吊り橋
暗く狭い洞窟の中に入ると、ブツの匂いは逃げ場がない分より強く臭いを感じる。
あれだけいたモンスター達がまったくと言っていいほど見当たらない。
う◯こ無双モード。
向うところ敵無しとは正にこの状態だろう。
30分ほど<暗視>スキルと発動して薄暗い洞窟を進んだが、出会う魔物は無く苦もなく進むことができた。
魔族交流の素養があるはずのオテロクはオレと同じように臭いにも抗力があるはず。きっとオレについて来てくれると思っていたが、ラグたちの説得をしている間に空へと姿を眩ませていた。薄情者め。
ただ一人オレは洞窟の奥へと進む。
洞窟の外では、オレが燻り出したスライムやサキュバス達をラグ達が撃破してくれる手筈になっている。
サキュバスたちの攻撃を防ぐために、洞窟の外には、無数の焚き火による煙幕と、ドワーフのアースが行った土魔法で巨大な穴が出来ていた。
煙幕で視界の不良な状態で落とし穴。
穴の中にはアイラによって水が貯めてあり、そこの魔物が落ちたところをラムラの電撃で撃破していく予定だ。
穴の大きさは今もアースによってどんどんと広げられている。
モンスターの数が勝るか、ラグ一家の魔力が勝るか。
どの道オレには奥へ突き進み、魔物たちを燻り出す、その使命のみ!
糞持って進むだけの簡単なお仕事です。
しばらく進むと奥から「くせぇ」「ふげぇぇ」「ぐほぉぉ」と無数の声が聴こえてきた。どうやら魔物達が苦しむ声のようだ。ゴールは近い。
洞窟の奥、出口が見える。
近づくと、出口の先には橋がかかっており、その先に新たな入り口。
ランドックの言っていた吊り橋がこれだろう。
聴こえる声はすでに騒音と言っていいほどになっている。
出口に近づき、出口からそっと顔だけを出し、周囲を一望するとそこには驚愕の光景が広がっていた。
吊り橋の下には川のようにマナスライムがビッシリと繁殖している、その上を大量のサキュバスたちが歩いている。
これを全部燻り出してラグ一家でどうにかなる量なのか?そもそもこんな一握りのブツで燻り出せるような量ではないように思えるが・・・
どうなるか分からないが、考えられる方法は試してみようと思う、オレはアイテムボックスから、スイカほどの量のブツを取り出し、そこに魔法のスクロールで火の魔法を使った。
ゴフッ!!
「やべぇ!予想以上に燃えが良すぎる!!」
ちょっと湿っていて火が付くかな?なんて思っていたら予想以上に燃え盛るブツに驚愕しながらも、オレは靴の裏でそのブツを蹴り飛ばし、吊り橋の下に転げ落とす。
ゆっくりと弧を描き落ちていく火の玉。
見上げるサキュバスたち。
そのまますっぽりと火の玉は、マナスライムの川の中に落ちていった。
え?
なんか予想した反応と違うな。
何も起きない。
燻り出し失敗か?
顔だけ出した状態で吊り橋の下を凝視するが、様子に変化は見られない。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
顔だす為に、四つん這いの姿勢になっていた、手のひらと膝から微かな振動と、地の底から響くような音が聴こえてきた。
音と共に、マナスライムの川の表面が盛り上がる、そしてその下から無数のマナスライムが煙と共に湧き出てきた。
一直線に崖を這い登り出口であるこちらに迫ってきた、もの凄いスピードだ。
逃げろ!
どこに?
後ろ?
追いつかれる!
前だ!
オレは必死で前に駆け出した。
振り返ると、マナスライムの背に乗ったサキュバス達も崖をはい上がって来ている。
走ることによってグラグラと揺れる吊り橋、普通だったら怖くて走ることなんて出来ないだろう、だが今はそれ以上の恐怖がオレを突き動かしていた。
簡単なお仕事とか思ってたオレ自身に怒りが込み上げてくる。
その怒りすらも前進へのエネルギーに変えて突き進む。
吊り橋の半ばを過ぎたと思ったその時、踏み出す足ががくっと落ち込み前にすっ転ぶ、身体を支えるため両手が掴む吊り橋が、なぜか前方に引っ張られる、離してはダメだ、咄嗟にそう思った両手に力を込めならが振り返ると、先程走ってきた吊り橋が出口に押し寄せる魔物たちの奔流によって断ち切られていた。
ターザン状態。
「あ、あああー」と言ってみたい気持ちはあるが、反対側の崖の斜面が急速に迫ってくる。
手を離すな!手を離すな!手を離すな!手を離すな!
それだけを何度も念じる。
ドガァァァ
「ぐあ、あああー」
撓む吊り橋、内蔵を抉るような衝撃が襲う。
手を離すな!手を離すな!手を離すな!
朦朧とする痛みの中、それだけを念じて必死に両手に力を込める。
全身を襲う痛みと会話するように宥めていく。
獰猛な痛みが少しづつ少しづつ落ち着いてきた、完全に痛みは取り払われないが、釣り橋を登れるぐらいの体力は戻ってきたと信じたい。
下は見るな、後ろは見るな、ただ上だけを見て這い上がれ。
今までこういう事とは無縁に生きてきた代償をまさかこのタイミングで払うことになろうとは思わなかった。
這い上がるオレの手の皮は剥け血が吹き出る。
ヌルヌルと滑る手が這い上がるのを絶望的に難しくしてくれる。
鍛冶で鍛えた手の皮を剥くほどの力が手に加わっている、同じく鍛冶で鍛えた握力と筋力が俺を助けてくれている。鍛冶とクライマーの相性って結構いいのかもしれないな?そんな事を思ったりして、気を紛らわせながら痛みを分散し、崖をよじ登る。
気が遠くなりかけた。
吊り橋を握る手が震え、もう腕が上がらないほど酷使した末に、ようやく崖を登り終えた。
荒い息遣いを整え、自由になった両手を確認する。
ズタボロの両手。
崖の下を確認すると、そこからは凄い量の煙が立ち上っていた。
煙は魔物たちが逃げるために創りだした奔流に惹かれるように反対側の出口へと吸い込まれている。
静寂。
もう引き返せない。
奥に薦めば出口があるのか?
何があるのか?
疑問は次々に湧いてきたが、考えても答えはない。
両手の自由を取り戻したオレは、スクロールを使って治癒魔法で身体を癒し、さらに洞窟の先へ進んだ。




