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どうも、バッドエンド確定の聖なる乙女一行です!  作者: 諏訪ぺこ


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1/3

プロローグ


 トラット王国歴138年――――



 城の中は静まりかえっていた。それもそうだろう。

 つい先頃までこの国は疫病に冒され、国中が疲弊していた。この城の中で働いてる人たちは、疫病から逃れられた人々なのだ。


 もう少し早く来ていたら、そう思うこともある。


 私たちがトラット王国にたどり着いた時には、平民の三分の一が死亡し、残り三分の二が病に冒されているところだった。貴族はまだマシで、四分の一程度が死んだくらいだろうか? それでも全体の数を見れば死者は多いだろう。


 旅をしながら見て回った土地は、痩せ細り野ざらしになった死体を魔物が喰らっている。「この世の終わりがあるなら、こんなところなんだろうね」と呟いた幼馴染みに小さく相槌をうつしかできなかった。それぐらい酷い光景が広がっている。


 前兆はあったはず。だがそれを為政者が見逃したのだ。

 私は幼馴染の発した言葉とは違う意味で、これから大変なことになるだろうな……そう感じていた。


 こうなった国は長くは持たない。もちろん、上手く復興する国もあるだろう。私の名を国の名前にするといった彼のように、上手く采配できるのであれば可能だったかもしれないが。


 この国の王は保身に走っている。


「やっぱり、昨日のうちに逃げておくべきだったわね……」


 私は案内人の背を見ながら吐息した。


 本来ならもっと早くにこの国を出るべきだった。王の招きに応じて、城に入るべきではなかった。もっというなら、人知れず治して去るべきだったのだ。

 この国の広さなら、私の力で覆うことができただろう。それをあのお人好しがっ……! 心の中で悪態をつく。


 愛しくて、とても大事な人。それでいてとても憎たらしい人。

 彼のお願いを跳ね除けられなかったのは私。善性の強い彼は、いつだって揉め事に首を突っ込む。無事に解決しても評価されないのに。


 あのお人好しのせいで、私たちは『聖なる乙女一行』なんて言われて旅をしているのだ。ただの逃避行だったのに。私を意に沿わぬ結婚から連れ出しただけなのに。


 でも彼が、正当な評価もされない旅を続けているのは私を守るため。

 私が名を上げれば、家門も私を連れ戻しにくくなる。癒やしの力は貴重だから。一つ所に留まれば、戦争の火種になりかねない。


 そしてそれは正しかった。一つ所に留まる時間が長ければ長いほど、弊害が出る。


「陛下、王妃様がお目通りを願い出ております」


 案内人が腹の立つ呼び名で私を呼ぶ。王妃になった覚えなんてないのに、案内人は恭しい仕草で私を部屋の中へ誘った。


「……お目通り感謝します、王よ」

「そなたはこの国の王妃になったのだ。なにも畏まることはない」

「私は、王の妻になった覚えはありません」

「これはこの国の民が望んだことなのだぞ?」

「そうですか。私が今まで助けた国の人々は、私の意思を尊重してくれておりました。王族も、貴族も、そして民草も」

「ほう?」

「つい先頃助けた国もそうです。この国からほど近い、今は――――ファティシア、と名乗っておりますが」

「それはずいぶんと惜しいことをしたな。その国は」


 ファティシアの王は、この男と比べるべくもない賢王となるだろう。

 私に求婚したまでは同じだが、思い人がいると知るやすぐに謝ってきた。思い合っている者を引き裂くつもりはないのだと。旅路の平和すら願ってくれた。


 繰り返すがこの王は自分の保身だけ。元々、王家への求心力が下がっていたところに病が広がった。王として打てる手も打たず、周りに丸投げにしていたと聞く。

 つまり私が王妃になろうがなるまいが、詰んでるのだ。凡庸なりに努力をすれば、どうにかなったかもしれないのに。王であることに胡座をかいた。


 私は小さく息を吸う。


「お願いです。私をみんなの元へ返して! 私はあなたの妃になんてなれません!!」

「はて、みんなとは誰かな?」

「何を言っているのです! 私の仲間たちです。それに私には愛する者がいます!」


 お前の妻になんてなるものか、お前の勝手になど! その意味も込めて王を睨めば、彼は私を嘲笑った。まるで聞き分けのない子供を見るかのように。


 そして私の腕を掴むと、歩きだす。


 力加減なんて一切していない。引きずるかのようなその行動に、ゾワリと背筋が寒くなる。

 なに? 何が起ころうとしているの?? 


 ズンズンと気遣いなく歩くその後ろを憎々しげに睨む。

 そして大きな広間にたどり着いた。ここは一度来たことがある。この王から礼を言われた場所。


 広間には、多くの民衆が詰めかけていた。怖いぐらいの熱気。


「見てみるがいい」

「え……?」


 王の指さす先、その先にいたのは沢山の民衆。だが彼らの足下に真っ赤な、真っ赤な肉の塊。そう。肉の塊にしか見えなかった。


 ただそこにうち捨てられていた、服や武器、そして髪の色。それらが唯一、その肉の塊が人であったと指し示している。


「あ、ああっ…… いやあああああああっっっ!!!!」


 どうして、なんで!? アルフも、エリスも、ノーデルもその姿すらわからない。

 オル、オリバー……私の愛する人。


「なんていうことを……!! 彼らは貴方たちを助けてくれたでしょう? どうしてこんなことができるのです!!」

「何を言っている? あ奴らが()()なったのは、そなたのせいよ。そなたがこの国から逃げようとするから、そして逃がそうとしたから殺すしかなかったのだ。全てはそなたのせいよ」

「痴れ言を……!」


 私はその場に崩れ落ちた。もういない。愛する人はいないのだ。

 俯き、体を折る。自然と私の手は自らの腹に触れていた。


 無理だ。守れない。私の力だけでは守り通すことはできない。

 なぜなら私の力は守りの力だから。人を癒やし、浄化することはできても攻撃することはできないのだ。


 沢山の民衆がいる中、私がここから逃げ出すことは不可能。


 この子がバレたら、どんな目に遭うかわからない。

 味方は誰もいないのだ。ただの一人も。


 嘲笑う王は、さらに民衆に指示を出した。

 もっと辱めよと。


「……弱い、お母さんでごめんね」


 ぽつりと呟くと、私は立ち上がる。そして王に体当たりし剣を奪った。剣を持つのは子供の頃以来だ。子供の頃は、オルと一緒に……


 ああやはり、宵闇に紛れて逃げるべきだった。話せばわかり合える、なんて……そんな夢みたいなことを言うからよ。


 本当に馬鹿な人。

 そんな人を愛した私も、同じかもしれない。


「ねえ、オリバー。私の愛しい人。こんなときでもあなたの愛した世界を呪う言葉を残せない私は、馬鹿な女だわ」


 私は私の首に剣を押し当てた。









 これは―――― 私たちが死に至る物語。






モブ姉王女の外伝。聖なる乙女一行の物語スタートです!

日付が変わったらモブ姉王女コミックス5巻発売です!!

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