旧知の仲だった?
ジャスミンの甘い香りが漂う庭のガゼボで、両家の顔合わせのお茶会をする。
そのように表現すると堅苦しく感じるが、
実際は、かなり和気あいあいとしていた。
「パーティー以外でこうやって4人で揃うのは、どれぐらいぶりかしら?」
お母様は少女のようにはしゃぎ、お父様はそれを嬉しそうに見ていた。
「そうね? 出産後は色々と重なったし、立場もあったから、お互いの家に行けなかったわ。
息子だけが、いつの間にかお邪魔していたみたいだけど……」
アズ兄様のお母様は、いたずらっ子のように目を細め笑っている。
「本当に驚いたわよ。下の双子が乳離れして、ようやく子連れで会えると思っていたのに……
それすら叶わなかったはずが、いつの間にか仲良くなってるんですもの」
お母様はそう言って、物言いたげにチラッとアズ兄様を見る。
「その件は母から伺いました。私の我儘で申し訳ありません。
当時はかなり女性に嫌悪感があり、警戒心が強くなっていたので」
アズ兄様は、苦笑いしてお母様を見ていた。
「仕方がなかったとはいえ、こうも仲良くなるなら、もっと早くに合わせればよかったな」
グランディエラ公も、通常であればなかなか見ることができないような、穏やかな笑顔をこちらに向けている。
「……いや、ティトにはまだ早いと思ったし、ほら、少し前まではフェルトシュパート卿の
ご子息にと考えていたと言っただろう?」
お父様は、グランディエラ公を恨みがましそうに見ている。
「なんだ? まさかここまで来て反対か? うちの息子になにか問題でも?」
グランディエラ公は、にやにやしながらお父様を煽っている。
「ぐぬ……何も問題がないどころか、良すぎて腹が立つんだ! こんなに優秀で、見た目も良くて、しかも……くそっ! ろくな文句すら言えんのだぞ?」
お父様はワナワナしながら叫ぶ。
それを見てお母様は、
「お気に入りだったヘルグラウ君に振られて、少し嫁ぎ先を心配していたのよ。
それなのに、娘がいつの間にかアズール君と仲良くなっていたから、不満なのよね?」
と、追撃している。
「ラヴェル、余計なことを言わんでくれ。そんなことより、アズール君、君は本当にこんなに早くティトと婚約してもいいのかい?」
お父様はキッとアズ兄様を見た。
お父様……お兄様がああなったのは、お父様のせいかもしれませんわ?
——なんて言うか、愛が重いです。
「シュピネル様、いいも何も、先日お伝えした通り、私は彼女以外と一緒になる気はないし、なれるとも思いません。どうか婚約を認めてください」
アズ兄様が、お父様に頭を下げた。
——この婚約は、家同士の契約のはず。
それなのに、アズ兄様は心を向けた婚約者として、私を迎えるために頭を下げてくれた。
心を向けてくれるというのなら、こちらも返すのが礼儀というものだ。
「お父様、私も婚約するなら、アズール様が
一番いいと思います。だからお願いします」
私も頭を下げた方がいいかしら?
そんなことを考え、お父様を見つめていたら
「……」
お父様は、黙ってはらはらと涙を流し始めた
お母様は、笑いながらお父様の涙を拭いてあげていたら、お父様は感極まったのか、お母様にガバッと抱き着き、おいおいと泣き始めた。
「あらあら、旦那様、まだ嫁に行くわけでもないのに」
困った人ね?と言いつつ、お母様は、おかしそうに笑っていた。
「ははは、ヴァインロートは相変わらず涙もろいな。二人とも知らぬ仲でもあるまい。
我々は勝手に楽しんでいるから、二人で好きにするといい」
グランディエラ公に言われ、お母様を見ると、お母様は「お父様は任せておけ」と私にウインクをして見せた。
「アズール様、お庭をご案内いたしますわ」
私は、含み笑いをしているアズ兄様を連れ、ガゼボを後にした。
黙ったまま二人で席を立ち、ガゼボから離れ、そのまま庭園を歩き、互いの両親の声が聞こえなくなった頃、どちらからともなく、
「プッ、クスクス」「フフフ、アハハ」
ふたりは、実はずっと笑いをこらえていた。
「ティトのお父さん、なかなか面白いね」
アズ兄様は、お腹を押さえて笑っている。
「まさかあんなにも泣き虫だったなんて……
それにグランディエラ家と、仲が良いなんて聞いていませんでしたわ」
お母様同士は、お茶会で一緒になるとは聞いていたけど……
「父親の宰相としての立場的に、表立って個人的に付き合うのが難しかったのだと思う。
俺が女の子を苦手としていなかったら、もっと早くにティトには会っていただろうね」
アズ兄様がシュピネル家への来訪を嫌がったため、公に会うことが難しかったようだ。
「……それは、もっと早くに婚約することになっていたのでは?」
どう転んでも、アズ兄様と婚約することにはなっていたようだ。
「両親たちを見る限りそうなってただろうね。
そうだったらティトは、俺に秘密を教えてくれたかな?」
アズ兄様は首をかしげた。
——どうかしら?
「決められた婚約者だったら、私は猫をかぶっていたかもしれませんわ。
ヘルグ兄様のおかげで、よくわからないまま仲良くなったから、気兼ねなく付き合えるようになったと思うし」
それにきっと、婚約者がいたら、ヘルグ兄様とも仲良くなっていなかっただろう。
「だよね。僕もそう思う。噴水でティトに出会って、そのあと倒れたと聞かなかったら……
こんなに仲良くなれなかったと思うよ」
アズ兄様はニヤッと笑って、昔のことを掘り返した。
「……過去を掘り返すのは、紳士的ではないと思いますわ」
私はムッとしてアズ兄様を睨みつけた。
その時——
(ティト! ティト、今、念話つなげられる?!)
ひどく慌てた様子の念話が届いた。
——ヘルグ兄様?
普段、ヘルグ兄様が念話を飛ばしてくることは滅多にない。
しかも今日は、アズ兄様と婚約のための顔合わせだと知っているのに、その時間に念話を送ってくるなんて、よほどのことだろう。
(ヘルグ兄様、どうしました? アズ兄様にもつなぎますか?)
アズ兄様は、私が能力を使っていると見抜いたのか、こちらを見ている。
(ああ、頼む。ちょっと厄介だ)
(ヘルグ兄様、アズ兄様にもつなぎました。
厄介って、何があったの?)
(なんだ? 王子が事故にでもあったのか?)
アズ兄様の顔に緊張が走った。
(違う。俺は今、シュピネル家に向かっているんだ……)
(は? ヘルグ兄様が? なんで?)
(お前……まさか……)
(アズール、勘違いするな。俺にその気はない。シュヴェルト様だよ……)
(え? シュト兄様? なんで、シュト兄様がヘルグ兄様を呼ぶの?)
意味がわからず、私はこんらしていた。




