変わらぬ関係
シュト兄様がヘルグ兄様を呼びつけた意味が、私には全くわからなかった。
(多分、俺を呼んで二人の邪魔をさせようとしてるんだと思う。個人として、シュヴェルト様に言われると……家格的に断れないからね)
どうやら、自分では動けないから、邪魔させるために、ヘルグ兄様を呼びつけたみたいだ。
(邪魔ねえ……? アズ兄様、ヘルグ兄様が一緒にいると邪魔?)
(いや? いつも通りだし、ヘルグと三人でいるのは楽しいよ?)
(おい、アズールもティトも婚約するんだろ? それでいいのかよ……)
(アズ兄様、何か問題ある?)
(いや? ティトと婚約できるならそれでいい。ヘルグここに来るなら、一緒にシュヴェルト様に何か仕返しでもしないか?)
(……分かった。もうすぐ着くから、一旦念話切るよ)
ヘルグ兄様が念話を抜けるとすぐ、
(お嬢様! 大変です!)
今度はソフィアから念話が来た。
アズ兄様に目配せをし、アズ兄様にもソフィアとの念話をつなぐ。
(ソフィア、どうしたの?)
(シュヴェルト様が、今から来客があると部屋から出てこられ、今ロビーに向かいました! 何か、仕掛けてくるかもしれません!)
(ソフィア、大丈夫よ。お兄様、邪魔させるためにヘルグ兄様を呼んだみたい。そうね、温室にご案内してくれるかしら?)
(……何か、お嬢様にはお考えがあるようですね。かしこまりました)
(温室は状態保存の魔法がかかっているから、何がされてやり返すのに多少暴れても、すぐに元に戻るから心配しないで)
(……お嬢様、ほどほどでお願いいたします)
念話を切って、アズ兄様を見ると——
「状態保存がかかっているなら、いろいろできるな?」
と言って悪い顔をしている。
シュト兄様、陥れようとした相手が悪かったようですわ……。
アズ兄様と温室のベンチで、仕返しの相談しながらヘルグ兄様を待っていたら
「ティト、こんな時なのに、お客様がお見えになったよ」
シュト兄様が、あたかもヘルグ兄様が勝手に来たかのように連れてきた。
ヘルグ兄様は、困った顔をしてみせている。
「ヘルグラウ、随分と遅かったじゃないか」
アズ兄様が席を立ち、そう言って見せると、シュト兄様は、
「な? ヘルグラウ? どういうことだ?」
と、ヘルグ兄様に詰め寄っている。
「ああ、シュヴェルト様、彼をを責めないでやってください。彼には、ここへ来ることは誰にも言うなと命令したんですよ」
アズ兄様は出まかせを言いつつ、自分の立場を最大限に利用した。
あくまでもヘルグ兄様は、もともとここに来る予定だったのだと言いくるめた。
「シュト兄様、今日は具合が悪くてお仕事をお休みをされたのではないの? こんなところにいて大丈夫なのですか?」
私は、シュト兄様の反論を遮るために、あえて心配する優しい妹のような発言をした。
「ああ、ティト、心配してくれたのかい? おかげさまで、すっかりよくなったよ。せっかくだし、私もお邪魔してもいいかな?」
シュト兄様は、邪魔する気満々だ。
「嫌ですわ。何が楽しくて、婚約者とお友達と一緒の時間に、お兄様の相手をしなければいけませんの?」
私は全力で拒否をした。
そして、お兄様の狙いを知るために、能力をオンにした。
「ティト、そんなさみしいことを言わないでおくれ。アズール君だったかな? 君が妹にふさわしいかどうか、僕に試させてくれないか?」
(婚約は止めることはできないけど、ティトの前で恥をかかせることぐらいならできるかな)
もちろんアズ兄様にもヘルグ兄様にも、シュト兄様の考えは筒抜けだ。
(いったい俺に何をするつもりだろう?)
(事によっては、俺が動いてもいいか?)
(アズ兄様、兄が申し訳ありません。ヘルグ兄様、シュト兄様はどうなっても自業自得ですから、アズ兄様を守ってください)
「……わかりました。試すとは、何をするおつもりですか?」
アズ兄様の了承を聞いた、シュト兄様はニヤリと笑い
「まずは手始めに、ティトのことをどのくらい知っているか答えてもらおうか……そうだな、まず、ティトの好きな花は?」
(だんだん難しくして困らせ、弱ったころにお前の悪事をばらしてやろう)
思ったよりも、幼稚だったわ……
(私のことなら……答えは教えますね)
(ああ、頼むよ)
(なあ、アズールの悪事ってなんだ?)
