさせるが、ヨボヨボという印象は全くない、むしろ皺にすら張りがあり今もって子をなす彼の精力が迸っている。
隣に並び立つ正室のリオンヌ皇后は蒼い瞳と黄金の髪を腰まで伸ばし、ビヨットに寄り添うように入場してきた。彼女の長い耳がエルフ族でも高位のハイエルフという事を現している。長寿の種族で美貌の種族ながら、個体数は非常に少なく、この皇帝ビヨットの治世の中、側室が何人もの子を産む中リオンヌは20年前に一度子を産んだだけだ。
その子も産後数ヶ月で死んでしまったとも言われている。
知性を宿した瞳がビヨットの横では安らぎを得ている。
子を無くしたリオンヌを慰めるためビヨットが巨額を投じて贈ったとされる皇后の頭に冠するティアラには中央に虹色に輝く宝石とその周囲にピンクの宝石が散りばめられている。
純白のドレスに身を包み、眩しいばかりの美を会場中に放っていた。
全員が固唾を呑んで見守る中、ゆっくりとビヨットは立ち上がると、周囲を鋭い眼光で見渡した。
これだけの人数が集まる会場がビヨットの息遣いが聞こえる程に静まり返っている。
「皆の者、今日は良く集まってくれた。日頃よりこのドルトニアの繁栄の為に尽力してくれている事、改めて礼を言おう。ありがとう諸君」
鋭い眼光が一気に人懐っこい目尻の下がった好々爺の表情に一変する。
会場の空気が一気に緩む、人たらしのビヨットたる所以はこの緩急にあるのかもしれない。
「今日は新しいメンバーが加入してくれたと聞き及んでいる。地が育ち、作物が育つように、皆の活躍で国が育てば、有望な人も育ってくる。ありがたい事だ。今日この場に集まってくれているメンバーはドルトニアにとって無くてはならない大切な存在であり、知勇に優れた稀有な私の家族だと思っている。そんな家族にまた一人類まれな能力を持った仲間が加わる事を喜ばしく思う。早く顔が見たい」
「それでは、モート商会総帥、モート・デストロイヤーさんからご挨拶をお願いします」
今まで一介の商人モートで通してきたが、さすがに名前だけでは公の場ではマズいということで、強くてマスクマンのような名前にした。
このタイミングで呼ばれる事は、事前の打ち合わせで知っていたが、皇帝の前で挨拶するとか手足が震える。
ガックガックの手足でなんとか壇上に登る。手汗が凄いことになっている。
「ご紹介に預かりました。モート商会のモートです。若輩者ですがドルトニアの更なる発展のために邁進していきます。ご指導御鞭撻の程よろしくお願い致します」
深々とお辞儀をする。会場全体が少しざわつき始めるまで下げ続け、満面の笑みで頭を上げる。これだけ言うのが精一杯だった。会場の圧力以上に、ビヨットからの圧力が尋常ではない。
「若くしてとてつもない商才のある男と聞いた。歴史の浅い国ゆえお主のような力ある若い商人の力によって更なる発展を望む。何か商売の上で困った事があったら、いつでも相談してくれ」
皇帝ビヨットより直々の言葉だ。気軽に相談出来るわけもない。リップサービスだ。
「ありがたきお言葉、本日は加入のご挨拶として僭越ながら皇帝陛下に当社の新商品をお持ちいたしましたのでご笑納いただければ幸いです」
深々とお辞儀をすると、会場脇から、献上用の台に載せられた盾が運び込まれた。
会場からざわつきが起こる。
「当社の工房が非常に希少なドラゴンの素材でも、水竜・火竜・地竜・雷竜・天竜の鱗をそれぞれ使い中央に、伝説と云われている古代竜の鱗を配した6竜の盾でございます。全ての属性耐性だけではなく、魔力を流しこむことにより短時間ながら絶対防御壁を展開する事も可能な品となっております。末永くドルトニアの栄華をお守りする事に微力ながらお使いいただければと思います」
ビヨットは6竜の盾に魅入られたように盾に近づいていく。
軽く叩き、表面を撫でる。
「余興じゃ!グランロッド!前へ出てこい!」
「はっ!」
大きな返事と共に人混みから頭2つ飛び出ていた巨漢の男が前に進み出る。
「宝剣エストバランを出してこい!」
控えの者に命令する。逡巡するそぶりを一瞬したが言葉に従う他ない。
これから行う事を察した者からざわめきが起こり次第に大きくなっていく。
ざわめく会場の中に1.5mはあろう長剣が登場した。
あの長さで羽の様に軽く、鉄をも軽々と切り裂くと云われているドルトニアの国宝だ。
「グランロッド、遠慮はいらん世界に名を轟かせたその豪腕で思いっきりエストバランを叩きつけよ!」
「はっ!」
献上したオレには断りも無い。そういうものなのだろう。
まぁ、いくらでも作れる品でもある。試したければ試せばいいさ。
グランロッドは宝剣を握ると大きく息を吸い込んだ、体中から水蒸気のように汗が蒸発し始め、筋肉が次第に盛り上がっていく、体の大きさが2倍ほどに膨れ上がる頃には、血管が浮き上がり肌も赤くなってきた。そのまま宝剣を振りかぶり一気に6竜の盾に叩き落す。
轟音。
風圧が会場全体に広がる。
打ち込んだ宝剣が弾かれグランロッドの巨体が宙に浮きホール端まで吹っ飛んだ。
その反動の中も宝剣を離さなかった彼の豪腕にその後賞賛が集まった事も付け加えておく。
絶対に敵にしたくない心のリストにグランロッドと書き込んだ。
グランロッドを一瞥すると、ビヨットは6竜の盾に歩み寄る。
「おおおおお!傷一つ付いておらん!国宝じゃ!この盾を国宝とするぞ!」
会場中が突然の国宝認定に沸き立った。




