ラグ一家
家路に着くと、まずこの街からこのまま逃亡してしまおうと考える。
正直、どうなるかも分からない明日からの冒険者生活、魂の契約書、ラグ一家との一週間、変装エルフルークの正体バレ、メルロへの窃盗バレ、その他冒険者への窃盗バレ、今日の1000万ドランで、他の遠い街に行ってやり直すとか全然ありだと思います。
バレる事は無いと思っていても、なんらかの不運が続けば地獄に真っ逆さまな可能性を、ここで辞めてトンズラかませばそこそこ良い生活がおくれる。
そういう考えとは、裏腹に、今まで味わった事の無いドキドキ感。罪悪感と共にえも言われぬ高揚感。スリル溢れる今の現状に脳内の麻薬がドクドクと出ているのが実感できる。こういう気分を味わってしまったら、きっと遠い町に行っても同じ事を繰り返してしまうだろうとも思う。窃盗と麻薬は近いものがあるかもしれない。一度してしまったら、なかなか辞められるものではないだろう。ギャンブル以上の中毒性だ。
町の外への冒険も、窃盗も、自分の想像していたよりも、はるかに壁は低かった。オレが今まで安全策をとりまくって生きてきた事は否定したくないが、<スキル値変更>を活かしきれてなかった事は認めるしかないな。
この世界に来て最初の頃、<スキル値変更>に狂喜して、<鍛冶 70>とか全スキル値投入して、高級素材を数個ダメにしてしまった、トラウマだろうな。
今考えれば、能力値の筋力や器用さが全然足りてなかったからだろうけど、オレは、この世界に<スキル値>や<能力値>以外の存在を感じている。
例えば、<鍛冶 100>筋力 100 器用 100 という完璧な布陣で、今まで作った事も無い、拳銃みたいな高度な技術がいる武器を、高級素材や特殊効果が現れるように作るとか出来るかというと、きっと出来ないだろう、高級素材が無駄になって、オレのトラウマが更に深くなると思う。
料理を、良い素材、良いレシピ、良い道具で作れば100%美味い料理が出来ないような感覚だろうか。
だから、オレは戦闘に関しても非常に怖い。この暗器のようなスタイルですら、かなり危ういものを感じている。
漠然としたイメージだが、<経験値>とか<職人の感>とか<スキル値>や<能力値>では現せないものの存在を感じるんだよね。もちろん、<スキル値>や<能力値>が補正で入っていれば、、<経験値>とか<職人の感>を失敗を踏まなくても確実に感覚を掴んでいけると思うので、凄い成長速度でアップしていけるとは思うけど。
それと、かなり厄介なのが<能力値>で、こっちは上げるのが非常に大変だ。耐久に関しては、自分でダメージを受けまくって、回復してを繰り返さないと上がっていかないだろう。想像するだけで、もう一生上がらなくていいと思えるな。器用さ80以上になかなか上がらない事を考えても、スキル値と同じで、能力値も上に行けば行く程、上がりにくくなるんだろう。
いろいろと、逃げる言い訳、ヘタレな言い訳を考え尽くした結果、オレはココに残ることにした。あの<窃盗>という壁を越えてしまった夜から、もう後戻りは出来ないんだろう、こんなスリリングな日々をおくってしまったら、もうあの平凡な日常には戻れない、いや、戻っても、きっと中毒のように、スリルを求めてしまうんだろう、登山家とかの感覚ってこういう感じなのかもしれない。
そうと決まれば、明日の準備をして寝よう。
鍛冶仕事をひと通りして、寝る。
翌朝。昨夜の鍛冶仕事による新装備を身に纏い、鏡の前で一人ファッションショーだ。
うん。やっぱ、このエルフ格好良いわ!イケメン爆発しろ!オレだけど。
装備 暗器 ナイトサーベルパンサーレイピア 麻痺 +6 攻撃力 26
頭:エルフ族変装セット 防御力 2
上半身 下半身:ナイトサーベルパンサーフードローブ 麻痺 +5 防御10
足:ナイトサーベルパンサーブーツ 麻痺 +4 防御10
腕:ナイトサーベルパンサーアームレット 麻痺 +6 防御10
アクセサリー:イケメンフルフェイス(イケボ変換機能付き) 防御力 3
<必殺技>暗器連続突き3
全身黒でキマってる。きっとモテモテだろう。
はっきりいって、<潜伏>と<隠密>使って敵に近づくのに、俊敏補正とかいらない事に気づきました。九宮袖箭とかカッコイイと思って使ったけど、やっぱ鉄矢が無駄。もったいない。昨日、何度も●当に連続発射を行ったからか、<必殺技>暗器連続突き3ってのを取得したので、これでレイピア●当に何度もぶっ刺せばいいと思います。
フード付けたのは、頭装備は出来ないけど、フワッと布かぶるぐらいなら、出来そうだったので、ローブにつけてみました。
フードに目と牙も付いてて、かぶると普通にパンサーに食われてる人みたいです。
まずは、冒険者ギルドでラグの場所を聞きましょう。
レッツゴー!
