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私の能力は『以心伝心』全部丸聞こえですわ。【第1章100話完結済】  作者: 黒砂 無糖
初めての学園生活

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旧知の仲だった?


 ジャスミンの甘い香りが漂う庭のガゼボで、両家顔合わせのお茶会が始まった。


 そのように表現すると堅苦しく感じるけど、実際は、かなり和気あいあいとしていた。


「パーティー以外で4人で揃うのは、どれぐらいぶりかしら?」


 お母様は少女のようにはしゃぎ、お父様はそれを嬉しそうに見ていた。


「そうね? 出産後は色々重なって、立場的にもお互いの家に行けなかったわ。でも息子が、いつの間にかお邪魔していたみたいだけど……」


 アズ兄様のお母様は、いたずらっ子のように目を細め笑っている。


「本当に驚いたわよ。下の双子の乳離れしたから、やっと子連れで会えると思っていたのに、事情が変わってしまって……」


 お母様はそう言って、物言いたげにチラッとアズ兄様を見た。


「それなのに、いつの間にか二人とも仲良くなってるんですもの」


 お母様の視線に、アズ兄様はちょっとだけ眉毛を下げて


「その件は母から伺いました。私の我儘で申し訳ありません。当時はかなり女性に嫌悪感があり、警戒心が強くなっていたので……」


 アズ兄様は、苦笑いしてお母様を見た。


「仕方がなかったとはいえ、こうも仲良くなるなら、もっと早くに合わせればよかったな」


 グランディエラ公も、通常であればなかなか見ることができないような、穏やかな笑顔をこちらに向けている。


「……いや、ティトにはまだ早いと思ったし、ほら、少し前まではフェルトシュパート卿のご子息を相手にと考えていたと言っただろう?」


 お父様は、グランディエラ公を恨みがましそうに見ている。


「なんだ? まさかここまできて反対か? うちの息子になにか問題でも?」


 グランディエラ公は、にやにやしながらお父様を煽っている。


「ぐぬ……何も問題がないどころか、良すぎて腹が立つんだ! こんなに優秀で、見た目も良くて。くそっ! ろくな文句すら言えんのだぞ?」


 お父様はワナワナしながら叫ぶ。


 それを見てお母様は、


「お気に入りのヘルグラウ君に振られて、少しだけ嫁ぎ先を心配していたら、娘がアズール君と仲良くなっていたから、不満なのよね?」


 と、追撃している。


「ラヴェル、余計なことを言わんでくれ。そんなことより、アズール君、君は本当にこんなに早くティトと婚約してもいいのかい?」


 お父様はキッとアズ兄様を見た。


 お父様……お兄様がああなったのは、お父様のせいかもしれませんわ?



 ——なんて言うか、愛が重いです。



「シュピネル様、先日お伝えした通り、私は彼女以外と一緒になる気はないし、なれるとも思いません。どうか婚約を認めてください」


 アズ兄様が、お父様に頭を下げた。



 ——この婚約は、家同士の契約のはずよ?



 それなのに、アズ兄様は心を向けた婚約者として、私を迎えるために頭を下げてくれた。


 心を向けてくれるというのなら、こちらも返すのが礼儀というものだわ。



「お父様私も婚約するなら、アズール様が一番いいと思います。だからお願いします」


 私も頭を下げた方がいいかしら?


 そんなことを考え、お父様を見つめていたら



「……」



 お父様は、黙ってはらはらと涙を流し始めた



 お母様が、笑いながらお父様の涙を拭いてあげていたら、お父様は感極まったのか、お母様にガバッと抱き着き、おいおいと泣き始めた。


「あらあら、旦那様、まだ嫁に行くわけでもないのに……」


 困った人ね?と言いつつ、お母様は、おかしそうに笑っていた。


「ははは、ヴァインロートは相変わらず涙もろいな。二人とも知らぬ仲でもあるまい。我々は勝手に楽しんでいるから、好きにするといい」


 グランディエラ公に言われ、お母様を見ると、お母様は「お父様は任せておけ」と私にウインクをしている。



「アズール様、お庭をご案内いたしますわ」


 私は、笑いを噛み殺しいるアズ兄様を連れ、ガゼボを後にした。


 黙ったまま二人で席を立ち、ガゼボから離れ、そのまま庭園を歩き、互いの両親の声が聞こえなくなった頃、どちらからともなく、



「プッ、クスクス」

「フフフ、アハハ」


 ふたりは、実はずっと笑いをこらえていた。



「ティトのお父さん、なかなか面白いね」


 アズ兄様は、お腹を押さえて笑っている。


「まさか、お父様があんなにも泣き虫だったなんて……それにグランディエラ家と、仲が良いなんて聞いていませんでしたわ」


 お母様同士は、お茶会で一緒になるとは聞いていたけど……


「父親は宰相としての立場上、表立って個人的に付き合うのが難しかったのだと思う」


 そうよね……特別扱いは難しい立場だわ。


「俺が女の子が苦手じゃなかったら、もっと早くにティトには会っていたんだろうね」


 アズ兄様がシュピネル家への来訪を嫌がったため、公に会うことは難しかったようだ。


「……もし会っていたら、もっと早くに婚約することになっていたのでは?」


 どう転んでも、私はアズ兄様と婚約することになっていたのかもしれない。


「両親たちを見る限りそうなってただろうね。

 もしそうだったら、ティトは俺に秘密を教えてくれたのかな?」


 アズ兄様は首をかしげた。


 ——どうかしら?


「決められた婚約者だったら、私は猫をかぶっていたかもしれませんわ」


 きっと、婚約者として当たり障りない距離感だったんじゃないかしら?


「ヘルグ兄様のおかげで、よくわからないまま仲良くなったから、気兼ねなく付き合えるようになったと思うし」


 それにきっと、婚約者がいたら、ヘルグ兄様とも仲良くなっていなかっただろうな。


「だよね。僕もそう思う。噴水でティトに出会って、そのあとに倒れたと聞かなかったら……こんなに仲良くなれなかったと思うよ」


 アズ兄様はニヤッと笑って、昔のことを掘り返した。


「……過去を掘り返すのは、紳士的ではないと思いますわ」


 私はムッとしてアズ兄様を睨みつけた。


 その時——


(ティト! ティト、今、念話つなげられる?!)


 ひどく慌てた様子の念話が届いた。


 ——ヘルグ兄様?


 普段、ヘルグ兄様が念話を飛ばしてくることは滅多にない。


 しかも今日は、アズ兄様と婚約のための顔合わせだと知っているのに、その時間に念話を送ってくるなんて、よほどのことだろう。


(ヘルグ兄様、どうしました? アズ兄様にもつなぎますか?)


 アズ兄様は、私が能力を使っていると見抜いたのか、こちらを見ている。


(ああ、頼む。ちょっと厄介だ)


(ヘルグ兄様、アズ兄様にもつなぎましたわ。厄介って、何があったの?)


(なんだ? 王子が事故にでもあったのか?)


 アズ兄様の顔に緊張が走った。


(違う。なぜか俺は今、シュピネル家に向かっているんだ……)


(は? ヘルグ兄様が? なんで?)


(お前……まさか……)


(アズール、勘違いするな。俺にその気はない。シュヴェルト様だよ……)


(え? シュト兄様? なんで、シュト兄様がヘルグ兄様を呼ぶの?)


 意味がわからず、私は混乱してしまった。

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