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忍び寄る音


私の名前は 長寿郎 40代半ば

誕生日などの記念日には疎い性格だ。歳を重ねるにつれて年齢など些細なことは気にしなくなった、だから細かい年齢まで把握できていない。


 そんな私にも好きなことはある。毎日仕事に行くことと食事だ。仕事は街の治安を守る職業に就いている。私の住む街が特段と治安が悪いわけではないが、不審人物などは時折出会う。事件を未然に防ぐために日々パトロールを繰り返しているのだ。

 帰宅してからは食事だ。鶏肉が特に好きだ。最近は同じ食事ばかり強請る私に少し嫌気がさしてるのだろうか?私の好みと違う物を出される。そんな時は決まって寝室に行き眠りにつく。まぁ、不貞寝ってやつだ。年甲斐もないと言われても食事内容については譲れない。私の人生の二大柱なのだから。


 私は今日の仕事を終えて昼前には帰宅してきた。食事を終えて今はリビングで寛いでいる。リビングの窓からは閑静な住宅街が見える。私の家は一軒家が立ち並ぶ住宅街の一画にある。ごく普通の二階建て一軒家だ。

 仕事を終え、食事を済ませた今、大きく船を漕いでしまっていた。耐え難い眠気に襲われ始めた私はリビングを出て、階段を登り二階へ向かう。階段の中程に足を掛けた時、背後で玄関の開く音がした。


「カチャカチャ、ガチャン!」


 鍵が掛かっているはずの玄関を開け、誰かが私の家に入って来たのだ。私の位置からは玄関を目視することはできない。こんな時間に帰ってくる住人はこの家には住んでいない。この家には私、そしてパートナーの二人暮らしだ。パートナーの帰宅時間はまだまだだ。私は息を押し殺して玄関の音に集中する。


「コツコツコツ。トサッ!」

「コッコッコッ。トサッ!」


二人分の足音と荷物を置くような音が聞こえた。玄関から不審者が侵入してきたのだ。私は全身の毛が逆立つような寒気に襲われた。


「タッタッタッタ」


不審者の二人の足音がリビングに向かうのが聞こえた。普段パトロールなどしていても怖いものは怖いのだ。落ち着ける安全な我が家に不審者だ。私は足音を立てないようゆっくりと階段を登り切り寝室へ向かう。音を立てないようゆっくりと、ゆっくりとだ。そして寝室のドアに手を掛けゆっくりとドアを開けた時、ドアの内側に寄りかかっていたのだろう、クイックルワイパーが勢いよく倒れて来た。咄嗟のことに私は避けてしまい大きな音が家の中に響いた。

 当然我が家に入り込んだ不審者にも聞こえてしまった。リビングの方から階段を覗き込み二階を見ているのだろう、話し声が聞こえる。


「二階で何か倒れる音がしなかった?」

「この時間にはリビングで寝てると思って楽勝だと思ったけど二階に居るみたい。ついて来て。」

「分かった」


 本当にまずい!平日の昼間、閑静な住宅街の一軒に侵入してくるような不審者だ。当然下調べはしていたのだろう。住人である私の行動パターンまで熟知した上で来ているのだ。二対一だ、多少の抵抗は出来るが無事では済まないだろう。私は急いで寝室の中を見渡す。どこか隠れる場所はないか!?ベットの下?真っ先に覗かれるだろう。クローゼットの中?クローゼットも確実にチェックしにくるはずだ。どうしたらいい?


「ダッダッダッダ!!」


 不審者は足音を響かせ階段を登っている。二階に私がいること。そして一人であることがバレてるのだろう。足音を隠しもせず駆け上がっている。私は急いでクローゼットの中に隠れた。ロングコートで体を隠し、一番奥に隠れた。


「そこの部屋、扉が開いてる。ここだね」

「取り押さえるからその隙にやっちゃって?」

「分かった。任せて」


 心臓が早鐘を打つ。部屋までバレてる。ここは寝室だ。クローゼットとベットしかないような部屋だ。取り押さえる不審者に抵抗しようがもう一人いる。連携まで打ち合わせてるのだ。見つかれば終わりだ。私は強く目を閉じて願う。頼む!パートナーよ早く帰って来てくれ!願ったところですぐには帰宅しないだろうが私には願うことしかできなかった。強く願ってるうちに寝室に入って来た。足音がすぐ近くでする。


「…誰もいない?」

「ベットの中か下は?」


私が危険だと思ったベットは真っ先に探された。布団を捲る音。しゃがみ込み覗き込む音。

 あぁ、この次はクローゼットをチェックされる。頼む。このまま帰ってくれ。


「いないみたい。後はクローゼットの中?」

「逃げられないように扉閉めとくよ」

パタン!


 侵入者と揉み合い部屋から飛び出して逃げることも出来なくなってしまった。

 クローゼットを近付いてくる足音がどんどんと大きくなる。


 手前の服を掻き分けてクローゼットを覗き込む不審者の手が見える。頼む頼む!見つけるな!帰ってくれ!心臓の音でバレるのではないだろうか、全速力で走っているような心臓の音が私の体から鳴っている。


「…ここにもいない?」

「おかしいな。この部屋の扉が開いてたんだけど別の部屋かな?」

「二階には二部屋とトイレしかないから隣を見てみよう」


 …ッハーッハー!バレなかった!だが安心できない。二人組が隣の部屋を物色している音が聞こえる。一旦やり過ごすことはできたが私はどうしたらいいのだ?一階へ不審者が移動したとしてもバレずに玄関から外に逃げ出すことはできるだろうか?


 隣の部屋を一通り確認し終えたのだろう、何やら話し声が聞こえた後一階へ降りる足音が聞こえる。

 私は物音を立てないようゆっくりとロングコートを押し除けクローゼットを出る。そして荒らされたベットを横目に扉へ向かった。廊下からは足音が聞こえない。やはり一階に戻ったのだろう。寝室の扉を抜けゆっくりと階段に向かう。階段から顔だけを出して一階の方へ視線を向ける。

 一階からは侵入者がリビングで何かをしている音が聞こえた。微かに聞こえる音から情報を読み取ろうと集中する。


 あまりに集中しすぎたのだろう、背後で水音がしトイレの扉が開く音に私は一瞬反応が遅れてしまった。侵入者の一人がトイレに行っていたのだ。予想外のことに私の体は硬直する。


ガチャ


「あっ!見つけた!」



 体が硬直し動けない。私は侵入者に捕えられた。




















「カナーーー!!!長寿郎捕まえたよー!猫吸いしていいよーーー!」


 常日頃から私を抱き上げ、私のテリトリーを荒らす不審者に私は捕えられた。彼女の友人だろう。カナと呼ばれた人物には腹に顔を埋められ深呼吸をされている。私の匂いを嗅ぎまくるこいつも今後は不審者と覚えておこう。この家で認めてるのは母君だけだ。母君は私の食の好みはもちろん、掻いて欲しいところも把握してくれている。この家は私の家だ。母君はパートナーとして認めているがそれ以外は皆んな不審者だ。誰がなんと言おうとこの家は私の家だ。


「長寿郎ー!いいにおーい!聞いて長寿郎!今日は高校最後の試合だったんだけど負けちゃったー。部活も終わったし今後は受験生だから勉強しにまた来るね!待っててね!」


 来なくていい。せめてチキン味のチュールを持って来い。

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