冒険者ギルドに行くと、依頼掲示板の前でラグ発見。居場所聞く手間省けたラッキー。幸先いいね。
「こんにちは」
「あ?」
「あ、はじめまして、ルーク・トラビックと申します。モートさんの依頼で監視者として伺いました。」
「てめぇがアイツが差し向けた監視者とやらか」
どうやら、ラグにはあまり良い印象ではないみたいだな。
まぁ、当然っちゃ当然か。ここらで少しでもモート株を上げるが吉か。
一緒にモートを敵対的な印象で話すのが吉か。
まぁ、後者の方がいろいろと都合かいいな。
「私もモートには弱みを握られていますので、断れませんでした」
「なんだ?そうなのか?俺で良かったら相談にのるぞ?」
「いえ、いろいろと事情がありまして、詳しくはお話出来ません」
「そっか、そうだよな」
含みをもたせて会話してたら、勝手にあっちが都合よく捉えてくれた。
「ちなみに、モートは、暗殺と監禁を恐れて、7日後までは、仕入れも兼ねて街を出るとのことでした。ところで、他にもパーティーの方々がいると伺ってましたが?」
「あいつ、本当に臆病なやつだな。商人ってのは、みんなそんなに疑心暗鬼なのか?まぁいい、仲間とは、西門で待ち合わせだ。行くぞ」
「はい」
なんか、ラグってやつは、粗野だけど良い奴なんだろうな。
クラスにいたら絶対に人気者になる感じだ。
時々、後ろを振り返って、オレがついてきてるか確認してくれている。
心配するな。絶対に逃がしゃしないからよ。
西門が見えると、美女軍団がこちらに手を振っている。
って、あれ?2人しかいないけど・・・
「あ、あの」
「あ?」
「確かお仲間は5人いると聞いたのですが?」
「ああ、お前がモートの奴に何処まで聞いてるか知らないが、俺達はアイツに借金があってな、なかなかの額なんで、手分けして様々な依頼をこなす事にしたんだ」
「なるほど。確かにそのほうが効率良さそうですね」
「だろ?とりあえず、紹介しとくわ。こっちがラムラで、こっちがアイラな。」
「はじめまして。ルーク・トラビックと申します」
冒険者風に軽く会釈すると。ラムラが片手を挙げて挨拶を返してくれた。
「おっす!よろしくだっちゃ!」
きたぁぁぁっぁぁ。
「だっちゃ」キャラ。ダークエルフで美人で見た目凄くツンケンしてそうなのに、「だっちゃ」だよ!ギャップ萌えだよ!
神様!ラムラたんをこの世に送り出してくれたことに感謝です!
ラムラたんhshs!
タイガーローブの隙間から、溢れんばかりに主張してきてる、健康的な褐色の谷間が、手を挙げた瞬間「バインバイン」と大きく揺れております。
ああああああああ!
「だっちゃ」で「バインバイン」だよ!
合掌!