(なんだろう? 身に覚えがないな)
(どうせ、すぐ教えてくれますよ)
(……それもそうだな。今は質問に答えるよ)
「ティトの好きな花は、ライラックだ」
アズ兄様は、私に聞くまでもないと、あっさり答えを言った。
「ふむ、さすがに簡単すぎましたか。では、少し難しくしましょうか? では、ティトの愛用している香油は、何からできている?」
——シュト兄様バカね。
それはアズ兄様には簡単すぎます……。
案の定、あっさり答えられたお兄様は、
「おい! なんでそれを知っているんだ! あれは侍女がティトのために特別に作ったものだ!」
シュト兄様は、悔しくていきり立っている。
「なんでと言われてましても……ティトから同じ香りのサシェをいただきましたので」
アズ兄様が、自分の胸元をポンとたたいた。
——今日も持参していたのね
アズ兄様曰く、“安心の香り”らしい。
「なに? ティトに貰ったのか? ティト! お兄様があれだけ言ってもくれなかったのに、なんでこいつに……ソフィア! どうなっている!」
シュト兄様の怒りが、香りの制作者のソフィアに向かった。
「お兄様、いい加減にしてください!!ソフィアは私の専属です。私の言うことしか聞きませんから、絶対に差し上げることはありませんわ」
同じ材料で作っても、なぜかソフィアの作ったものとは同じにはならないのよね。
香りの質も広がり方も、まったく違うの。
だから、シュト兄様は、余計に執着をしてくるから鬱陶しい。
「ティト、どうしてそんなに悲しいことを言うんだい? 前はそんなことなかったのに……」
悲しそうなシュト兄様をみていたら、ちょっと良心が痛むけど……
(ここで悲しんで見せたら、優しいティトなら気まずくなって、もしかしたら香りを分けてくれるかもしれない!)
シュト兄様の心の声を聞いて目が覚めた。
——相手にするだけ無駄だわ。
そして、シュト兄様の心の声を聞くだけでも面倒なので、能力も切った。
「お兄様、そろそろ本気で怒りますよ? もう一度言います。邪魔なので部屋に戻ってください」
もういい、シュト兄様は強制排除だ。
「さもなくば、今後、お兄様とは一切、口を利かなくなるどころか、目も合わせなくなりますが……よろしいでしょうか?」
私の本気を感じ取ったお兄様は、あきらめたのか、うなだれたまま自室に戻っていった。
「なんか……大変そうだな?」
ヘルグ兄様が、ぽつりとつぶやいた。
「そうだな……ヘルグラウは、あの勢いで邪魔されていたんだな?」
アズ兄様も、シュト兄様がいなくなったら気が抜けたのか呆けている。
「無駄に能力が高いので厄介なんです。本当なら今日は仕事だったのよ? 」
——能力『シスコン』なんて、呪いだわ。
「誰も教えてないのに察知して仕事を休むし、厄介にもほどがあるわよ。アズ兄様、これから頑張ってね?」
私の言葉に、アズ兄様とヘルグ兄様が固まる
「ティト、俺を助けてね?」
「ティト、助けてやって?」
二人揃って同じことを言い、それがおかしくて吹き出し、婚約のためのお茶会だったのに、結局三人で、ケラケラと笑って過ごした。
婚約は、私たちが温室で遊んでいる間に取り決められていた。
グランディエラ家が帰宅する時間に、三人で玄関に向かったら、
「おや、いつのまにか、ヘルグラウ君も一緒だったのか?」
お父様たちは、なぜか一緒にいるヘルグラウを見て目を丸くしている。
それはそうだろう。婚約の話をする日に、部外者がいるなんてありえない。
「お父様、シュヴェルトお兄様のせいですわ」
私が一言そういえば、
「そうか……ヘルグラウ君、申し訳なかった。
来なさい。君は私が送っていこう」
そういって、お父様は馬車の準備をさせた。
「それじゃあ、ヘルグ、ティトまたあしたね」
アズ兄様、婚約が纏まったから、すごく満足そうだわ……
「なあ、やっぱり婚約したなら、登下校には、俺はいない方がいいんじゃないか?」
ヘルグ兄様、今更気を遣っているの?
「そうか?いままでと一緒で別にいいだろ?」
アズ兄様は、変わる気がないし、
「そうよ。ヘルグ兄様も一緒に行くわよ!」
勿論、私も変わる気は更々ない。私とアズ兄様を見たヘルグ兄様は、
「本当にお前らは変わらないんだな」
と言って、私達に屈託のない笑顔を向けて、私のお父様に呼ばれたからと、手を振りながら馬車のもとへ走っていった。
「じゃあね」
アズ兄様はそんなヘルグ兄様を見て、フッと笑い、私には手を振って帰っていった。
婚約したって、私たちはこのままでいい。
三人の関係は、変わらなくていい。
だって、一緒なら毎日が楽しいんですもの。




