おかげ様で幸せです
チャコ姉、私に話をしながら、自分の考えに折り合いをつけているわね……
彼女なりに、祖父母の残した道場を必死に守っていたつもりだったんだわ。
「うん、だからそれを見ていた叔父さんは、敢えて何も言わなかったんじゃないかな?」
——叔父さんは、見守っていてくれたのね
「経営するって簡単じゃないのよ?会計や経理もやらなきゃならないし。叔父さんにチャコ姉が給料払ってたの?」
きっとそこまでは頭が回ってないだろうから、給料は払ってないのだろうな……
『生徒に教えていただけだったわ。私の方がお給料を貰ってた。叔父さんの奥さんが会計士だったし、全部丸投げしていたわ』
——やっぱりね?そうだと思ったわ。
『やだ……私ったら、やってる気になっていただけじゃない』
んー、今知ったのか……
もしチャコ姉があちらに戻ったとして、彼女ひとりで大丈夫なのかしら?
「チャコ姉と私は、本来なら一つ違いよね? チャコ姉は今21歳かな?」
あんまり当時は思い出したくないけど……
「少なくとも、私は19歳で家を出たの。チャコ姉の世界の私はまだ20歳よ」
その頃の私は……殺伐としていたわね。
「私が20〜21歳の時は、何度も種が私の元へ金の無心に来たわ。その度に居留守を使ったのを覚えてる」
私はついうっかり、自虐的な笑みを浮かべてしまった。
「職場に現れた時、職場でもいいように利用されていていたから……嫌になって男に逃げたんだ。ま、結果男にも騙されたけどね?」
——あの頃は、落ちるところまで落ちたわ。
「チャコ姉が心配しているように、不動産を売り払っていたなら、あの男、私の所なんか来なかったんじゃないかな?」
そうなら、どんなに良かったか……
『ティト、私が今戻ったら、あちらの世界の貴方に会えるわよね?』
は?この娘、何言ってるの?
私は、嫌悪感からゾワッと鳥肌が立った。
「チャコ姉、気持ちはありがたいけど、会いに行くのはやめておいて?私は26歳まで生きて、最後は比較的平穏だったわ」
あの頃は、想像すら出来なかった……
「今は幸せだから、チャコ姉を好きになれるし、話を聞いても相談に乗れるわ。こちらで出会えて良かったと思ってる」
チャコ姉には、本当に出会えて良かったわ。
——でもね?
「でもね、20歳の私は、チャコ姉が同情するくらいには悲惨だったの」
必死に足掻いていたのよ……
「当時の私からすると、幸せに育って見える異母姉をどう思うかしら?」
——少し意地悪だったかもしれない。
「少しだけ考えてみてくれる?もしも逆なら会いたいと思う?」
でも、それが現実だわ。
私の過去に同情はいらないの。
笑われた方がマシよ。
——バカにしないで
「間違えないでね?謝ったりもしないで。私にとっては過ぎた事なの」
私が必死に生きてきた人生だわ。
「もし、この先私の記憶が変わったりしたら、私はチャコ姉の事を恨むかもしれない」
——後になって勝手な事はされたくない。
「あの頃の自分を、私はあなたには見られたくない。何で前にお墓の話をしたか分かる?」
本当は、こんな事は口にしたくなかった。
「チャコ姉は、私の気持ちに気付いてなかったから誤魔化せると思ったんだよ」
でも、伝えなければチャコ姉は気付けない。
「それを聞いても、まだ前世の私に、チャコ姉を知らない私に、会いたいと言える?」
あの頃の私なら、チャコ姉を不快に思って、深く傷つけるわ……
『……ティト、色々教えてくれてありがとう。私、正直帰る意味が分からなくなったわ。こちらの世界に残る事も、真剣に考えるよ』
チャコ姉……さすがに落ち込んでるわね。
——全く……仕方がないわね。
『あちらでは、ティトには絶対会わないけど、こっちのティトにはまた会いたいわ……その時は会ってくれる?』
彼女の事、嫌いになれないのよね……
「本当にこっちに残るなら、またそのうちゆっくり話をしよう?」
話ができるのは……私も嬉しいもの。
「チャコ姉と話したい事はたくさんあるよ?前世の愚痴も聞いてよね?あと、その時は頑張ったって褒めてね」
叶うなら、いつでも会える、だからこの世界にいてほしいわ。
『こんな恥ずかしい私を、まだ姉と呼んでくれるの?そもそも数ヶ月しか違わないし、実際の魂の年齢だと、ティトの方が年上じゃない』
それは……そうなのよね。
でも……
「嫌よ? 私は姉に憧れていたんだから」
私はずっと、姉がいると知っていた。
「学生の頃、父親に『お前には姉がいる。姉は母を亡くし口煩い祖父母といる。お前には両親がいるから幸せだと思え』と、言われたわ」
本当、あの頃に会わなくて良かったわ。
「姉は大変で頑張ってるんだ、私も頑張らなきゃって考えてた。実際は違ったけど……」
きっと、会ったら惨めになったし、甘えた考えのチャコ姉を嫌いになったと思うわ。
『私の考えってかなり甘いわね。自分ではしっかりしているつもりだったけど』
それは……そうね?
『ティトの話を聞くと、ハリボテ過ぎるし、私の傷なんてちっぽけ過ぎて情けないわ』
——経験値の問題だし、仕方がないわ。
「そればかりは仕方がないんじゃない?子供に、生まれてくる環境は選べないわ。たまたま私に運がなかっただけよ」
もう、私には終わった事なのよ。
「だから気にしないで。悩みだって比べるものじゃないし、人それぞれでしょう?」
今世はかなり運がいいから、それでいいわ。
『ティト、大人だね』
チャコ姉、感心してるけど、自分の事くらいはしっかりしなさいな。
「まあ、26歳まで生きたし?色々経験はしたわ。だから人よりもちょっと大人かも」
——おかげで上手く立ち回れるわ。
「でも、まともな育ち方しなかったから、今生き直せて本当に良かったんだよ」
苦労を知った分、毎日が幸せよ?
ふと、視線を感じたので横を見た。
「あ、ごめん、もう少し話をしたいけど、そろそろ連れが痺れを切らしてるから、通話切るね?」
さっきから、両サイドの2人が、一言も話さずに、ずっとこちらを見ている。
——うわぁ……これ、面倒くさいわ
『ティト、本当にありがとう。ティトと話すとなんだかスッキリするわ』
ま、役に立てたなら良かったかしら?
『助かりました。してもらってばかりだから、いつかお礼させてね?』
私がチャコ姉に頼ることは……あるかしら?
「おおげさだよ?私が大変になったらチャコ姉も助けてね?じゃあまたね」
通信を切ると、アズ兄様とヘルグ兄様が突き刺さるようや目でこちらを見ていた。