「よろしくお願い致します」
アイラが丁寧に深々とお辞儀をしてくれた。
相変わらずでっかい。そして相変わらずのスケスケ衣装だ。
モデルさんのような体型で、このお淑やかさ。
まつ毛なげぇ。なんかお辞儀した瞬間メチャメチャいいニオイしました。
今日は、ちょっと暑いからなのか、ウンディーネ族が暑さに弱いからなのか、青い髪と、蒼い瞳、のアイラの頬が少し赤く染まっていて、青い髪が額に張り付いている。
汗ばむ美女。
轟沈。
アイラたんhshs
「では行くぞ」
さっそくラグが出発する。
5人いなくて良かった。2人でも破壊力抜群だわ。
5人揃ったらオレは一日でhshsし過ぎてしまうだろう。
パーティーの一番後ろを歩くオレに、風が吹く度にアイラたんの爽やかな香りと、ラムラたんの甘い香りが漂ってくる。
風よもっと吹け!
むしろ、嵐になって山小屋イベントはよ!
ビショ濡れの装備を乾かし、肌同士で暖をとるって神イベントはよ!
無いのは分かってる!そして、嵐がきて、山小屋行っても、そういう展開にはならないだろう事も!
だけど、ロマンは持とう!
男はロマン。
湖越えて、森に入って、山越えて、オレはずっと後ろでボーっと傍観してるだけです。ラグ、ラムラ、アイラの連携は完璧で、向かう所敵なしだ。
それにしても、ラグさんカッコイイっす。
タンク役前衛として、魔物の前に臆する事なくアタックして、相手の攻撃も受けながら、ガンガンこっちもアタックする。ガチガチでゴツゴツのステゴロの殴り合いのようだよ。実際には、ラグさんはかなり大きな斧をブンブンとぶん回しています。
ラグがしっかり前衛で敵を止めているので、ラムラも余裕でガンガンとサンダーアローやらサンダーボールやら、攻撃魔法飛ばしまくってるし、ラグの表情や動きから、ちょっとダメージ蓄積されてきたかなってタイミングで、すかさずアイラの回復魔法が飛んでいく。
完璧ですね。かっこ良すぎます。
なんだろうね。このヒーロー感。自分を一番危険な場所に追い込みながら、仲間を信頼して全力で戦うって姿。普通に憧れる男の姿だわ。少年漫画の主人公だよ。
休憩の時に、
「なんだかんだいって、こうやってみんなと冒険出来てるのも、モートのお陰なんだよな、魂の契約書なんて、かなり危険なモノ持ち出してきたし、ガルローズの兄貴まで巻き込みやがったのは許せねぇけど、まぁ、商人としちゃあれが普通なのかもしれねぇな。冒険者の俺には分からねぇけどな」
「大丈夫だっちゃ、ウチらが全力で稼げは返せない金額じゃないっちゃ」
「そうですよ、ラグ。来週からは、またいつもの日常が待っていますよ」
「監視者である私も立場的にまずいのですが、気持ちは応援させてください」
オレも心にも無い事を言っておく。
今日一日で、オレの心には妬み嫉みしか生まれなかった。
もう監視者とか置かなくても、こいつは絶対に、モートを暗殺や監禁などしないし、魂の契約書なんて作らなくても借金を踏み倒したりはしないだろう。まっすぐて良い奴だというのも行動を共にして良く分かった。だからこそ、自分のゲスさ加減が浮かび上がって憎らしくもなる。
時折みせる笑顔が、イケメンでもないのにドキッとさせる。見た目の爽やかさじゃない、心の爽やかさだろうな。細かいことに拘らない。悩まない。疑わない。口は悪く粗野だが、中身とのギャップが女性を惹きつけるんだろう。
オレの中のストッパーが今日一日でいくつか外された。
ありがとうラグ。全力を尽くせそうだ。
一日の冒険が終わり、夕食に誘われたが、丁重にお断りした。
ラグ一家と夕食を一緒にするとか、味も分からなければ、オレの劣等感を刺激するイベントが満載だろう。生き地獄だ。
山を越えた所で、ラグ一行と別れを告げると、オレはちょっと気になることがあったので、洞窟へと向かった。




